第11話

「智樹、 今夜寝る時は、新しい布団を使いなさい」


 父が 新しい布団一式を買ってくれていた。


「ありがとう、お父さん」


「母ちゃん」「姉ちゃん」と呼ぶのに、 父親には少し距離のある呼び方だったが、父と息子とはそれぐらいであったほうがいいのだろう。


 姉と父は、 智樹をねぎらうつもりか、1番に風呂へ入れと言った。 久しぶりの実家の風呂。今まで住んでいたマンションのバスタブよりだいぶ広い。それでも小学生の頃はもっと広く感じた。姉と一緒に風呂へ入ったのもさらに昔のことだ。姉が小学生に上がると、母に代わって弟の入浴の手伝いと見守りをしてくれた。お風呂の姉離れを迎える前に別れることになった。


「バスタオルはこっち、 フェイスタオルはこちらに入ってるから。 ボディースポンジはこれ」


「わかった」


 姉が、勝手知ったる我が家の風呂場に案内してくれたが、一緒に入るとは言ってくれなかった。当たり前であるが、お色気系の深夜アニメやライトノベルではなぜ女性たちが主人公の背中を流してくれる大サービスをしてくれたりするものだが、現実ではそんなことにはならない。


 風呂から上がり、 居間で水分補給をすると、自室で寝床を確認する。すでに布団を敷いてくれていた。姉だろうか、父だろうか。新しい布団は寝心地が良さそうだ。


 階下では、他の家族が順番に風呂に入っている。智樹は明日着る衣類を枕元に置いた。 中学校を卒業して伸びるに任せていたため、いつもより髪が長くなっているが、ドライヤーで乾かすのに時間はかからなかった。スマホを充電しながら、寝転がって天井を眺めていた。


 この部屋は、子供たちが成長した際には、どちらかの部屋になる予定で、姉弟が同じ部屋を使っている間は、洗濯物を干したり、リネン室のような使い方をしていた。


 中学校を卒業し、高校の入学式を控える、ちょっと長めの春休みは智樹の中でだけ時間ものんびり流れている。


 それでも時間があれば、高校入学の準備として 予習と復習もしていた。もともとテレビゲームをしないたちだったから、 時間があっという間に過ぎていくと言うこともない。スマホゲームはなおさらやらない。 SNSは、Twitterよりもティックトックなどの動画サービスのほうが 中高生の間では人気がある。同じ年代の若者たちがダンスをしたり、工夫を凝らしたネタ動画を投稿しているのを見るのは楽しい。智樹の若者らしい一面だ。一緒に踊って動画を配信するような明るい友人はいないが。




 




 


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