07.一流の寝取られ女は間男の脳も破壊する



「レイコちゃんは部活はもう決めたの?」

「う~ん、実はまだ迷ってるんだよね。文化系のどれかにしようとは思ってるんだけど……」


 中学生活が始まってから数日後、私は放課後の教室でクラスメイトの女子達とにこやかに雑談を交わしていた。

 今後、NTRルートの為にユウくんとフユキくんというイケメン二人を囲い込まなければいけないのだ。普通にやっていれば、まず女子からやっかみを受ける。余計なトラブルを避けるためにも、私は前世で培ったコミュニケーション能力で、早々にスクールカーストの上位に食い込むことに成功した。伊達に前世で間男としてカップルを寝取りまくっていないぜ。うーんゴミ屑野郎。


「ええ~、レイコちゃんって凄い運動出来るんでしょ? 勿体なくない? バスケとかバレー部の先輩からスカウトされてたでしょ」

「あはは、まあ多少は運動出来る方かもだけど、部活にするには私じゃあ根性が足りないよ」

「またまたご謙遜を~」


 お調子者っぽい女子の冗談めいた言葉に、私が困ったような微笑みを浮かべると、周囲の女子や異性とのコミュニケーションに物怖じしない陽キャの男子達も同調して、私を持ち上げ半分からかい半分でいじってくる。

 一見、とても微笑ましい光景に見えるが、私は脳内で冷ややかに状況を分析する。

 子供とて損得勘定ぐらい普通に出来る。私の幼少期から磨き上げた顔面偏差値と、一見善良に見える外面で殴りつけた結果、クラスメイトの少女たちの大半は、私と敵対するよりも、傘下に下って甘い汁を吸おうという方針を決定したようだった。男子については言わずもがなである。


「あ~あ、女子サッカー部があれば、レイと一緒に練習とか出来たかもなのにな~」

「レイちゃんとフユキくんは、よく一緒にサッカーしてたもんね」


 そんな事を言いながら、寝取り親友枠ことフユキくんと、愛しの寝取られ男ユウくんが、私達の会話に混じってきた。


「知ってるか? レイの奴、女子なのに普通に俺よりサッカー上手いんだぜ?」

「いつの話してるのよ。流石にもうフユキくんには勝てないってば」

「真面目な話、レイが運動やらないのはマジで勿体ないと思うんだよなあ。……なんなら、ほら。サッカー部でマ、マネージャーとかも有りなんじゃねえの?」


 おっと、これは芳しいNTRの香り。

 サッカー部のジャーマネとして、ユウくんに隠れてフユキくんとぐちょぐちょでねちょねちょの爛れた関係になるのも吝かではないのだが、残念ながら中学では寝取られる予定は無いので渋々辞退します。アドリブはガバの温床だからね。仕方ないね。


「う~ん、マネージャーかぁ……興味無い訳じゃないけど……」

「レイちゃん、そういう栄養管理とかコーチングの知識も凄い有るもんね。マネージャーになったらフユキくんやサッカー部の皆も喜ぶんじゃないかな?」


 ユウくん改造計画で、私にその手の知識が豊富なことを知っているユウくんが、フユキくんの援護射撃をしてきた。フユキくんの内心には全く気付いていないようで、寝取られ男に相応しい鈍感さと迂闊さである。好き。

 確かに、私のコーチング知識はかなりのものだという自負はある。ユウくんの特訓の為に専門書を何冊も読み漁っていたし、ユウくんに危険が無いか私自身の身体で人体実験もしているからね。一流の寝取られ女は知識においても妥協しないのだ。まあ、そんなことをひけらかすつもりは無いのだが。


「私のなんて所詮は素人知識だよ。顧問の先生とか先輩達みたいに、ちゃんと勉強している人には及ばないってば。ごめんね、フユキくん。やっぱり私は文化系の部活にしようと思うんだ。今日もこれから、ユウくんと色々見学に行くつもりだったの」

「そっかぁ。ま、無理強いする訳にはいかないからな。ユウキもレイも良い部活が見つかるといいな」

「うん、ありがと。それじゃ、行こっかユウくん」


 私はそう告げると、ユウくんの手を握って教室を後にするのだった。


「レ、レイちゃん。僕達もう中学生なんだから、こういうのは……」

「大丈夫。私は気にしないから」

「ぼ、僕が気にするんだよぅ……」



「…………」


 私とユウくんの仲睦まじい様子を、フユキくんは沈痛な面持ちで見送っていた。

 爽やかイケメンの曇り顔、たまらねえぜ。ご馳走様です。



 ***



「……はぁ」


 俺――来島くるしま 冬木フユキはユウキとレイの背を黙って見送ると、心の底に溜まっていた昏い感情を吐き出すように、ため息をついた。

 ユウキもレイも大切な友達だ。それは本心からそう思っているし、その関係性はずっと続くと思っていた。

 ……だが、日に日に美しくなっていくレイと、そんな彼女を追いかけるように逞しくなっていくユウキに、いつしか俺は逆恨みとも言えるような嫉妬心を抱くようになってしまっていた。


 ユウキよりも早く、俺がレイと出会っていれば。

 彼女の幼なじみがユウキではなく俺だったならば。

 今、彼女の隣であの小さな手を繋いでいたのは、ユウキではなく俺だったのではないか。


 そんな醜い内心に激しい自己嫌悪を感じながら、俺は天を仰いだ。


音虎さんレイコ立花くんユウキって滅茶苦茶仲良いよね~」

「いやあ、あの距離感は間違いなく付き合ってるでしょ。完全に夫婦って感じじゃん」


 ユウキとレイが教室から離れると、先程まで彼女の周囲に居た女子達が俄に騒ぎ出した。

 止めてくれ。そんな話を俺に聞かせないでくれ。


「ねえねえ、来島くんフユキは音虎さん達と小学校同じだったんでしょ? やっぱり二人って付き合ってるの?」



「……あ~、いや、あの二人はそういうのじゃねえよ。レイの奴がユウキに一方的に世話焼いてるだけでさ。恋人っていうよりは殆ど姉弟って感じなんだよ」


 そんな事実と願望が入り混じった醜い言葉を、自己嫌悪に灼かれながら俺は口にするのだった。


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