第553話 再会?


「なんか面倒くさそうですね」


「同感」


 というわけで逃げましょうかと私と師匠が頷き合っていると、玉龍に首根っこ捕まれた。


≪おぬしら、世界の法則が乱れそうなときに逃げようとするでない≫


「いやいや、」


「私たちのせいじゃないし?」


≪おぬしらが気軽に大規模魔術を使うから、この世界の魔力が活発化し、あのような術も実現できてしまったのじゃろう?≫


「ぬぐぅ」


「うぐぅ」


 玉龍の正論にぐうの音も出ない私たちであった。いやまぁ「ぬぐぅ」とか「うぐぅ」という音は出たけれど。


 私はもちろんのこと、師匠もハーバーボッシュ法で大量の魔力を使いながら肥料を作っているからね。お酒のために。


 私たちにも責任の一端があるのは分かるけど……なんというか、面倒くさそうな予感がするのよ。長い人生経験から来る勘が警告を発しているのよ。


 うん、私と師匠がいるんだから命の危機的な意味じゃないけど……それと面倒くさいか面倒くさくないかは話が別。やはりここは逃げの一手を――


『――死者蘇生カルぺ・ディエムが行われたのなら、詳細を確認しなさい。これ以上世界のことわりが乱れたらどうするのですか? それが『力』を持つ者の責任というものです』


 プリちゃんの真顔ならぬ真声だった。う~ん、まぁ、無いとは思うけど、万が一ポンポンと死者蘇生が繰り返されちゃうと――生と死の境目が曖昧になっちゃうからね。


 死んでいないのならいくらでも治していいのだけど、死んでしまったのならその扱いはあちら・・・に任せるべき。その大原則を怠ると生と死が混じり合った状態になってしまう。

 まぁ『誰も死なない世界』を目指すならそれでもいいだろうけど、なんというか、不健全よね。せめて科学技術の発展でそこへと至りなさいな。


「……しょうがないなぁ」


 非常に嫌な予感がしたけれど、是非もないので私は目的地――大坂本願寺へと転移したのだった。







「あ、逃げられた」


 正確に言えば転移に付いてこなかった。うちの師匠が。そういうところだぞ。


 あとで師匠用のお酒を三ちゃんと愉快な仲間たちに分け与えましょう。そんな決意をしながら私が周囲を見渡すと――どうやら地下洞窟の中に転移したらしい。


 ついてきてくれたのはプリちゃんだけ。師匠はともかく、玉龍も来ないんかい。


『まぁ、(あなたに比べれば)か弱い龍ですし』


 か弱い龍って表現、初めて聞いたわ。

 あと副音声(?)がひどすぎる。


 それはともかく、来てしまったのだから最後まで調べないとね。


「う~ん……」


 洞窟内を大量の魂が動いた形跡がある。


 しかも、奥に向かっただけで、帰ってきた気配はない。


 まさか、未熟な術式を補完するために人の魂を使ったとか……? いやいやあり得ないか。魂なんて言うなればその人専門のエネルギー源。他の人に使ったところでほとんど吸収できずに浪費されてしまう。死者蘇生カルぺ・ディエムをやろうとすれば、それこそ数千人分の魂を無駄にしなきゃいけないでしょう。


 理屈の上では、そうなのだけど。


 あぁ、嫌な予感。


 一揆の死体が持っていた、魂が本願寺へと帰る術式が記されたお札。

 信者をわざと殺すかのような無謀な突撃と、少なすぎる補給物資。

 そして、D.P.(ダンジョン・ポイント)に変換されなかった7,000人分の魂。


 すべて、一つの可能性に繋がってしまう。


 たった一人を蘇らせるために、数千の命を犠牲に。


 正気じゃない。

 狂気ですらない。


 そんな行動を、一言で表現できる言葉なんて、ない。


 狂気を超えた狂気。

 信仰と呼ぶにはあまりにも歪んでいる。


 もしもそんなことを実行した人間がいるとしたら……。その人間には、きっと八大地獄すら生温い。死ぬことも許されず、消え去ることも許されず、永遠にこの暗い洞窟の中を彷徨うべきでしょう。


 そんなことをつらつらと考えながら洞窟の奥に進んでいくと――少し開けた場所に、

人影があった。


 一人は、妙に覇気溢れるご老人。


 もう一人は、どこかで見覚えがある少年僧。


 老人はまさしく『老いてなお盛ん』という感じ。なのだけど、見る人が見れば少し前まで骨と皮だけだったことが分かるでしょう。普通の人間とは根本的にズレて・・・いるのだ。


 ぎょろりと。


 首だけで振り向いた老人が、私を見て能面・翁面のような笑みを浮かべながら、言った。


「――おぉ! やはり帰蝶・・様であられたか! お久しゅう御座います!」


 いや、あんた誰よ?




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