第110話 ワイン造りと、師匠


 さて市助君改め孫一君たちの準備は整っていたのですぐに旅立っても問題はない。


 ただ、せっかく立ち寄ったのだからワイン造りを教えておきましょうかね。


 私が魔法で急成長させたのでブドウの木にはもう実ができていた。その実は私たちが堺に行っている間に十ヶ郷と中郷の人たちが協力して採取してくれていたので、その実を使わせてもらうことにする。


 まずは除梗。ブドウからヘタや柄の部分を取り除く作業だ。これは難しくもないので誰でもできる。……数が多いから根気が必要だけどね!


 そして大きな桶に実を投入。その上に裸足の女性たちを乗せて、踏みつぶしてもらう。特殊なプレイじゃありません。破砕という大切な作業です。


『……一応聞きますが、なぜ若い女性たちばかりにやらせるので?』


 いい質問ですねプリちゃん。


『なぜ敬語?』


 雑賀の男性はこれから傭兵として美濃まで出張してもらうのですから、ワイン造りは女性たちにやってもらわなければなりません。さらに言えば破砕には体力がいるから若い女性ばかりになるのです。つまりは必然。男女雇用機会均等法。他意はありません。他意はありません。大切なことなので二回言いました。


『セクハラ大魔神』


 解せぬ。


 古代日本だって若い女に『口噛み酒』作らせてたじゃん……。美人酒なんてまんまなネーミングじゃん……。


 世の中は解せぬことばかりだけど、まぁとりあえずはワイン造りだ。

 破砕したブドウはタンクに入れ――タンクはないので、樽に入れて発酵させる。あまり高温になると風味が損なわれるので温度管理が重要だ。あとで温度計でも作りましょうかね?


 本来なら5~15日くらいアルコール発酵させるのだけど、今回はお手本なのでさっさと魔法で時間を進めてしまう。


 上手くいったみたいなので今度は『マロラクティック発酵』という、乳酸菌の働きにより酸味を和らげる発酵をさせる。ちょちょいと鑑定眼アプレイゼルでよさげな乳酸菌を捕まえて~っと。


 それが終わったら樽やタンクで熟成させるのだけど、これも魔法で中略。できあがったものがこちらになります。


『あなたそろそろ真面目にやっている醸造家から刺されるのでは?』


 普通の発酵を待てない師匠アル中が悪い。ワタシ、ワルクナイネ。


 あとは濾過するかノンフィルターで作るかは雑賀の皆さんで決めてもらうとして――とりあえず完成。そして試飲。


 ……うん、まぁ初めてならこんなものじゃないかしら? あとの試行錯誤は雑賀の皆さんに任せましょう。


 生駒家宗さんは味が気に入ったのかさっそく設備投資の話などを進めていた。大量生産するようならもうちょっとブドウの木を増やしてあげましょうかね? あとは私がいなくてもいいように苗木の増やし方も教えておいて――ふふっ、師匠のためにお酒造りを始めた頃を思い出しちゃうわね。


 ……あ、そういえば。

 異世界 (戦国時代)転移したときにアイテムボックスに入れっぱなしだった師匠用のお酒も持ってきちゃったけど。あのアル中――じゃなかった、お酒が大好きな師匠、大丈夫だろうか? 『この世界の酒は不味すぎる!』とよく嘆いていたし。


 …………。


 まぁ、師匠の場合、いよいよになったらメチルアルコールでも嬉々として飲むから大丈夫でしょうきっと。うちの師匠はメチルくらいでダメージは受けない。きっとね。


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