第55話……補給作戦開始!

「クリシュナ発進!」


『了解! 機関第二宇宙速度へ!』


 マーダが持つ消えるミサイル兵器への対策もないまま、クリシュナは整備を終え、惑星アルファを出航。

 二度のワープを果たしたのち、ユーストフ星系外縁に舞い戻って来た。



「こちらクリシュナ、A-22基地応答せよ!」


『こちらA-22基地、どうぞ!』


 クリシュナの通信モニターから、A-22基地の喧騒が伝わってくる。

 基地は活気があり、特に士気が落ちた様子はなかった。



「補給物資の搬送を予定通り行う!」


 通信モニターに応じるのは、基地副指令のトムだった。



『了解でさぁ、ご帰還を楽しみにしておりやす!』


 クリシュナは速度を上げつつ航行。

 惑星アーバレスト目指して、第三宇宙速度を維持したのだった。




☆★☆★☆


 惑星アーバレストの重力圏には、マーダの艦艇が100隻以上展開していた。

 それに対するは、それより若干多い人類側の解放同盟軍の艦隊。


 双方とも長対陣の為、エネルギー補給などの都合から、惑星アーバレストの昼時間の方角にて対陣していた。

 これにより、恒星ユーストフからの電磁波にて電力補充。

 ……その他、簡易植物栽培などのプラントにより、ビタミンなどの補給も兼ねていた。


 そのため、クリシュナは惑星アーバレストの夜側の面から忍び寄る。

 解放同盟軍の艦船と連携が取れないこともあり、マーダの主力艦艇と交戦を避けるのが目的だった。


 惑星アーバレストの夜側の衛星軌道上はマーダの警戒網は緩く、偵察艦と駆逐艦等が数隻いるだけだった。



「良し、惑星降下用意! 耐熱シャッター閉じよ!」


『了解!』


「対電磁波ステレス航行開始!」


『赤外線吸収システム始動!』


 小気味良い戦術コンピューターとの応答により、クリシュナは隠蔽工作を進め、速度を保ったまま惑星アーバレストに降下した。

 クリシュナの外殻には、隙間なく岩盤を張りつけ、一目見るだけでは隕石の落下を思わせる大気圏進入だった。



『高度2万、逆噴射ブースター始動しますか!?』


「まだ早い。5000まで堪えろ!」


『了解!』


 濃密な大気圏に侵入するころには、隠蔽用の岩盤はほぼ焼け落ち、代わりに銀色のクリシュナの外殻部が摩擦熱で赤くなっていた。



『現在、A-22基地上空。高度1500!』


「逆噴射、出力最大。重力制御装置稼働!」


『了解!』


 クリシュナは赤熱しながら、A-22基地の傍の海面に突っ込む。


 巨大な体積を持つために、莫大な水しぶきと、海面に大きな波紋を広げながらの派手な着水であった。

 勢いあまって一度は海面下に潜ったあとに浮上し、補助動力にてA-22基地の岸壁に無事着岸した。



「敵影はあるか!?」


「敵影なし!」


 暗闇の中、索敵担当のコンポジットからの返答に、私は笑みを浮かべた。

 作戦は成功であった。



「よし、積み荷を運び出せ!」


「了解!」


 今回のクリシュナの船倉は、A-22地区への補給物資が満載されていた。

 基地の傍に新しく建造された居住コロニーへの補給も必要だった為、船倉のみならず、燃料タンクや格納庫にまで補給物資を詰め込んできた。



「急げ!」


 マーダのことがあり、夜時間のうちに積み荷を降ろしたい。

 基地職員と船員の共同作業により、夜を徹しての積み下ろし作業となっていた。



「司令、お久しぶりです!」


 私を出迎えてくれたのはレイとトム。

 というか、今の基地司令の役は彼等なのだが……。



「基地の防衛役すまんな!」


「いえいえ、物資が届くならいつまでも守り通してやりますよ!」


 トムは顔を皺くちゃにしながら、にこやかに応じてくれた。


 A-22地区は塹壕と鉄条網だらけとなっており、以前の荒廃した砂漠といった感じが無くなっていた。

 それはレイやトムがよく頑張っている証拠でもあった。



「……で、司令。帰りはどうなさるのですか?」


「……ああ、それなんだが、全く考えてない!」


 レイが心配することも全くのことであった。

 宇宙空間から惑星へは自由落下で降下できるし、隕石に扮しての隠蔽もできる。


 ……だが、逆に宇宙空間への自由落下は出来ず、重力に抗する大きな推力が必要。

 また、隕石に扮しての隠蔽など問題外であった。


 当然に離陸すれば、マーダの索敵網に引っかかる。


 敵の戦力は数隻とはいえ、例の謎のミサイルへの対抗策も未だに無かった。

 まさに『行きは良い良い、帰りは怖い』といった状況であった。



「……まぁ、何とかなるだろ!」


「なりますかね?」


 不安そうなブルーの肩を叩き、久々のA-22基地への帰還。

 懐かしい面々と挨拶を交わし、しばしの再開を祝ったのだった。




☆★☆★☆


――翌朝。



「機関始動!」


『エンジン出力、大気圏脱出モードへ!』


 積み荷を降ろしたクリシュナのエンジンは、周囲の空気を震わせ、けたたましく始動。

 岸壁から外海に進み出て、一気に脱出する予定だった。



「敵影確認、偵察機です!」


「!?」


 ……だが、しかし。

 離水する前に、アッと言う間にマーダの航空機に見つかってしまった。


 敵機はA-22基地からの対空砲で撃墜したが、連絡は為されていると考えるべきだ。



「クリシュナ発進!」


 惑星アーバレストからの強硬脱出の開始であった……。

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