第25話……英雄勲章と安酒

「……あ、すぐに取り掛かります!」


『頼んだぞ!』


 フランツさんに、ホテルでのんびりしていたことを叱られる。

 どうやら、惑星ドーヌルでの治安活動は上手く行ってないらしい。

 治安悪化に伴い、人身売買などの犯罪組織も暗躍しているとのことだ。


 ベッツにすぐに電話をしたが、奴は出ない。

 ……やはり謀られたか。


 やつの意図はなんなのだろう?

 しかし、そんなことは二の次だ、先ずは汚名返上せねばならなかった。



「ブルー行くぞ!」


「あいよ、旦那!」


 私はぬるま湯の生活から抜け出し、急ぎクリシュナへと戻る。

 再び油と硝煙の匂いがする鉄臭い世界へと戻ったのだった。




☆★☆★☆


――二週間後。



「おら! 仲間の居所を吐け!」


 私は捕まえた麻薬組織の男を相手に、仲間を売るよう脅していた。

 机を激しく叩き、暴言も浴びせる。



「こいつなにしやがる? 暴力反対だ! 人権委員を呼べ!」


「ふざけんな!」


 私は麻薬組織の下級幹部と思しき男を殴る蹴る。

 人権なんか知ったことか、迷える民衆に悪魔の薬を売る奴らに人権なんてない。



「どうしても言わないんだな?」


 私は奴らが保管していた違法麻薬を原液のまま注射器に入れ、そいつの腕へと宛がった。

 そうすると、相手の顔色はすぐに変わった。



「……や、やめてくれ! なんでも言う、それだけはお助け!」


 この薬がどれだけヤバいかの証左だ。

 きっと二度と正常に戻らない悪魔の薬なのだ。

 そして、コイツは洗いざらい組織のことを吐いた。



「ブルー、次へ行くぞ!」


「あいよ!」


【システム通知】……北西12kmに違法麻薬検知。


「OK!」


 私は正規部隊がやりたがらない様な悪質な犯罪組織を重点的に相手にし、非合法なやり方で人身売買組織など248件のアジトを灰にしていった。



「……ちょっとやり過ぎたかな?」


「いやいや、まだまだヌルいでしょう?」


 私はブルーの返答に頷き、ガソリンの小川に煙草を捨てる。


 我々が歩き去る背後で大爆発が起きる。

 それは、249件目のアジトが丸焼けになった瞬間だった。



 こうして治安維持活動をサボっていた私は、次の250件目でようやくフランツさんに褒められるまでに至った。


 ……ベッツの奴め、覚えていやがれ。


 しかし、狡賢いベッツの奴は、今回の治安改善の功績でドーヌルの首席閣僚にまで出世。

 今すぐに手の出せる相手ではなくなっていた。


 まぁ、罠に嵌った私も悪いのだろうけど、彼もなんらかの意図で私の行動を妨げたはずだ。

 それもあまりよくない理由で……。


 まぁ、いつかは明らかになるであろう話であった。




☆★☆★☆


――二か月後。



「カーヴ殿の素晴らしき功績を讃えます!」


「はっ」


 500件目のアジトを爆破したところで、ドーヌルの政府から【英雄勲章】を貰う。

 あまりの手際の良さにドーヌルの当局も驚いたらしい。

 非合法であれなんであれ、手柄は手柄だということなのだろう。



「犯罪に立ち向かうカーヴさんは、とても勇敢ですな!」


「あはは、恐縮です。が、さほど勇敢ではありません」


 ユーストフ星系内に中継される衛星TVに、惑星ドーヌルの首班であるエーレンフェスト氏との会談中継が流れた。

 治安維持の小さな英雄としてだ。

 わずか3分ほどだったが、とても恥ずかしかった。


 受賞式にはベッツの姿はなかった。

 アイツを一発殴ってやりたいのだが、私と顔を合わせないようにしているらしかった。




☆★☆★☆


 その後も私とクリシュナは犯罪組織の撲滅に尽力。

 さりとて、紛争や治安悪化の原因は、移民増加による居住地や耕作地不足。

 対処療法としての限界があった。



「……後は政治の仕事だろう」


「ですな!」


 小さな安酒場で紫煙が頭上を燻らす。

 木製の小さなテーブルの上には、蒸留酒の入ったグラスとつまみの干し肉。


 もちろん、この星でも肉は貴重だ。

 よって、安物の人造肉かもしれないが……。



「親父、もう一杯ロックで!」


「こっちはストレートで」


「あいよ!」


 私とブルーは、煙草を咥えながらにグラスの酒を飲む。

 惑星ドーヌルの町にも、行きつけの安酒場が出来たのだった。



「親父、ツケを払う。清算してくれ!」


「お出かけですか?」


「ああ、また来たいがね……」


「お待ちしております」


 私は安酒場のマスターに、いくらかのチップを上乗せし、紙幣と銀貨を支払う。

 それをマスターは黙って受け取った。


 席を立った後、木のテーブルと椅子がギィと鳴る。

 高級ホテルも良いが、なんだかこういう雰囲気も捨てがたいものだった。



――翌日。


 フランツさんにことわって、3000名の地上部隊に先立ち惑星ドーヌルを離陸。

 私は治安維持の任務に、少しの汚点と奇麗な勲章を手にした。



「司令! 聞きましたよ、二人で良いもの食べてたんですってね!?」


 艦内に響くレイの声色が冷たい。



「確か、昨日は安酒だったよな? ブルー」


「ええ、そうでしたね!」


 私はブルーを共犯者に仕立て、レイの尋問を潜り抜ける。

 クリシュナは深淵の宇宙の暗闇を跨ぎ、一路惑星アーバレストへと帰還している途上であった。



 窓から見る宇宙の闇は果てしなく深い。

 私がすこしくらい遊んでたっていいじゃないか。


 ……言い訳がましい私の独り言だった。

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