スカート初体験

 裕太はインターホンのモニタには、有川さんが映っているとわかると、テレビを消して慌てて玄関に向かい、ドアを開けた。

「松下君、白石高校合格おめでとう。」

「ありがとう。」

「いままで松下君の気持ちに気づいてあげられずごめんね。松下君が白石高校受けるって知って松下君の気持ちには気づいたけど、受験前だから動揺させるのも良くないかなと思って、ずっと黙っていたの。それで合格も決まって一緒の高校になるから、松下君に言いたいことがあったから来ちゃった。今、大丈夫?」

 裕太の胸の鼓動が速くなった。裕太の片思いの気持ちに気づいて、今日来てくれたということは、期待してしまう。


「松下君、女の子になりたかったんだね。先生からも聞いたよ、松下君が性と体の問題で悩んでるって。一緒の高校に行くのなら、相談に乗ってあげてって。」

 裕太は進路指導の時に、そのことを否定せずに言葉を濁したままで終えたことを後悔した。

「それでね、一緒の高校になるし、松下君が女の子になるのを応援しようかなと思って、クラスの女子にも声をかけて協力してもらったよ。」

 有川さんから渡された紙袋を開けてみると、スカートなどの女性ものの服が入っていた。

「松下君、あっ、いつまでも君付けはよくないね。松下さん?でもせっかく同じ高校に通うんだから親しみやすく、裕ちゃんでいいかな?私の事浩ちゃんって呼んでいいから。それでみんなにお願いして裕ちゃんのサイズに合いそうな、服譲ってもらったから着てね。」

 裕太の返事を待つことなく話し続ける有川さんに、誤解を解くことはできず立ちすくんでしまった。


「あら、有川さん、久しぶり。きれいになったね。」

「ご無沙汰しています。」

 有川さんは礼儀正しくお辞儀をした。

「立ち話もなんだから、家に入って。」

「じゃ、お言葉に甘えてお邪魔します。」

 有川さんは、きちんと靴を並べて家に上がり、リビングに向かいながら母と仲良く話し始めた。

 リビングに入ったところで、母との会話をいったん終え、裕太の方を振り向いた。

「裕ちゃん、せっかくだから着替えてきてよ。どんな感じか見たいし。」

 クラスの女の子に声をかけて、わざわざ持ってきてもらった有川さんに勧めを、裕太は断り切れず着替えることにした。

 

 部屋に入り、紙袋から服を出してみた。スカートとトップスが3着ずつとワンピースも1着入っていた。

 どれにしようかと迷うが、ピンクなど明るい色を着るには抵抗があったので、入っていた中で一番地味な黒のトップスと茶色のチェックスカートに決めた。

 着ていた服を脱ぎ、トップスを着てみる。袖のところが少し膨らんだデザインで男物にはない感じに戸惑いながら、いよいよスカートを履いてみる。

 初めてスカート履いた感想は、頼りないの一言だった。丈が膝までなく、スカスカな感じで、3月とは言え少し冷え込んでいる外気が直接太ももにあたる。そして、太もも同士が直接触れ合い、その温かさ妙に気持ち悪い。

 このままここにいても、しょうがないので母と有川さんが待つリビングに行くことにした。


 リビングにはいると、有川さんと母が仲良く話していた。裕太がリビングに入ると、二人とも話すのをやめて裕太の姿をじっと見つめた。

「あら、かわいい。」

 母親は褒めてくれたが、似合っていないのは自室の鏡でみて自分でわかってる。

「スカートの位置が違うかな?」

 そう言いながら有川さんは裕太のスカートの位置を調整した。

「おへそのちょっと上で、肋骨の一番下ぐらいになるようにしたらちょうどいいね。」

「たしかにちょっとの違いだけど、だいぶん印象がちがうね。」

 母親が感心したように感想を述べた。

「ありがとう、有川さん。じゃなくて、浩ちゃん。」

 浩ちゃんと勇気を出していってみたが、ちょっと恥ずかしい。

「やっぱりお尻にボリュームがないと女の子っぽくないね。明日、買おうね。」

「買おうねって?」

「明日有川さんにお願いして、買い物行ってもらうことにしたから。母さん、若い子のことわからないから、お願いしたの。有川さんごめんね。」

「いいですよ。予定空いてたし、妹ができたみたいで買い物楽しみです。」

 いつの間にか、明日浩ちゃんと買い物行くことが決まっていた。


「じゃ、明日10時ね。」

 そういいながら浩ちゃんは帰っていった。着替えるのも面倒なので、裕太はスカートを履いたまま過ごすことにした。

 リビングでテレビを見ていると、父が帰ってきた。スカートを履いている息子をみて、とくに驚いた様子はみせない。

「父さんは驚かないんだね。」

 裕太は立ち上がって、あえてスカートを履いている姿を父に見せた。

「まあ、会社でLGBTQの研修も受けているし、会社でもスカート履いている男性社員いるしな。自分の息子もその一人とおもえば、おどろかないよ。」

「そうなんだ。」

「そういえば、その男性社員、裕太と同じ白石高校出身だったな。」

 ハクジョ男子の先輩たちのおかげで、男のスカート着用に寛容な社会に少しずつなっているようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る