第二章:四話

 今見ているのは春が終わり、夏を迎えたキャンパス内。多分、これは水曜日。水曜日の午前中、俺と彼は授業のない時間、いわゆる空きコマが被っていて、毎週その時間を共に過ごしていた。


大体が大学内に設置された全国的にチェーン展開されているカフェに入って、俺はコーヒーを、彼はクリームソーダを飲んでいた。


「こういう子どもっぽいというか、懐かしい感じのが好きなんだよ」と彼が言っていたのを覚えている。「まぁ、別に子どもの頃は全然クリームソーダ飲んでなかったんだけどな」と笑っていたことも。


ここ数日、これまで見てきた映像の中で、まだ彼が昏睡状態へ陥る兆候は見つけられていない。


このカフェで過ごしている時間も、当時の毎週の日課のようなものだったから、もう何度も似たような映像を見た。


大抵は俺と蛍琉の二人で過ごし、時々他の人が登場する。この日は後者のようだ。


「あ、蛍琉! ちょうどよかった」


俺の背後から知らない声が蛍琉の名を呼ぶ。


「ん? あれ、はっしーか。どうした?」


「これ、借りてたやつ、返すわ。ほんとお前すごいよな。羨ましいよ」


声のした方、俺の背後へ軽く振り返ってみると、三人の生徒が立っていた。その三人はそれぞれ雰囲気がまるで違って、なんだかちぐはぐな印象を受けた。


一人は髪を赤く染め、だぼついたTシャツを緩めに着ている。一言で言うと派手だ。もう一人は明るい茶髪にくりっとした目も相まって、やんちゃ盛りの子犬のよう。最後の一人は黒髪、シンプルなシャツにカーディガンを羽織っている。肌の色が透き通るように白い。その彼は、三人の中で一番特徴がないのに、どこか特別な存在感を放っていた。


一歩前に出て、手にした何かを蛍琉に渡している赤髪の彼が、先程蛍琉が口にした”はっしー”、なのだろう。


「あぁ、役に立ったならよかった」


「うん。ありがとな。それじゃ」


「またなー」


立ち去る彼らの後ろ姿を見送ったあと、俺は徐に口を開いた。


「お前さ」


「うん?」


先ほどまで彼らに振るために挙げていた手を下ろして、蛍琉がこちらを振り向く。


「相変わらず変なあだ名付けてるんだな」


「あいつらは、はっしーとねっしーとポメ」


「……」


赤髪がはっしーで、茶髪がポメで黒髪がねっしーなのだという。果たしてネーミングセンスはどうなのだろうか。

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