第16話……情報士官、白髪のアバト

 再びユーストフ星系の第4惑星ドーヌルへと向かう。

 クリシュナは今のところ、大気圏でも宇宙空間でも比較的順調に稼働していた。


 しかし、この先、この世界への対応には疑問が残ることがあるのだが、いまは考えないでおこうとこの時思った。



『重力圏進入!』

『大気圏突入、4分前!』


『艦内空気圧正常! 重力制御システムスタート!』


 クリシュナは大気と擦れ、艦を赤く染めながら、ドーヌルの宇宙港へと降り立ったのだった。




☆★☆★☆


「これでようございますかな?」


「はい、有難うございます!」


 情報交換会は2時間で終了。

 情報自体は通信で送れるので、各種情報の証拠になる物体を授受した他、懇親などをおこなった。

 相手の情報士官は白髪の目立つ初老の男性【アバト】であった。



「カーヴさんとお知り合いになれたことですし、この後ご一緒に、夕食でもいかがですかな?」


「よろこんでお招きにあずかります!」


――二時間後。

 我々は少し古風なレストラン【王風亭】の客人となる。


 美味しいスープから始まり、生魚と野菜の前菜を頂き、メインは子羊のグリルであった。

 素材とソースが美味しい店であり、もう一度来たい味であった。


 ……食べ終わった頃合い、



「実はカーヴさんに、お願いがありまして……」


「はい、なんでしょう?」



 アバトさんが言うには、マーダ連邦の宇宙船の多くも、このドーヌルの地に墜落しているらしい。

 その宇宙船の一隻を一緒に見に行ってもらえないかという打診だった。



「かまいませんよ!」


「では、すぐに行きましょう!」


 ……え?

 今すぐに?


 夜も更けており、少し疑問に思ったのだが、この地に降り立った理由の半分はアーバレストとドーヌルの友好親善である。

 断る理由は無かった。


 帰りが遅くなるとクリシュナで待つブルーに連絡。

 そのままアバトさんが運転する車に乗り込んだ。


 惑星ドーヌルの地は主にサバンナ気候。

 砂漠地帯のアーバレストに比べて若干緑が多く、それゆえに養える人口もやや多かった。



「あれですよ!」


「ほう!」


 居住コロニーから車で走ること3時間半。

 月明かりの逆光で、巨大な宇宙船の姿が浮かび上がる。


 アバトさんに従い、巨大な宇宙船の中へと進む。

 意外にも船内は奇麗にされており、非常灯の赤い光のみで通路がしっかりと歩けた。



「そこで少し待っていて下さいね」


「わかりました」


 途中、何故だか私を待たせ、アバトさんは先行していく。

 その姿が見えなくなった頃。



【システム通知】……危険! 高エネルギー反応!


 副脳が危険を知らせてきた。

 同時に非常灯が落ち、周囲が暗くなる。



――ビシッ


「!?」


 それと前後するくらいに、背後から3本の赤い光条が飛んでくる。

 レーザー銃だろう。


 ……実際には光条は4本だったようだ。

 そのうちの一本が私の左わき腹に命中していた。


 ドクドクと赤い体液が流れ出る。

 慌てて冷凍スプレーを吹き付けて止血する。



【システム通知】……生命維持区画にダメージ。

 治療が必要。

 長時間の交戦は避けてください。

 以後、ステレスモードへ以降。

 デジタル迷彩を行います。


 私は脇腹を抑えながら、物陰へと身を隠す。

 更には、相手の眼やセンサーに誤情報を与え、私の姿が見えにくくする迷彩を施す。

 これで相手には私の姿が、周囲の景色と同一化して映るはずだった。


 ……少し物陰で落ち着いた後。



「カーヴさん大丈夫ですか!?」


 後ろを振り返ると、アバトさんがいた。


 ……くそっ!!

 私は血の気が引く。

 何故、こいつは私の姿が容易に判別できるのだ!?



「貴様は誰だ!?」


「……え? 何を仰っているのです?」


 シラを切る初老の老人に、私は素早く腰に装備していた高周波ナイフで切りつけた。


 ザクっと嫌な音がした後に、老人の皮膚の下から紫色の皮膚が姿を現す。



「……バレタカ!?」


【システム通知】……自動翻訳スタート。

 以前に敵性と認定されているタイプの言語です。


 副脳が危険を知らせて来る。

 そうこうするうちに、アバトさんの皮膚を破られ、中から紫色のマーダ星人が出てきた。

 その眼は怪しく黄色く光る。



「貴様! その老人をどうした!?」


「2週間前ニ食ッタヨ、オイシカッタ。貴様トノ晩飯ヨリモナ!」


「……ちぃ」


 青い舌で舌なめずりをし、私を嘲笑うかのような敵性生命体。

 情報によると、こいつらには外交の余地があまりない。


 とにかく人間生命体を滅ぼすことが、唯一の生存目的のような奴らだった。

 普通はそういうことはまずない。

 自分たちの利益を求めて相手を攻撃することが常だ。

 私が今まで戦ったことが無いタイプの相手だった。



「……貴様ハ、ドコカラ食ワレタイ?」


「ほざけ!」


 私は距離をとり、別の物陰へと身を潜める。

 ナイフを構えたまま、周囲の気配を察するに、私は数名のマーダ星人に取り囲まれているらしかった。


 ……どうしたものかな?

 とりあえず、あの老人の皮を被っていたやつは難敵だ。

 このマーダ星人たちの隊長格だろう。


 ……まずは、他の雑魚から殺してやる!


 私は老人の皮を被っていたマーダ星人とは反対方向に走り、左手に構えたエネルギーブラスターで敵のいそうな場所を撃ちまくる。



「ギエエェェェ!」

「ガァァア!」


 暗闇からマーダ星人の断末魔が聞こえる。

 悪いが113年も最前線で兵隊をしていたのだ。

 新兵が隠れそうなところは大体わかる。


 ……相手の弱点。

 それは相手も自分の命が惜しい、高度な知的生命体であることだった。

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