続・学校の制服がスカートだった件

葉っぱふみフミ

プロローグ 片思いの君と一緒に

 新緑中学校に通う、松下裕太は一人でお昼ご飯を食べながら3つ離れた席で女子グループとお昼ご飯を食べている有川浩子の話し声を、聞いていることがバレないように聞いていた。


 同じマンションに住む有川さんとは、小学校も同じで親同士の交流もある。

 小学校低学年までは一緒に学校に行って遊んでいたが、高学年になって男女の違いを意識するようになってからは、一緒には遊ばなくなり、学校に一緒に行くこともなくなった。


 思春期を経て裕太の有川さんへの感情は、仲の良い友達から好きな女子と変わっていた。

 しかし、年齢を重ねるにつれ美少女へと成長していった有川さんにとって、裕太の存在は同じマンションに住んでいる同級生以上のものではなく、話しかけられることもなかった。


「浩子、白石高校受験するんだ。遠くない?」

「ちょっと遠いけど、電車で30分ぐらいだし、なんとかなるよ。」

 有川さんと他の女子たちの会話が聞こえてきた。そうか、有川さんは県内屈指の進学校である白石高校受験するのか。もし一緒に白石高校に行けたら、毎朝電車で会うことになり話しかけるチャンスもあるだろう、そして仲良くなれば付き合えるかもと中学生らしい妄想が膨らんできた。


 家に戻った裕太は、早速白石高校のことについて調べ始めた。進学校ということもありその偏差値の高さにも驚いたが、2年生男子の制服がスカートであることにもっと驚いた。

 高校のホームページをみると、女子校からの共学化を機にLGBTQへの配慮として制服のスラックスを導入するとともに、制服の男女指定の縛りをなくしたとある。

 裕太の通う新緑中学校でも女子のスラックスが導入されており、実際クラスの女子何人かはスラックスで通学している。


 つづけてホームページには、導入後女子でスラックスを履いてくる生徒はいるが、潜在的にスカートを履きたいと思っている男子生徒が存在しているはずなのに、男子でスカートの生徒はなかなか現れなかった。

 そこで2年の男子全員の制服をスカートにすることで、男子でもスカートを履きやすい雰囲気が作れることと共に、ジェンダーについて考えるいい機会となると書かれてあった。

 裕太は飛躍した論理の展開に戸惑った。脳裏に白石高校に行くことをあきらめることが浮かんできた。


 さらに裕太はSNSで白石高校のことを調べていくと、本当に2年生になると男子はスカートで通学するようになり、スカートを履いた男子生徒のことを『ハクジョ男子』と呼ばれていることを知った。

 白石高校に通う男子生徒は一学年に20名前後いるようだが、みんながトランスジェンダーというわけでなく、いわゆる『男の娘』で男だけどスカート履きたくて進学した生徒も半分くらいはいるようだ。

 そして男子の制服がスカートだったことについて、みんな口を揃えて良い経験だったと好意的な感想を述べ、批判的な意見は皆無だった。


 裕太に性の違和感も女装願望もなかったが、たった1年間、制服がスカートであることに我慢すれば有川さんと毎日一緒に通学できる。それに自分だけでなく他の男子もスカートだし、卒業生たちも好意的な感じだったし、自分もどうにかなるだろうと思えてきて、白石高校に行きたい気持ちに変わっていった。


 親に白石高校に行きたいことを伝えると、「あそこ男子の制服スカートだよ。大丈夫なの?」と心配されたものの、「一年間の我慢だよ。」と何でもないように装って押し切った。

 先生にも進路先を伝えると、「いつでも相談に乗るから、勉強の事でも、それ以外でも。」と、性と体の問題で悩んでいると思われてしまった。

 しかし、有川さんと一緒の高校に行きたいという本当の理由は話せないので、そのことは否定はせずに言葉を濁したまま進路相談を終えた。


 あとは勉強を頑張るだけとなり、ゲームや漫画の時間はもちろん睡眠時間も削り、必死の思いで白石高校合格を目指して勉強し続けた。

 その甲斐もあり、無事に合格でき、合格発表の時は思わず涙を流してしまった。もともと成績優秀だった有川さんも合格していた。

 合格後の入学説明会と制服の採寸を終え帰宅して、久しぶりに勉強しなくてよい時間を満喫しようとテレビをつけた時、玄関のチャイムが鳴った。

 インターホンのモニタには有川さんの姿があった。


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