03.僕の幼なじみはとてもかわいい
僕――
「おはよう、ユウくん」
「ふぁ……おはよう、レイちゃん」
早朝。家の前で欠伸を噛み殺す僕に、まるで花が咲いたような素敵な笑顔を向ける女の子。
彼女の名前は
「あっ、ちょっと待ってユウくん。寝癖付いてるよ。直してあげるからジッとしててね」
「い、いいよ、別に寝癖くらい……」
「だーめ。ほら、動かないの」
彼女は世話好きだ。
僕の何処を気に入ってくれたのかは分からないが、幼い頃から消極的で、幼稚園にもイマイチ馴染めていなかった僕に声を掛けてきてくれたあの日から、彼女は少しばかり過剰な程に、僕に親身に接してくれている。
彼女のおかげで幼稚園にも、小学校にも馴染めたところが有るし、その事には勿論感謝しているのだが……
「ほら、じっとして」
「ち、近いよレイちゃん……」
女の子にお世話されるのが照れくさくて、距離を取ろうとする僕を、レイちゃんはしがみつくようにして拘束してくる。
僕もレイちゃんも、もう小学6年生だ。
身体のあちこちが女の子らしくなってきているレイちゃんの感触に、僕は頬が赤くなっているのを悟られないように俯いてしまう。
「あらあら、いつも悪いわねぇレイコちゃん。
「おはようございます、おば様。ユウくんのお世話は、私が好きでやっている事だから気にしないでください」
最近、特にレイちゃんとの関係を冷やかしてくる母とレイちゃんの会話に、僕が身を小さくしている間にも、レイちゃんは何処からか取り出した霧吹きとブラシで、僕の髪型を整え終えていた。
「はい、おしまい。うんうん! 今日もカッコイイよ、ユウくん♪」
「あ、ありがとう。レイちゃん……」
……臆面もなく褒めてくれるレイちゃんには申し訳ないが、僕の容姿は正直あまり褒められたものではない。
同年代の男子と比べても平凡な顔立ちに、肥満とまでは言わないが少し弛んだ体型。
隣に立つレイちゃんは容姿端麗で文武両道の人気者。クラスどころか学校一の美少女なんて言われているのに、それに比べて僕は……なんて自己嫌悪に陥るのは日常茶飯事である。
「ユウくん? 早く行かないと遅刻しちゃうよ?」
そんな僕の思考を掻き消すように、レイちゃんの温かい手が僕の手を掴む。
「わ、分かってるよぅ。だから、手を離して……」
「それじゃ、行ってきますね。おば様」
「はーい、車に気をつけるのよ~」
僕の言葉が聞こえていないのか、無視しているのか。レイちゃんは掴んだ手を離すことなくズンズンと前を歩き出す。
彼女の柔らかい手の感触にドギマギしながら通学路を進む僕達を、すれ違った何人かのクラスメイトが冷やかしてくる。
「おっ、今日も夫婦仲がよろしいことで~」
「いやーお熱いですなぁ」
僕達ぐらいの年齢なら、男女が必要以上に仲良くしていれば、大なり小なり悪意的な絡まれ方をしやすいものだと思うが、僕達をからかう声には、そういった薄暗い空気は感じられない。
それもひとえにレイちゃんの明るく善良な人柄が、悪意を向けることを躊躇わせてしまうからなのだろう。
「も、もうっ! そんなんじゃ無いってば! 行こっ、ユウくん!」
頬を僅かに赤く染めたレイちゃんに、僕はほんの少しだけ自惚れそうになってしまう。
愛とか恋とかは正直よく分からないが、少なくとも彼女に嫌われてはいない。自慢の幼なじみからそう思われている。そんな些細なことだけで、僕は自分のことが少しだけ好きになれそうだった。
「…………いい。いいぞ。周囲からのほぼ公認カップル。なんて強烈なNTR前フリなんだ……」
――一瞬、レイちゃんの顔がまるで別人のように歪んで見えた気がした。
「え、レイちゃん? 何か言った?」
「――ううん? 何も言ってないけど???」
僕の声に振り返ったレイちゃんは、きょとんとした顔をしていた。
……やっぱり何かの見間違いだったようだ。
皆の人気者で、とっても可愛くて優しい僕の自慢の幼なじみが、日曜朝に放送している特撮番組の悪の怪人のように見えたなんて……まだ寝ぼけているのかもしれない。
僕は眠気を覚ますように、自分の目をゴシゴシと擦るのだった。
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