ワタシのタシナミカタ

熟内 貴葉

ワタシのタシナミカタ

 最近、巷で取り上げられる鉄道好きにたくさんのジャンル分けが存在している。鉄道を撮るメジャーな方から、時刻表が好きな方。乗車することが大好きな方。駅弁をひたすら集める方。そんな界隈でも、まだ未開拓でニッチなファンもいることであろう。


 自分は本が好きだ。特に本の匂いが大好きだ。本自体はlikeで匂いはloveの方になる。自分で勝手に、古本の臭いを嗅ぐ行為はを摂取する人と何ら変わらないと思っている。その臭いを嗅げば、普段の嫌なことなど忘れてしまい、高揚と興奮する気分だけが脳内なかに残る。明らかに肺へ悪影響を与えそうな埃っぽさ。しかし、その中にある、インク独特のツンとした匂いと手垢で熟された古くなった紙の香り。それが入り交じれば、タバコよりも中毒性が高い。

 もちろん、図書館や本屋も好き。ウインドウショッピングするような感覚でふらりと寄る。本に囲まれただけで、自分は幸福感が溢れてしまう。誰でも、簡単に、安く入手できること。依存度はを摂取する人とは比でもない程だろう。


 このような身体からだになってしまう前も、母が、本には特段金額にケチることなく、欲しい本があれば買ってくれたし、小学生から図書館にあったシリーズものを読破したこともある。本格的になったのは、自分が中学生のころ、兄と一緒に梅田にある「かっぱ横丁」という通りに連れられたことがある。今ではずいぶん綺麗になってしまったが、当時は少々うす暗くディープな感じがあった。その通りには古本や骨董品の店がズラリと軒を連ねていた。そして兄と一緒にとある古書店に入ったところ、否応なしに店内の香りが鼻に入ってきた。瞬間、自分の脳には稲妻のような衝撃を受けた。害を与えそうな匂いなはずなのに、脳からはドーパミンがドバドバと溢れ出るのが分かるくらい堪らなくなっていた。本よりもその匂いに感動して、家に帰っても、母に食い気味に古本の臭いを熱く語ったことを覚えている。なぜこの臭いが癖になったのかはわからない。ただそれ以来、古本を買いに行くことになり、臭いを嗅いで束の間の幸福をキメることになったのだった。そのおかげかは断言できないが、大学では本好きな親友ができ、いまでも古本市があらば欠かさず集まる仲でいる。


 もしここに青木まりこさんがいたら、絶対に相性は最低最悪だろう。彼女は書店に行けば、必ずお手洗いに行きたくなってしまうという体質であるから。その現象の名前の元である彼女と共に行動するとなれば、お互い怪訝な表情で見合うだろう。なんでこの人は本屋に行ったら毎回トイレに行くんだ?なんであなたはそんなフガフガと本を嗅いでいるの?しかもニマニマしながら、と常に平行線のままであろう。


 ただ、これには欠点が一つある。本棚に収まるのも難しくなるくらい本が増えてしまったからだ。だから、自分と同じように本の匂いが大好きな方は、財布と場所と読破するスピードにくれぐれもお気をつけてご購入下さい。

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