第3話……契約締結 ~初任務は失敗!?~

「ところでお主、モノは相談なのだが……」


「はい、何でしょうか?」


 館に戻るなり、老人に問われる。

 メイドに出されたお茶の湯気が周囲に香る。



「我々解放同盟軍は、膨大な戦力を持つマーダ連邦軍に苦しめられているのだ。我々と一緒に戦って頂くわけにはいかないだろうか?」


 老人は丁寧な口調で誘って来た。

 先ほどの食事中に、私は兵士だと告げていたのだ。

 『戦い』とは、まさに私の本業でもあった……。



 しかし、念の為、副脳に確認をとる。

 地球連合軍の軍規違反の可能性があるからだ。


【システム通知】……この世界での行動は、軍の規則に規定がありません。

好き勝手にしてください。


 ……えらく投げやりな回答が戻って来た。

 よって、少し考えるも、申し出を受けることにした。



「ええ、帰るところもありませんし、構いませんよ。ただ……」


「分かっております。あの宇宙船をお返しすればよいのだな?」


 意外なことに、私の愛機もクリシュナも引き渡してくれるという。

 さらに、



「あと、お給料も必要だろう。高いお金は支払えぬが、とりあえずは日払いでよろしいかな?」


「ええ、構いません」


 どうやら、お金もくれるらしい。

 私は契約書にサインをする。

 副脳が通訳してくれた文面には、どうやら日雇い傭兵契約と記されているようだった。


 さらに分ったことは、この少女はライス伯爵家の当主であり、名はセーラ。

 この老人は、ライス伯爵家の家宰兼執事で、名はフランツというらしい。


 肝心のお給料は、一日当たり25000クレジットと書いてあった。

 これは高いのだろうか、安いのだろうか?

 皆目見当がつかなかった。



「……では、頼みましたぞ!」


「あ、よろしくお願いします!」


 こうして私は、ライス伯爵家に雇われた傭兵となったのだった。




☆★☆★☆


――翌日。

 朝食を頂いた後に、フランツさんが今日の仕事を持ってきてくれた。



「カーヴ殿、とりあえずこれをお願いしますぞ」


「なんでしょうか?」


 フランツさんに要請された用件とは、この星の野生生物の排除であった。

 この惑星はアーバレストといい、未開拓地がおよそ98%もあるらしいのだ。

 これを排除し、農業プラントを敷設したいらしい。



「このスペース・バイソンという野生牛を狩ればいいのですね?」


「そうです! 是非お願いしますぞ!」


 モニターにて説明された地図によると、この野生牛が荒野の開発を邪魔しているとの事。

 初仕事が牛の退治とは拍子抜けだが、給料分の働きはするべきだった。



「武器はとりあえず、これしかありませぬが……」


「ええ、なんでも構いませんよ!」


「できれば、肉も手に入れてくだされ!」


「任せてください!」


 私は、この世界でのはじめての仕事に意気揚々とする。


 しかし、手渡されたのは、レトロな火薬式の小口径銃だった。

 まぁ、牛を相手にするだけだ。

 なんでも大丈夫だろう。




☆★☆★☆


――三時間後。


 拍子抜け……、なんて思ったのが甘かった。


 現地で出くわした牛は、全長12m、全高6mもある巨大なものだった。

 しかも、数十頭で群れをつくっていたのだ。



――ダン


 とりあえず、遠くから頭を狙って撃ったのだが、全然効いていない様子。



「モウ!?」


 ……げ、バレたぞ。

 此方に気づいた巨大な牛たちが、土煙をあげ猛然と突進してきた。



「怖ぇぇ!」


 私は慌てて乗ってきた内燃機関式のジープに飛び乗り、アクセルを底まで踏みこんだ。

 流石に車の方が速いようであり、牛たちから逃げ延びたのだった。



「はっはっは! 駄目でしたか!」


「いや、その……」


 どうやら予想していた様で、フランツさんは快活に笑った。


 ……くそう。

 元・地球連合軍のベテラン兵士を舐めやがって。



 私は館の中庭におかれている銀白色の愛機から、長砲身ビームライフルを一門取り外す。

 そして、この対装甲車用の20mm長砲身を担ぎ上げた。

 流石の私の強化繊維ボディーでも、持ち歩くのは辛い重さだった。


 ビームライフルを先ほどのジープに乗せ、巨大牛たちのもとに戻った。

 そして、見晴らしの良い風下の丘陵に、急場用の二脚銃架を備えた。



 急ごしらえの照準器で狙いを定める。

 副脳で大気温や風力を測定。

 誤差修正を施し、重たいトリガーを引き絞った。



――ダンダンダン


 腹の底に響くような重低音が響き、明るい紫色の光弾が巨大牛に吸い込まれる。

 簡易の電磁防壁をも貫く、重粒子エネルギー徹甲弾だ。


 流石の巨大牛たちも吹っ飛び、その赤赤しい肉体と体液を四散させた。

 弾が無くなるまで撃ち尽くすと、高周波ブレードを構えて、弱った牛たちに止めを刺していった。



……任務完了っと!


 私は血まみれになった服装で館まで戻り、急いで大型のトラックを借りて、牛たちの肉を館まで持ち帰った。

 巨大牛が沢山なので、何往復もかけて次々に急いで運ぶ。

 常温で放置しては、すぐに傷んでしまうからだ。



「……おお? やりますな!」


「あはは」


 フランツさんに褒められ、私は照れ笑いを浮かべる。

 人に褒められるのは嬉しいものだ。


 その後は領内の精肉業者が手伝ってくれ、88頭あった牛はすべて回収された。



☆★☆★☆


「この牛の肉は固いのでね、ミンチにして食べるのですよ」


「……へぇ、そうなのですね」


 見ている傍から、精肉業者が機械にて次々にミンチ肉に加工してくれる。

 この惑星は砂漠と荒野がほとんどで、食糧事情はあまりよくないそうだ。


 よって、肉は有難い食料だそうで、喜んで持ち帰ってくれた。

 ちなみに、ライス家の大型冷凍庫にも沢山のミンチ肉が運び込まれた。



「お嬢様! しばらくは沢山の肉料理が食べれますな!」


「そうね、フランツ。そしてあのカーヴという男は使えそうね」


 二人が遠くでにこやかに話すのが聞こえる。

 私の耳は強化聴力が施されているのだ。

 どうやら、使える奴だと評価してくれているらしい……。



――その晩。


 私は愛機にビームライフルを戻し、油まみれになり愛機の整備を試みる。


【システム通知】……暫定的に飛行が可能と判別されます。

 しかし、運用には代替燃料が必要です。



 ……どうやら、燃料さえあれば再び飛べそうではある。

 が、愛機の燃料タンクには、複数の大きな破孔があったのだった。

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