第36話……人造物の恋

 ドライアイスに覆われた惑星アルファ。

 ウーサのいる宇宙船アルファ号のあたりめがけて降下する。


 クリシュナの降下に際し、凄まじい量の炭酸ガスが舞い上がる。

 着陸後、私はすぐさまウーサの【なんでも屋】の扉を叩いた。



「イラッシャイマセ! ア、先輩!? 会エテ嬉シイナ!」


「邪魔するよ!」


 ロボットのウーサは、寂しがり屋だ。

 私がやってきたことに嬉しそうだ。

 ……まぁ、信じられないほどの期間を放置されれば、誰だってそうなるに違いないが……。



「御水ヲ、ドウゾ!」


「ありがとう」


 御水をくれるウーサの手は、銀色の機能美にあふれる無機質なものだ。



「……コンナニ早ク、ドウナサッタノデス?」


 ウーサの目がピコピコと無機質に光る。



「実はさ、……」


 私は、炎の惑星から出てきた龍の化けものについて、詳しくウーサに語った。

 ウーサが楽しそうに、私の話を聞いてくれる。


 そんなウーサを、私は好意を持ちはじめていたのかもしれない。

 ……ウーサの見かけは二頭身のブリキのおもちゃみたいなのだが。


 しかし、確認しようにも、人造物同士の愛というものを、私は聞いたことが無い。



「燃料ハ手配シマスヨ!」


「あ、ありがとう」


 ウーサが燃料貯蓄システムにアクセスしてくれ、クリシュナへの補給を許可してもらった。



「旦那、腹減りませんか?」


 隣でブルーが、お腹が減ったと言ってくる。

 そう言えば、私もお腹が減っていたのを忘れていた。



「……ああ、そうだな。ウーサ、何か作れるか?」


「ハイ、今日ノメニューハ、コチラデス!」


 差し出されたメニューは、古ぼけた羊皮紙に、インクが滲んだような文字が並ぶ。

 全然読めなかったので、『おまかせ』と頼んだ。



「ワカリマシタ!」


 ウーサの声は機械音で、色っぽさがかけらもない。

 そんな声に、私は聞き惚れていた。


 見たこともない形の卵が割られ、黄色い穀類とともに炒められる。

 目の前の鉄板で調理される卵料理を、ブルーとあっさりと平らげた。



「御馳走様! また来るわ!」


「次回ノ、オ越シモ、オ待チシテオリマス!」


 ウーサは事務的な言葉を並べ、それに対し、私とブルーは手を振った。



☆★☆★☆


「なぁ、ブルー」


「なんですかい、旦那?」


 私は補給作業を終えた帰り道、ドライアイスの地表を歩きながらブルーと話す。



「好きな相手には、何を贈ったらいいかな?」


「普通は花とかじゃないですかい?」


 ブルーは鼻をブヒと鳴らす。



「いや、人間じゃないんだよ、相手は……」


「……は?」


 ……しかも、相手は男性か女性かも不明な、単純な作業ロボットだ。

 多分、男女の定義さえもないだろう。



「旦那、もしかして……」


「その、もしかしてだ」


 私は照れ隠しに『ははっ』と笑い、頭をかく。

 ブルーは凄く困惑した様子だ。



「単純作業ロボットに惚れる人とか、初めて聞きましたよ!」


「まぁ、確かにな……。まあ、また来た時に考えるとするか」


「そうしましょう」


 ブルーは、『明日には私が目を覚ますだろう』というような表情をする。

 確かに、そうなることもまた、一つの可能性だった。


 私達はクリシュナを発進させ、再び新たな未知の星系へと足を向けた。




☆★☆★☆


『ワープアウト完了、艦内正常!』


「OK!」


 クリシュナは再び、未知の星系の外縁部に到達。

 ここは黄色い恒星が輝く、ごくありふれた星系のようだった。



――ガコッ


 クリシュナに小さな小惑星が当たる。


 ……!?

 すぐに私は異変に感づく。



「なんだあれは!?」


 普通、頑丈なクリシュナの船体に当たった岩片は、脆く崩れ去るものだが、今回当たってきたものは、クリシュナの方が凹んでしまった。



「旦那、超硬質物質のようですぜ!」


 ブルーがセンサーからの情報を報告してくれる。


 ……て、まてよ。

 私は艦橋内部の上方にある、メインモニターで外の様子を確認する。

 案の定、クリシュナの周りは、小さな硬質の小惑星だらけだった。



「あれ、全部か!?」


「……そ、そのようです!」


 星系外縁部は、よく小惑星の小さいものが沢山浮遊しているものだが、今回はそのほとんどが超硬質な物体ということだった。



「これを全部避けて通るなんて不可能だ! 各砲塔に砲撃準備をさせろ!」


「了解です!」


 ブルーと、クリシュナの戦術コンピューターに指示を出す。

 私は左手から、情報伝達用の生体触手を這い出させ、クリシュナの戦術コンピューターと有線リンクさせる。



「砲撃開始!」


『了解! 砲撃モード始動します!』


 クリシュナに搭載された3つの砲塔がくるりと回り、次々に小惑星に向けて発砲。

 砲塔式のレールガンは、艦首のビーム砲ほど威力は無かったが、その小回りの良さから、次々に周囲の小惑星を破壊していった。



『撃破確認! 砲撃停止します!』


「OK!」


 戦術コンピューターの報告により、砲撃は止み砲身の冷却作業がはじまる。

 これによって危険なサイズの小惑星は無くなった。


 艦橋に窓から外を覗くと、小さなアメジスト欠片のようなものが沢山浮遊していた。



「旦那、あれをウーサにプレゼントしてみては?」


「そうだな!」


 ブルーは冗談で言ったようだが、私は船外スーツを着て、この硬質の物体の中でも奇麗なものを選んで採取した。


 ……私は過去にも、同じようなことをしたことはない。

 これが人間の言う恋というモノだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る