第130話 アッパーカットされる信長(未来予知)
なんだかツッコミ役というか呆れ役が増えたような予感をひしひしと感じていると、お義父様が愉快そうに髭を撫でた。
「あの暴れ馬が大人しくしておるとは……さすがは嫁殿よな」
いやこの子けっこう口悪いですが……? あぁ、念話でやり取りしているものね。お義父様たちから見れば大人しくしているように見えるのか。
「嫁殿に与える馬はこやつで決まりかのぉ」
手に負えない暴れ馬を押しつけるの、止めてもらえません?
断ろうとするけれど……竜王の娘なんて危険な存在、放置するわけにもいかないわよねぇ。せめて私の目の届く範囲に置いておかないと……。
そんなことを考えていると玉龍は≪ちょっと待っていろ≫と小さく
「……そういえば、あの子って名前はあるんですか?」
本名は玉龍(あるいは白竜)だろうけど、この時代の人が付けた名前があるはずだ。というか正直言って馬のことを『玉龍』と呼ぶのは違和感が凄いし。他の名前があるならそっちを使わせてもらいましょう。
「うむ、そういえば『白毛』としか呼んでいなかったな。たしか奥州の白石生まれだと聞いておるから……『白石白毛』などどうであろうか?」
と、なぜか私の顔を見て確認してくるお義父様。いやそれ三ちゃんに対して『尾張黒髪』と名付けるようなものでしょう? ネーミングセンスが絶望的である。
「なんと明快な名付け……さすが父上であるな」
と、感心する三ちゃん。そういえばあなたって自分の息子に『奇妙丸』だの『茶筅』だの『三七』だの、挙げ句の果てには『人』って名付ける手遅れさんだものね。ネーミングセンスは父親譲りだったらしい。
危機感を抱いた私は三ちゃんの肩をガシッと掴んだ。
「三ちゃん。自分の息子に『奇妙』だとか『茶筅』とか『人』だなんて名付けちゃダメよ?」
「…………、……いやいや、犬でもあるまいし、そんな名前など付けないが?」
「犬に対してもだいぶ失礼な名前だからね?」
「むぅ……?」
理解できないとばかりに首をかしげる三ちゃんであった。これはマズい。本気で『顔が奇妙丸』と名付けかねないわこの子。
「三ちゃん。もしも今言ったような名前を子供に付けたらアッパーカットだからね?」
「……『あっぱぁかっと』が何かは分からぬが、碌でもない目に遭うのは分かるな。だが安心せよ。帰蝶との子供にはちゃんとした名前を付けるゆえな」
自信満々に胸を叩く三ちゃんだった。フラグが立った気がしないでもない。
◇
三ちゃんが死亡フラグ(笑)を立てていると、玉龍(さすがに『白石白毛』呼びは勘弁してあげましょう)が戻ってきた。口には手綱や鐙を咥えている。
普通の馬なら重くて咥えることも出来なさそうだけど、そこはさすが竜の子といったところだろうか?
え? 私が装着するの? しょうがないわねぇ……。
ちなみに玉龍が持ってきたのは和式の馬具なので、たとえ現代日本の乗馬経験があってもそう簡単には付けられないと思う。
しかし、私は標準的で何の変哲もない軍オタなので問題なくテキパキと装着することが出来た。
『……あなたはもう『軍オタ』を名乗らない方がいいのでは? 他の軍オタのために』
解せぬ。
さて。てっきり私を乗せてくれるために馬具を持ってきたと思ったのだけど……玉龍は三ちゃんの襟を噛んで、持ち上げ、器用に自分の背中に乗せてしまった。
そして三ちゃんを乗せたまま駆け出す玉龍。さすがは竜王の娘だけあって馬形態でも速い速い。瞬く間に見えなくなってしまった。
そう。三ちゃんを乗せたまま。
…………。
これは、まさか、アレか?
――駆け落ちか!?
駄馬だとばかり思っていたけどやるじゃない玉龍!
『……いやいや、『夫』を連れ去られましたが? なんでちょっと嬉しそうなんです?』
え? だって自分の夫がモテるのって嬉しくない?
『普通は嫉妬するものですね……』
ふっ、大丈夫よ。三ちゃんは私にべた惚れだからね。すぐ私の元へ帰ってくるでしょう。
『……このあとに襲い来る悲劇を、彼女はまだ知らなかった……』
ちょっと。死亡フラグ(?)立てるの止めてくれません?
私は三ちゃんを信じているけれど、それはそれとして追いかけることにした私だった。
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