第111話 ポンコツの師匠はポ――(以下略
――美しい少女だった。
黄金よりなお美しく輝く金糸の髪は風もないのに柔らかくなびき。汚れのない柔肌はまるで夏の空に浮かぶ雲のような白さを誇っている。
その顔つきに一切の疵瑕はなく、人間離れした金色の瞳も相まって、ともすれば人形のような、作り物のような美しさを醸し出している。
そして。
少女において最も目を引く特徴。それは背中から生えた
白鳥のような。
あるいは、物語における天使のような。
神聖な存在としか思えない少女はしかし、神聖さの欠片もない千鳥足で森の中を進んでいた。
たどり着いたのは一軒の平屋建て。壁のレンガに伝った蔦からしてしばらく手入れをされていないことを察することができる。
ころころとした、酔いで上ずりながらも十二分に可愛らしい声が森に響き渡る。
「う~ん、相変わらずのあばら家具合。ここは『師匠』として、家の手入れくらいちゃんとしなさいとお説教しなきゃいけないかなー?」
自分の家の荒れ具合を棚に上げながら『師匠』はドアの前に立ち、思い切りドアを蹴破った。
「やっほーい!
室内の
「あっれー? 珍しく薬草狩りにでも出かけたかな? それとも『追放』されたから真面目に受け取って国を出たとか? いやリーリスはそんな殊勝な性格してないしなぁ」
キョロキョロと室内を見渡した師匠は、気がついた。テーブルの上に何か書かれた紙が置かれていることに。
間違いなくリーリスの筆跡。しかし彼女が置き手紙をしたことなどあっただろうか?
「ん~? なになに――」
――異世界転移の術が完成したので『日本』に帰ります。あとはよろしく♪
…………。
…………………。
…………………………。
「あ、あとはよろしく♪ じゃなーーいっ!」
むっがぁっと置き手紙を破り捨てる師匠であった。
「あのバカ弟子ーーっ! 自分の重要性をちょっとは自覚しろーーっ! 世界のバランスが崩れるだろうがぁーーーっ! というか私の酒! 酒はどこ行ったーーーーっ!!??」
師匠の絶叫は誰もいない家に虚しくこだました。
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