第17話……マーダ星人の言い分


 ……ハァハァ。


 私は周囲を警戒しながら、宇宙船の出口に向かっていた。

 緊張感から、背中に冷や汗が流れる。

 走りたい感情を必死に抑え、暗闇に支配された通路を目を凝らして進む。


 この宇宙船の残骸は、明らかに敵の巣だ。

 虎口ともいえる。

 しかし、ここさえ出れば何とかなる自信もあった。



「……ん!?」


 通路の向こうに、僅かだが星の灯が見える。

 やった出口だ!


 私は思わず警戒を緩め、出口めがけて駆けだした。



 ……しかし、その時。


――ズドン!


 突如、頭上の空調窓口からの発砲に、私は慌てて飛びのくも、敵のエネルギー銃弾に左手を貫かれ、激痛のあまり持ってきたブラスターを思わず手放す。



「つ、痛ぅ……」


 私の左前腕から機械油が勢いよく滴る。

 これでは握力はほとんど期待できない。

 というかこの場合、丸腰になったほうがはるかに大問題であった。



「アハハ、馬鹿メ。油断スル、コノ時ヲ待ッイタゾ!」


 マーダ星人の隊長格が、天井の空気ダクトより飛び降り、笑いながらに私に止めを刺そうと近づいてくる。



「貴様らは一体、何故に人間を攻撃する!?」


 私は負傷した左手を抑え、最後の頼みとばかりに質問してみた。

 意外なことに、マーダ星人が口を開く。



「我々ノ使命ガ、貴様ラノ滅亡ナノダ! ソモソモ貴様ラ人間ガ先ニ、我々ヲ滅ボソウトシタ!」


「なんだって!? そんな話は初耳だぞ!」


「……チ、要ラナイコトヲ教エテシマッタカ! マズハ死ンデカラ考エルンダナ!」


 マーダ星人の眼がひと際一層妖しく光ると、その場が更に明るく光り輝く。

 それはマーダ星人の銃口より早く、私の開いた口から放たれた光だった。



――ズガシャァアアア



「ギギギ……ギャー!」


 私のとっておきの隠し玉。

 口腔の奥に仕掛けてあった超小型の荷電粒子砲に、マーダ星人の頭部が一部吹き飛び、顔も無残に焼かれる。



「貴様、卑怯ナ……グフ……」


 ごちゃごちゃ喚くマーダ星人の頭を、落としたブラスターで撃ち抜き黙らせる。

 更に踵で喉元を踏み砕き、絶命を確実とさせた。



「ふふふ、卑怯だと? 軍配者にとっては誉め言葉だな!」


 私は左手の応急手当をした後に外に出ると、クリシュアで待つブルーに連絡。

 安全策として、クリシュナに迎えに来てもらうことにした。


 暫くすると、雲の分け目からクリシュナの巨体が夜空に浮かび上がる。



『旦那! 無事でしたか?』


「ああ、なんとかな!」


 私は艦内で傷の応急手当をした後、再びブルーが作ってくれた温かい夜食にありつけたのだった。



――翌日。


 この宇宙船の残骸にはドーヌルの軍隊の調査隊が情報収集に訪れる。

 私はこの案件についての事情説明で、更にドーヌルに2週間釘付けにされたのであった。




☆★☆★☆


――3週間後。



「ただいま戻りました!」


「ご苦労様です!」


 私は惑星アーバレストに戻り、ライス伯爵邸に顔を出すと、車いす姿のフランツさんの姿があった。



「あ、フランツさん、もうお体はいいのですか?」


「いや、医者に言わせると、まだなのだがね。カーヴ殿も惨事だったと聞いたぞ!」


 フランツさんが屈託のない笑顔を浮かべる。



「ええ、少し不覚をとりましてね……あはは」


 私は再びの不覚の事態に、苦笑い。



「いやいや、こうして私も君も生きている。これこそが君の成し得た結果だよ」


 気のせいか髪の毛の白さが増し、少しやつれた感のあるフランツさんに肩を優しく叩かれる。



「私の身に何かあったときは、お嬢様を頼むぞ!」


「いやいや、縁起でもないことを仰らないでください!」


「君の気持もわからんではないが、私は歳のせいで、そう長くは前線に立てないだろう。過去のネメシス等のこともある。頼む……」


 私はとても困ったが、フランツさんに怪我を負わせた負い目があった。



「わかりました」


「そうかそうか! これで安心して療養が出来るわ!」


 快活そうに車いすを操る老人に、そうなるであろう事態が、近くないことが予想された。

 ある意味とても頼もしそうな後ろ姿であった。



 私はその日、地下の総司令部に宇宙機雷の設置成功を報告。

 その他、惑星ドーヌルでマーダ星人より襲撃を受けたことも併せて報告した。

 ……まぁ、フランツさんがいないので、上官たる人が、ほぼいない総司令部ではあるのだが。



「カーヴ様。今晩のご予定はありますか?」


 ライス伯家のメイドさんに予定を聞かれる。



「いえ、ないですよ!」


「よろしければ、お嬢様が夕食にご招待したいとのことです!」


「ありがとうございます。是非にもお招きに与ります!」


 その晩、私はセーラさんに慰労を兼ねての夕食に招かれる。

 左手の傷が痛かったが、実はご馳走目あての私は快諾。


 今回のメインデッシュは魚のムニエルであった。

 こんがりとしたバジルとバターの風味が堪らない。


 不覚にも、私の舌の抗堪力はボロボロにされていた。


 前菜のカルパッチョやスープも美味しかった。

 残った料理は折詰に入れてもらい、クリシュナで待つブルーに持ち帰った。


 ブルーは地球連合軍の料理人だが、凝った料理は作れない。

 こうやって味を覚えてもらい、更なるスキルに磨きをかけて欲しいものだったのだ。

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