04.知らぬが仏
「ごめん、ユウくん。今日はちょっと用事が有るから、先に帰っててくれるかな?」
放課後、いつも一緒に下校しているレイちゃんが申し訳無さそうな顔で、
「そうなの? 何か僕に手伝えることが有るなら……」
「あー、ううん。そういうのじゃないから大丈夫。それじゃ、また明日!」
レイちゃんは早口にそう告げると、足早に教室を出ていった。
いつもと違う様子に、僕はほんの少しだけ首を傾げる。
「……一人で帰るの、久しぶりだなぁ」
レイちゃんと一緒に帰れないことを、少しだけ残念に思いながら帰ろうとする僕の背に、突然何かが伸し掛かった。
「ユーウキ! 一緒に帰ろうぜー!」
「うわわっ!? ふ、冬木くん?」
振り返ると、そこには数少ない僕の友達である
サッカー部のエースで爽やかイケメンである彼と、インドア派の僕という共通点があまり無い不思議な組み合わせだが、レイちゃんという共通の友人を切っ掛けに、僕達は友達になったのだ。
これでも意外とウマが合う関係で、彼は僕のことを恥ずかしげもなく"親友"と呼んでくれている。レイちゃんと同じぐらい大切な僕の友達だ。
「うん、僕はいいけど……サッカー部はどうしたの?」
「あー、実は体育でちょっと足を捻ってさ。大したこと無いんだけど、念のためって休まされた」
「ええっ! だ、大丈夫なの!?」
「ハハッ、だから大したこと無いんだって。大げさだなユウキは。……ところで、レイの奴は?」
冬木くんがきょろきょろと周囲を見回して、彼にとっても親友であるレイちゃんの姿を探す。
僕が事情を説明すると、彼は怪訝な表情を浮かべた。
「レイの奴がユウキより優先する用事、か……なーんか怪しいな」
「怪しいって何が?」
「あいつだったら"一緒に帰りたいから、用事が終わるまで待ってて"って言うか、長引きそうな用事だったら、お前に内容を説明してから行きそうなもんだろ? レイのユウキに対する過保護っぷりは異常だからな」
「う、うーん……そうかな……」
「そうだって。……机に鞄は置いていってるし、レイの奴、学校の中には居るんだろ? ……よし! ユウキ、ちょっと探偵ごっこしようぜ! 追跡だ追跡!」
テレビドラマの影響でも受けたのか、キラキラとした目でそんな事を言ってくる冬木くんに、僕は及び腰になってしまう。
「ええ~……そんな事して、レイちゃんに怒られないかな……」
「そん時は一緒にごめんなさいすればいいって。ユウキだって、レイが隠れて何してるのか気になるだろ?」
「う……そ、それはそうだけど……」
そんな感じで、断りきれなかった僕は冬木くんに引っ張られるように、レイちゃんの行方を探ることになった。
「
何件目かの聞き込みで、レイちゃんが屋上に向かったらしい情報を入手した僕と冬木くんは、忍び足で校舎の屋上へと向かった。
「……おっ、レイの奴が居たぞ」
屋上に繋がる扉を、音がならないようにゆっくりと開けた冬木くんが、レイちゃんの姿を見つける。
近くへ寄るように手招きされた僕は、足音を立てないように冬木くんの側に近寄ると、彼に促されるままに壁から屋上を覗き見た。
そこには、知らない男の子と二人きりで向き合っているレイちゃんの姿があった。
「ん? 一緒に居る男子は誰だ? あれは……確かバスケ部の奴だったかな」
「…………う、うん。そうだね」
冬木くんは怪訝な顔をしているが、僕は何が起こっているのか一瞬で察しがついた。
当然のことだが、レイちゃんはすごくモテる。
そんな彼女が屋上で男子と二人っきりなら、何が起きているのかなんて考えるまでも無かった。
「……冬木くん、もう行こう」
「え? でも……」
「お願いだから……」
僕は声が振るえないように、必死に歯を食いしばって、冬木くんとその場を離れようとする。
相手の男子はとてもカッコイイ顔をしていた。僕なんかよりも、余程レイちゃんとお似合いだ。
……このまま、ここに居たら僕はきっと惨めさのあまり、泣き出してしまう。
「俺と付き合ってくれないか?」
レイちゃんと向き合っている男子の声が聞こえる。
嫌だ。これ以上、ここに居たくない。僕は致命的な言葉を聞く前に、耳を塞ごうとする。
しかし、僕が行動するよりも早く、レイちゃんの声が響く。
「ごめんなさい。君とはお付き合いできません」
耳に届いた声に、僕は思わず固まってしまった。
「……何でだ」
「それ、言わないと駄目ですか?」
「……アイツか? いつもお前の近くに引っ付いてるアイツか? あんな勉強も運動も出来ない、地味で根暗な奴の何が良いんだ!」
激昂するように叫ぶ彼が、誰のことを言っているのかなんて、僕が一番よく分かっている。
別に僕とレイちゃんは恋人同士では無いが、彼がそんな風に言ってしまうのも仕方ないだろう。
面と向かってハッキリと言われたことは無いが、誰がどう見ても僕とレイちゃんは、何もかも釣り合いが取れていない。
……そんなことは、僕が一番分かって……
バチンッ!!
空気が破裂するような音と、呆然と彼女に張られた頬を押さえている男子の姿が、そこにあった。
「ユウくんを馬鹿にすることは許しません!!」
「あ、な……」
「私にとって、ユウくんは何よりも大切な、掛け替えの無い男の子なんです! 初めて出会った日から、ずっとずっと、大事に大事に想ってきた、誰よりも大切な人なの!」
初めて聞く彼女の感情を爆発させた声に、きっと僕は頬を張られた彼よりも衝撃を受けていた。
何よりも大切だと。
初めて出会った日から、ずっと想い続けてくれていたと。
僕は思わず、走ってその場から逃げ出した。
「ちょ、ユ、ユウキ!」
背中に聞こえる冬木くんの声も耳に入らない。
自分が今、泣いているのか、笑っているのか、それすらも分からない。
こんな無様で情けない自分を、彼女は何故それほどまでに大事に思ってくれているのか。
その答えはやはり僕には分からない。
「……それでもっ!」
その想いに相応しい人間になろう。
彼女の隣に立てる男になろう。
僕が彼女を"自慢の幼なじみ"だと思っているように、彼女も僕を"自慢の幼なじみ"と胸を張れる存在になろう。
彼女の優しさに甘えて、変わろうとしなかった自分を終わりにしよう!
この日、きっと
***
「…………あっぶねー、思わず早々にNTRルートに入るガバをする所だった……」
ビンタで戦意喪失した男子を追い払った
いくら何でも、小学生の段階でNTRルートに入るのは早すぎる。
流石にここまで幼いと、NTR後の広がりが極端に薄くなってしまうし、NTRの脳破壊に必要な、ユウくんの熟成が全く足りていないことなど、分かりきっているというのに……
極上の
そんな流されそうになる自分を抑え込むために、さっきのよく知らん男子には勢いで酷いことをしてしまった。反省。
だが、悪いのは私じゃない! ユウくんだ!
実は私はかなり早い段階で、ユウくんが隅からこちらを覗いていたのに気付いていたのだ。
大好きな幼なじみが、よく知らん男に奪われそうになっていることを察したユウくんのその
ああ、今すぐ君を……壊したい……♥
まあ、ヒソカごっこはこれぐらいにしておこう。
自分を戒める意味でも今後のNTRルートについて再確認することにしようか♣
いまいちヒソカが抜けきっていないが、私は屋上の床に座り込むと、瞑想の姿勢に入った。
ちなみに、この世界でもHUNTER×HUNTERは未だに休載中である。悲しいなあ。
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