第129話 仏は自分で動くべきだと思う(※帰蝶個人の感想です)


≪まったくとぼけた・・・・女だな。大恩ある観自在菩薩(観音様)からの依頼でなければ蹴り飛ばしているところだ≫


 いや踏みつぶそうとしたじゃん。メッチャ噛んできたじゃん。というかバトル中に蹴られた覚えもあるぞ? 馬だから記憶力がないのかなー?


 あと、観音様からの依頼って何? 私って一般人だから菩薩様に知り合いはいないわよ?


『……多神教とはいえ、神様が師匠なのは『一般人』じゃありませんね』


 師匠のせいで一般人判定から外れてしまったらしい。おのれ師匠、許さんぞ。


『そういうところです』


 こういうところらしい。


 解せぬ現実から目を背けて――いやそうすると否応なしに『喋る馬』が目に入ってくるわね。なんだこのトンデモ展開……。



≪竜王の子である我に素手で勝てる存在の方がトンデモであるがな≫



 嘲るように鼻を鳴らす白馬、いや自称竜王の子だった。竜から馬が生まれるって何やねん。


『……信長の所有していた『白石鹿毛』は奥州一の駿馬であり、竜の子とされていたそうですね』


 竜から馬が生まれたらしい。凄いな戦国時代。


『あとは……西遊記において、玄奘(三蔵法師)が乗っている馬は西海竜王の息子・白竜(玉龍)が変身した姿だとされていますね』


 あー、あのビックリすると人間に変身しちゃう馬ね。


『それはたぶん日本のドラマ限定の設定ですね』


 西遊記浪漫(?)が否定されてしまった……。


≪……おい、あんなトンチンカンな駄作を口に出すな≫


 と、白馬(?)が不満を漏らした。


≪だいたい観自在菩薩から頼まれたから仕方なく玄奘三蔵の護衛を引き受けたというのに、いつの間にかオス・・にされるわ、父上の宝玉を燃やした親不孝者にされるわ、あんな小生意気な猿に負けたことになるわ……。人間共の創作意欲は素晴らしいが、限度というものがあるだろう?≫


 苛つきを現すように前足で地面を蹴る白馬(?)だった。


 ははーん? これは『実は西遊記に登場する玉龍本人(本竜)でした』って展開だな? 人生経験豊富な私には分かるのだ。


『……ほんと、主様って巻き込まれすぎですよね色々と』


 だいたいトラブルを持ってくるの師匠なのに……。解せぬ。


『前の世界では師匠さんが原因だったかもしれませんが、師匠さんのいないこの世界で巻き込まれる原因は主様にあるかと』


 解せぬ。


 何としても抗議しようとしていると、白馬(玉龍?)が小さく鼻を鳴らした。


≪ま、いいだろう。観自在菩薩からの依頼だ。貴様が仏法をどのように導くのか見届けようではないか≫


 ……仏法?


≪ん? なんだ、ちがうのか? この国の堕落しきった仏法をどうにかするために協力するよう求められたのだが≫


 戦国時代の仏教、菩薩から見てもアウトらしい。


 いやそれには納得できるけど、なぜ私が仏法を正す的な役目を求められているのだろうか? あれか? 生臭坊主を絶滅させてゼロからリスタートさせろと?


≪我はそれでもいいが、心優しき観自在菩薩はそんなことを望まぬだろう≫


 暗に私が心優しくないみたいな物言い、やめていただきたい。


≪む~ぅ? しかし、お前が仏法を救うとは思えぬな。むしろ仏敵法敵の類いだろう。だが銀髪赤目で、こうして出会う“縁”がある者など――≫


 さらっと失礼なことをほざいた玉龍は助けを求めるように周りを見渡して――三ちゃんに視線を定めた。そのままじぃーっと見つめ続ける。


 これは、まさか……。



 ――三ちゃんに一目惚れ!? 一目惚れしたかこの駄馬!?



『なんでそうなるんです?』


 え? そりゃあ三ちゃんの魅力は異種族だろうと虜にすること間違い無しだからよ。


『……あぁ、主様が虜になっていますしね』


 なぜ私が異種族扱いされているのか。私は正真正銘の人間です。……たぶん。


 そんな私たちのやり取りを無視して玉龍が感心したような声を上げる。


≪ほぉ……。善智識・・・か。夢半ばで倒れはするが、あの男であれば堕落した仏教を矯正することも出来よう≫



『……『善智識』とは仏教用語であり、いくつか意味はありますが、ここでは善き友――仏教の正しい道理を教え、利益を与えて導いてくれる人の意味でしょう。実際、比叡山延暦寺は『信長は後世の僧達にとって間違いなく一大善智識の一人であったと思うべき』として毎年焼き討ち犠牲者と共に信長の供養もしていますし』



 焼き討ちされてやっと心を入れ替えるって相当よね。しかも通算三回目。


 それはともかく、三ちゃんの第六天魔王な行動、仏教全体で見れば役に立つらしい。まぁこの国における宗教からの武力の排除や政教分離を考えると信長(&秀吉・家康)の行動って必須級だものね。


 と、そんなことを考えていると玉龍が首をかしげた。


≪う~む? 間違いなく『善智識』となる男。だが、なぜ観自在菩薩は直接あの男と“縁”を結んでくださらなかったのだ?≫


 訳が分からんとばかりにさらに首をひねる玉龍。そんな玉龍を見かねたのかプリちゃんがふよふよと近づいていった。


『あの少年は、主様の『夫』でして』


≪ほほぅ?≫


『見た目が馬とはいえ、女性であるあなたがいきなり信長に言い寄っては主様が嫉妬し、警戒し、下手をすれば『敵』認定してきますから。菩薩も気を遣ってまずは主様と接触させたのではないかと』


≪……あぁ、竜王の子われに素手で勝つ女だからな……。嫉妬に狂えば世界すら滅ぼすか≫


『是非もないですね……』


 うんうんと頷くプリちゃんと玉龍だった。いくら私でも馬に嫉妬はしない――じゃなくて、世界とか滅ぼさないから。コイツらは私を何だと思っているのか。解せぬ。



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