第10話 違和感

「お待たせしました」


 時間通りにたかむらさんが基地の外に出てくる。


「どこから行きます?」


「誰も向かっていないところから行きましょう。南のエリアの亡霊ゴーストがそこまで減っていないのでそこから向かいましょう」


「了解です。反転リバース


 俺は反転状態になる。


反転リバース


 篁さんも反転状態になる。遠くまで移動するのであれば、初めから反転状態になって移動した方が早い。心力マナを節約するのであれば、車で移動した方がいいが人員的に厳しいだろう。それに人の多い天馬地区では見られる可能性が高い。反転状態になり、普通の人には見えなくする方がいい。


「私が先行します」


 篁さんが地面を蹴り、ビルに向かってジャンプをする。そして、ビルをジャンプし目的地に向かう。反転状態でなくても心力マナの使用は可能だ。しかし、亡霊ゴーストには触れることはできない。


「分身も黒い霧をまとうんですか?」


「いえ。そこまではできないようです」


「……それは本当ですか?」


「ええ。一度も黒い霧をまとった分身に出会ったことはありません。それがどうかしました?」


「さっき分身は人を襲うって言っていましたよね」


「はい。言いましたが……」


「黒い霧は人を襲い奪った心力マナ亡霊ゴーストが元から持っている心力マナが混じりあっているものと言われます。人を襲っていないのであれば、黒い霧をまとっていないのも理解できますが、人を襲っているのであれば黒い霧をまとわないのは違和感があります。黒い霧をまとう方が姿を隠せたりメリットが多いはずなんですが……」


「確かに……言われてみると……。じゃあ……」


「あえてまとっていないか、まとえないか……はたまたそれ以外の理由があるのかはわかりませんね」


「分身だからまとえないってことも考えられますね。あなたはどう考えていますか?」


「俺はあえてまとっていないと考えています。鬼型の亡霊ゴーストは死神に分身を倒させるように誘導されている気がしているんですよね」


「そんなことって……」


「かといって人間を襲う以上放置することもできないので、俺達は倒すしかないですけどね……。どうも踊らされているような気がずっとしているんです」


「目的は何でしょう?」


「そこまでは……何とも。とにかく一度分身と戦わないことにはわからないこともあると思ってます」


「そうですね。もうすぐ亡霊ゴーストに遭遇します。私が補助に回りますので、銀崎さんにはコアの破壊をお願いしたいです」


「了解です。」


 1分もしないうちに俺たちは標的を見つける。


「これは……分身ですかね?」


「おそらくはそうです」


 建物の下には鬼型の亡霊ゴーストの分身がいた。基地で見た写真と全く同じだった。


「では、打ち合わせ通りにいきましょう。私が動きを止めます」


「お願いします。」


形成けいせい!!双子ツインズ一角獣ユニコーン!!」


 篁さんが二対のレイピアのような剣を出現させ、鬼型の亡霊ゴーストに向かって飛び込む。そして、亡霊ゴーストと向かいあい、黒いコートを脱ぎ捨てる。


(双剣か……)


「……ガァァッツ!!」


 篁さんに気づいた亡霊ゴーストが腕を振り落す。篁さんは後ろに大きく飛びかわす。


(自分から距離を詰めないか。隙が無いな……)


 鬼型の亡霊ゴーストは篁さんとの距離を詰めることはせずに様子をうかがっている。なかなか俺も飛び出せない。


「ならっ……!!」


 篁さんは右手に握っていた刀を投げる。


「!!」


「ウゥゥッ!!」


 鬼型の亡霊ゴーストは横にスライドして投擲されたレイピアをよける。篁さんは再度右手にレイピアを出現させ、距離を一気に詰める。


(ここだっ!!)


 俺はコートを脱ぎ、ビルから飛び降りる。 


形成クラフトっ!!スターティアー銀狼ウルフ!!」


 鋏を出現させ、戦闘準備に入る。俺は直感的に篁さんが考えていることを感じとった。


「グゥッ!!」


 俺は鬼型の亡霊ゴーストの分身の背後から鋏を10本ほど出現させ飛ばす。亡霊ゴーストは気づき避けようとするも、全部避けきれない。そこを篁さんが追撃をかける。


「はぁぁっ!!」


 鬼型の亡霊ゴーストの視線は完全に篁さんに向いていた。


(とった!!)


 俺は鬼型の亡霊ゴーストの背後から鋏を突き刺す。


「ガァァ……」


 鬼型の亡霊ゴーストの動きが止まる。


「今だっ!!」


「はいっ!!」


 篁さんが亡霊ゴーストの首を飛ばす。俺は鬼型の亡霊ゴーストの右胸にある緑に光るコアに向かって突き刺さっている鋏を上に引き上げる。


「ぁぁあああっ!!」


 俺の鋏はコアを破壊する。鬼型の亡霊ゴーストの動きはようやく止まる。


「ふう……」


「なんであのタイミングで飛び込んできたんですか?」


「すみません。早かったですか?」


「いえ……バッチリでした。どうして私の動きがわかったのかと思って」


「なんとなく……ですね」


「えっ……」


「まあ、あえて言うなら篁さんの動きが茜さんの動きに似てたからですかね」


「なるほど……。そういうことですか……」


「刀を投げる時の動きが茜さんと全く同じでした。茜さんならその後こう動くだろうなって思って俺も突っ込んだって感じです」


「さすが火村さんの兄弟子ですね」


「……聞いていたんですね」


「ええ。火村さんが楽しそうに話していましたよ」


「……それにしてもこいつ分身にしては強いですね。正直想像以上です」


 俺は消えゆく分身を見ながら話す。


「はい。基地の死神でも苦戦するレベルです。本体はこれ以上ってことを考えると……困っちゃいますね」


「ですね。さらに力をつけているってことを考えると……っ……」


「どうかしましたか?」


 俺は分身が消えた場所を見つめる。


「…………いえ……。なんでも……ないです」


「では次に行きましょう。南地区にはあと3体反応があります。近いところから潰していきましょう」


「了解です」


 その後、俺たちは鬼型の亡霊ゴーストの分身を5体と普通に発生した亡霊ゴーストを1体倒した。


「……おっ……と」


 俺は鬼型の亡霊ゴーストの分身を倒した後に身体がふらつくのを感じた。


「大丈夫ですか?」


「今、一瞬身体の力が抜けるような感じがして……」


「結構、心力マナ使ってしまった感じですか?」


「…………」


 そんなに多くの心力マナを使ったわけではない。むしろ、多くの亡霊ゴーストと戦ううえに、いつ鬼型の亡霊ゴーストと遭遇しても良いようのに温存していたぐらいだ。しかし、この疲労感はかなり心力マナを使ってしまった時の感覚だった。


「……篁さんは鬼型の亡霊ゴーストの分身と戦った後に、激しく心力マナを使ってしまったなと感じたことはありましたか?」


「そうですね……。確かに昨日倒した時にそう感じましたが……。それは私が手間取ってしまったからだと思いますが……」


「…………やはり……」


「何かわかったんですか?」


「他の人に話を聞かないと何とも言えませんが、現時点で俺が考えていることを話します」


 俺は鋏を手放す。鋏は地面に落ちるまでに消える。


「まず鬼型の亡霊ゴーストの目的ですが、それは死神から心力マナを奪うことではないかと思います。それであれば死神と分身を戦わせる理由になる」


「死神から心力マナを……?確かにできないわけではないですが、効率を考えるのであれば普通の人から奪うのが効率的ではありませんか?」


「確かに心力マナの量だけの話で言えばその通りです。しかし、心力マナの質となれば話は違ってきます」


「あっ……」


 心力マナは誰もが持っているものだ。しかし、死神と死神以外では質が全く違う。普通の人は心力マナという存在を認識しないまま使うことはしない。個人差があるが心力マナの保有量には限度があり、限界を超えると垂れ流す状態になる。多くの心力マナを垂れ流している人間は亡霊ゴーストに狙われやすい。

 逆に死神は攻撃、防御、移動など様々なことに心力マナを認識して使っている。死神の心力マナは初めから戦闘用に加工されているようなものだ。亡霊ゴーストを車に例えると、人から奪う心力マナは原油で、死神から奪う心力マナはガソリンというとわかりやすいだろうか。


「確かにすぐに戦闘に使うことを考えると……死神から心力マナを奪った方が効率がいいですね……」


「そういうことです」


 亡霊ゴーストが人間から心力を奪っても、それはあくまでエネルギーであって、一度自分の中に取り込んで自分の心力マナに変換する必要がある。しかし、死神から心力マナを奪えば自分の中に取り込む必要がなく、すぐに戦闘に使用できるというわけだ。


「死神から心力マナを奪うタイプの亡霊ゴーストの報告……数は相当少ないですよね?」


「ええ、数は少ないです。確か年に10件いかないくらいだったと思います。ただ、こんな手段で集めるタイプは初めてじゃないですかね?相当賢いですね」


「感心している場合じゃないです。すぐに皆が分身と戦うのを止めさせないと」


「……それはできませんよ。俺たちが分身と戦うのを止めると次は人間を襲うようになる。奴からしたらどちらに転んでもいいんですよ」


「そんな……どうすれば……」


「本体が出てくるのを待つしかないでしょうね。ただ、このままいくと出てくるのはステージ3になってからになりそうですね」


「ステージ3……」


 篁さんの顔が曇った。

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