三国志聖地巡りの旅ー大陸の土を踏んだら沼だった

神崎あきら

第1章 思いがけない縁

 まさか、三国志にハマるとは思っていなかった。

 中国という国にまったく興味が無かったし、武将名が覚えられない、地名も全然わからない。とにかく難しい、という印象で敬遠していた。

 あるとき、友人から勧められたゲームで三国志の物語を知り、突然ドハマりした。


 それから三国志について学ぶうちに、中国に三国志史跡があることを知った。中国の地名は三国時代とほとんど変わっておらず、現在の地図に当時の戦場や街の名前などを見つけることができる。


 私は曹操が好きで魏の都、許昌きょしょうに行ってみたいと夢見ていた。許昌は中国内地、河南省に位置する。上海や北京と違い、河南省がどんな場所なのかまったく想像がつかない。


 中国を知る友人に聞くと、内地は治安が悪いとか、貧しくてスーパーのショーケースに全然商品が並んでいないとか不安な話ばかりで、一人で行くなんてもってのほかだと止められた。

 私は海外旅行には団体ツアー参加程度の超チキン野郎だ。すべてお膳立てされた状態でしか海外に行ったことがない。そんな自分が未知の中国内地に行くことができるだろうか、いや絶対に無理だ。


 そんな矢先、曹操墓を訪問するツアー企画を発見した。これは奇跡の出会い、渡りに船だ、私は光の速さで申し込みをした。メジャーな旅行社だし、曹操は日本で人気のある武将だ。ツアーが満席ではないかと心配すらしていた。


 しかし、申し込みから1週間、さっぱり連絡がない。梨の礫とはこのことだ。

 旅行社に問い合わせてみたところ参加者が集まらず、催行不能ということだった。


 このときの絶望たるや、がっかりしすぎて無気力になる日が続いた。

 曹操墓は通常の中国観光ツアーでは絶対に行かないマイナーな場所だ。また募集があるのだろうか、それはいつか、行ける日は来るのか。悶々とした思いをSNSで呟いた。


 ある日、SNSにダイレクトメッセージが入っていた。

 相手は何と許昌在住の日本人で、大学で日本語教師をしており、現地の三国志遺跡を案内してくれるという。あまりのことに心臓が飛び出るかと思った。


 そんな美味い話がこの世の中にあるのか、まずそれを疑った。旅行ド素人の私を騙そうとしているのではないか。いやまて、許昌に行きたいとかいうトンチンカンな奴をピンポイントで詐欺にかけるのは異様に効率が悪い。


 思い悩んだ末に、先生に質問を浴びせかけ、本当に善意で案内してくれるということが分かったので、意を決してお願いすることにした。


 これが私の価値観を変える人生の転機となった。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る