第一章:五話
蛍琉は持ち前の明るさでクラスメイト達とは案外早く打ち解けた。だが一方で、クラスに出来上がっていた数組のグループのどこにも属さず、そのためか誰からも適度に距離を置かれているようにも見えた。
かくいう俺もそうした繋がりは苦手で、どこに属するわけでもなく、これまでは小学校からの幼馴染、
その二人はわりとクラスで大きなグループに属していたから、その恩恵で俺はクラスでとりわけ浮くようなこともなく、まぁまぁ居心地のいい環境を日々甘受していた。
ある日、明人と雄大の二人と喋っていたら、たまたまそこにいなかった蛍琉が話題にのぼったことがある。その時、明人は蛍琉について
「蛍琉はさ、なんだろ、掴みどころがないというか。子どもみたいな顔で笑ってる時もあれば同い年じゃないんじゃないかってくらい達観した雰囲気の時もある。仲良くなりたいけど上手く距離詰めれないんだよなぁ」
と語っていた。そしてついでとばかりに彼は言葉を続けた。
「でもさぁ、お前と蛍琉の組み合わせって意外だよ。はたから見たら全然違うのにさ。それなのになんか二人でいるとしっくりくるっていうか。お前、そんな顔もできるんだなって思った。俺、今のお前の方が好きだわ」
「え?」
どんな顔をしていたのか知らないし、そんないい顔をした覚えもない。気になったが明人はそのことについてこれ以上コメントする気はないようだ。自分で気づけということだろうか。
「あ、もちろん昔のお前も好きだぞ。あれ、なんかこれ、俺結構恥ずかしいこと言ってない?」
一通り言った後できょとんとした表情をする明人に
「あぁ、言ってるな」
雄大が真顔で返す。途端に焦り始めた明人は意味もなく両手を眼前でぶんぶんと振った。彼は考えるより先に口が動くタイプだ。
「あぁ、もう何の話だっけこれ」
「お前が蒼馬のこと大好きだって話だろ」
「違う! いや、違わないけど! 茶化すなよ雄大!」
そのままにしておいたら二人のコントが開催されてしまった。この二人はいつもそうで、打てば響くような会話が見ていて微笑ましい。
「蒼馬も黙ってないでなんとか言えよ」
子犬のような顔をしてこちらに助けを求める明人の姿に、俺は自然と笑いがこぼれた。
俺自身、俺と蛍琉の組み合わせは意外だった。でもなんとなく、蛍琉は初登校の日から自然と俺と一緒にいるから、気がつけばそれが当たり前みたいになっていたのだ。
特に何をするでもない、学校に来て授業を受けて、大人しいと思っていたら時々授業中にちょかいをかけてくる。先生にバレた時は何故か俺まで注意された。帰りはよく一緒に帰った。特に約束していたわけでもないが、ほとんどの場合が自然とそうなっていた。帰る途中、よく自販機の飲み物を買って、適当な場所でそれを飲みながら休憩をした。
そんな普通の日々。
ただ一つ、俺たちの間に他と違うことがあるとしたら、それは音楽だった。蛍琉の席に、彼の自前のウォークマンとイヤホンを置いて、向かい合わせに座る。そうして、俺たちは一日に一度は音楽の話をした。
彼が作った曲を歌わされたこともある。歌詞はないから「タ」とか「ラ」とか適当な言葉で。最初は恥ずかしいからと抵抗していたが、彼に押し切られる形で一度メロディーを口ずさんでからは、もうそれはなし崩し的に。
口では毎回嫌だと言いつつ、歌い終るたびにこの曲に歌詞が付いたらもっと素敵なんだろうなと思う自分がいた。
放課後、残って音楽室でピアノを弾いたこともたびたびあった。大抵はオーケストラ部が音楽室を使っているから、彼らの練習が終わったあと。そうなると必然的に遅い時間になった。
あっという間に季節が過ぎて、そうしてきっと、当たり前みたいに三年間を蛍琉と共に過ごして卒業するんだと思っていた。
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