生まれた場所

あいうえお

生まれた場所

 おはよう。五十年ぶりの目覚めはどうだ?


 現代技術なら、あんたの治療なんてちょちょいのちょいさ。世間話をしている間に完治する。おめでとさん。


 ってわけで雑談——そうだな、自己紹介でもしようか。


 あんたの担当医はこの俺、マックス・アハツェンだ。好きなものは酒、嫌いなものは野球。趣味は手術で、特技でもある。ちなみに恋人はいない。


 ああいや、あんたは名乗らなくていい。カルテに書いてあるからな。既往歴から病歴まで知っているよ。それで十分さ。


 なにか質問は?


 ……。


 どこで生まれたのか、だって? 随分と難しいことを聞くんだな。


 完成した場所のことなら、俺の身体はドイツで組み立てられたよ。


 でも、言うまでもないことだが、部品はそれぞれ別々の場所で作られてる。例えば脳はプジョー製で、心臓は日本ハム製だ。


 実は野球選手になるために生まれたんだが、生後一ヶ月で右肩を壊してしまってな——痛すぎて死ぬかと思った。嫌気がさして、転職を決めたんだ。それでこの仕事をするに当たって、両腕を器用さが売りのBMW製に替えた。


 おっとすまん、おしゃべりに夢中で自慢の手が止まっていたよ。


 そういえば、右足はどうする?


 四肢欠損者には無償で生の手足を生やしてやるのが、今の政府の方針なんだ。

 良さげなものを適当に見繕って取り寄せたんだが、最終決定権はもちろん、あんたにある。




 ——さあ、足がいい?

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