第108話 雑賀孫一
まぁ、市助君が雑賀孫一であろうがなかろうが問題はない。市助君が私の弟であることに変わりはないのだから!
『いや信長の強敵ですが? かなり問題あると思いますが?』
ふふん、大丈夫だいじょーぶ! 私の弟ならば三ちゃんの義弟! 兄と義弟が争うなんてことはないから!
『……実の親子兄弟が殺し合うのが戦国時代なんですけどねぇ』
大丈夫だいじょーぶ。そんな悪いことを
『…………やめてあげなさい』
慈悲深いプリちゃんであった。プリちゃんに免じて滅ぼすのは最後にしてやりましょう。戦国最後の花火となるがいい。
『結局は滅ぼす……やはり魔王……』
解せぬ。
そんなやり取りをしている間にも話は進んでいき、なんやかんやで私が『烏帽子親』を務めることになった。いや何よそれ?
『簡単に説明すると、武士が元服する際に
私よく知らないけど、そういうのって普通は男の人がやるんじゃないの?
『主様は普通じゃないので別にいいのでは?』
どういうことやねん。
あと親子じゃなくて弟だから。そこのところは強く主張していきたいと思います。
『実年齢的には親どころか遠い遠い祖先でもおかしくは――』
シャラーップ。
さて烏帽子親である。元服の儀式である。
普通は烏帽子親から一字もらう(偏諱)のが通例で、例えば徳川家康は烏帽子親の今川義元から偏諱をもらい、(当時は)松平元康と名乗るようになったのだとか。
ただまぁ、今回はもう『孫一番の腕前』ということで孫一を名乗っているので偏諱は無しとなった。というか私から名前をあげると『帰』と『蝶』を使うことになってあまり武士っぽい名前じゃなくなるし。いいじゃん雑賀孫一で。格好いいぞ孫一君。
元服の儀式の流れは理髪役という人が前髪から頭頂部あたりを剃り落として
うん、ダメです。市助君改め孫一君の髪は剃らせません。なぜなら月代なんて可愛くないから! 人工ハゲは認めません!
『人工ハゲって……。実年齢はともかく、元服を迎える男性なんですから可愛くなくても……』
可愛くないから! ダメです!
『意志が強すぎる……』
私の説得が功を奏したのか孫一君の頭部は守られたのだった。さすが私、いいお姉ちゃんである。
『月代って兜を被ったときの蒸れ防止という意味もあるんですけどねぇ……』
なるほど、通気性抜群の兜を開発しろってことね? 軍オタの血が騒ぐわ。
『軍オタって人の話を曲解する症状でもあるんですか?』
症状ってなんやねん症状って。オリジナルの兜とか甲冑をデザインして描き起こして実際に作ってみるのは戦国時代オタが必ず絶対例外なく通る道なのだから仕方ないでしょう?
『ごくごく一部だと思いますが……』
というか兜って頭頂部に丸い穴が空いているのだから通気性はあるんじゃないかしら? いやさすがに本物の兜を被って走り回ったことはないから実際の通気性は知らないけど。あ~でも首の後ろまでがっちりガードしているものね。蒸し暑いことは暑いのか。現代的な感覚だと『銃弾なんてどうせ防げないんだし』と
『兜やヘルメットにまで一家言あるんですか、この軍オタは……』
なぜか呆れられてしまった。解せぬ。
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