第540話 さらっと重大情報


「……いや、まさか新九郎(道三)が何も話しておらぬとは……」


 頭痛が痛くてペインなのか額を押さえる久っちだった。なんかうちのハゲ坊主がすみません。


 うむむ、と。しばらく唸ってから久っちはお母様のことを語り始めた。


「帰蝶様のご母堂、里於奈リオナ様は室町幕府第10代征夷大将軍・足利義稙様のご息女であらせられまして」


 おっと、とんでもない発言が飛び出してきたぞ?


 里於奈リオナというのが私の母親の名前だとして? 足利将軍の娘? なんでやねん。


『足利義稙。あるいは義材、義尹と名乗っていた時期もありましたね。自ら軍を率い、将軍権威の回復を目指した人物でしたが……細川政元や日野富子らによる『明応の政変』によって退位。幽閉されますが、後に脱出して越中に逃亡。その後も将軍位を諦めることなく流浪を続け、流れ公方と呼ばれました』


 久々のプリちゃん解説であった。


『その後、大内義興の支援を受けて上洛、将軍再任を果たします。足利幕府において、征夷大将軍は15代まで存続しましたが……唯一、2度任官した人物ですね』


 将軍にカムバックしたと。たぶん凄いの……よね? この時代の近畿は失脚したり戻ってきたりが多すぎてなぁ。


『将軍になる前は美濃に滞在していましたから道三とも接点があっても……いえ、時期が微妙に噛み合いませんか。むしろこれは道三の生年に新しい説が誕生する可能性も……? そもそも道三の生年は没年からの逆算ですし……』


 久々に目を輝かせるプリちゃんであった。この歴史オタめ。


 いや、その足利何とかさんの人生は一旦脇に置いておくとして。その人が私のお母さんの父親となると――私、足利将軍家の血を引いてない? 義輝君の親戚じゃない? 気のせい?


『キャラが濃すぎですから、気のせいってことでいいんじゃないですか?』


 あまりにも投げやりなプリちゃんであった。まぁ将軍の孫でマムシの娘とか濃すぎるわよね我ながら。もうちょっと手加減してくれないかしら世界さん?


「拙者も出会った時期が遅かったので詳しい事情は知りませぬが……どうやら、新九郎めが里於奈リオナ様に惚れたようでして」


 一目惚れしたと? うっわ、美濃のマムシが一目惚れとか。なんだそのピュアストーリー。もうちょっと見た目の厳つさと中身の黒さを考えて行動して欲しいわよね。


里於奈リオナ様は帰蝶様と同じ銀髪で、まことに美しき女人でありましてなぁ……。歳は新九郎より上だったはずですが、二十を過ぎているようには見えませんでした」


 若作り、というよりは年を取らなかったのかしらね? まぁ銀髪ならもありなん。体内を流れる膨大な魔力が影響して老いにくいとされているからね『銀の一族』は。元の世界の初代勇者も1,000歳越えで20代前半にしか見えないし。


『あなたも〇〇〇ピー歳のくせに見た目だけなら10代半ばですものね』


 プリちゃんの発言に自主規制音が鳴った。どうやら世界が気を遣ってくれたらしい。よくやったわ世界、滅ぼすのは最後にしてあげましょう。


 あと、『見た目だけなら』ってどういうことやねん。私ほど若々しく溌剌はつらつとして心の青きこと初めて恋をした十代の乙女がごとき青春真っ只中な美少女はいないというのに。解せぬ。


『十代の乙女というか、アラサーで初めて恋をしたせいでまともな対応ができていないキャリアウーマンみたいというか』


≪積極的なくせに肝心な所で踏み込めないのが見ていられないというか≫


「年を取ってからの初恋で大ヤケドどころか全身火だるまというか」


 解せぬ。



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