第7話 白河さんは、こっち側


 「私、清澄くんにどう思われてるか分からないけれど……、いつもは、こんな簡単に男の人の家に上がり込んだりとかしないのよ。そんな、……軽い女じゃないし、隣の人なら尚更、何かあったら逃げ場ないじゃない?……それじゃ何で、私がアナタの事……信用してると思う?」



 ズボラすっぴんメガネとは思えない、色気のある顔で見つめてきた。



 「も、もしかして、……俺の事、一目惚れ、……とか?」



 ……ごくんっ、

 唾を飲み込んだ。



 「ププッ! あーっ、『うぬぼれ野郎』だーっ! そんなんじゃないわよっ」


 白河さんは俺の肩をバンバン叩き、


 「……私は最初に清澄くんを見て、

 『あっ、この人私の仲間』って思ったの」


 「えっ、何で?」


 「初めて部屋の前で会った時のリュックに『マジカルマイカ』のアミさんのアクセ、つけてたの見たもんっ! そして、この部屋っ!……あの棚、私の趣味のアニメと、ラノベばっかりじゃない? アクスタも被りまくりよっ!」


 ウンウンと頷きながら、


 「もう、確信したわっ! これは、同志でしょ?」


 「……アミさん、知ってるの?」


 「それはこっちのセリフよっ! あのアニメ、十年前のでしょ? しかも、主人公の『マイカ』じゃなくて『アミさん』、三話で、すぐいなくなったじゃない? ……『アミった』じゃない? そんなの未だにつけてるの仲間以外いないと思ったのよっ! 私だって、ほらっ」

 

 そう言って、ポケットから何かを取り出した。


 「あっ、『はむら』のキーホルダーだっ」


 「一番人気は『はむら』でしょ? 流石に今は、外してたけど、清澄くんがつけてるなら、また私もつけようかなぁ?」



 「白河さんも、……『こっち側』の人なの?」


 「同志よっ、改めて宜しくっ!」


 白河さんが手を差し出した。


 「宜しくっ、相棒っ!」


 両手でその手を固く握りあった。



 ーー



 「まさか、隣に仲間が出来るなんて思っても見なかったわ」


 白河さんは、持参したビールが既に三缶目に突入していた。


 「私もねー、アニメはもちろん、ラノベも読むし、声優さんも好きだよ」

 

 「俺と同じだっ! たまたま見た深夜アニメにハマって、それからはサブスクで色々見まくって、……そしたら『あっ、この声好きだなーっ』ってなったら、その声優さんのアニメを掘り起こして……、更にその声優さんのラジオ聴いて、仲のいい声優さんを知って、その人の出てるアニメも見て……」


 「わかるわぁ、無限ループよねっ!」


 「『アミさん』は、高校の同志が誕生日にくれたヤツなんだ」


 「そうなんだ、私、周りにこういうの好きな人居なくなっちゃってさー! 清澄くんが隣の部屋でホント嬉しいよ」



 それから二人で、お互いの好きなアニメ、声優、ラノベなど話は尽きなかった。


 ……気がつけば夜中の一時だった。


 「あっ、もうこんな時間っ? 明日仕事だっ! こんなに楽しかったの、久しぶりよー」

 「俺もですっ!」

 「それじゃーっ、またLIMEするからっ」

 「俺からもしますっ」



 「おやすみー」

 「うん、また次回っ!」



 

 こんな事になるなんて……。

 美味しいご飯が食べれて、趣味が合う隣人が出来るなんて、この引越し、何度も言うが大成功だ!

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