第101話 三ちゃんニウム
三ちゃんニウムが欠乏しました。
『……はぁ?』
説明しよう! 三ちゃんニウムとは三ちゃんから発せられる良い感じの必須栄養素なのである!
『管理栄養士に謝れ』
ごめんね!
まぁそれはともかくとして。三ちゃんと離別してから幾星霜。さっそく寂しくなってきた私である。
『……大して時間も経ってないでしょうに……数百歳で初恋をするとここまでこじれますか……』
やかましいわ。
というわけで、そろそろ堺から帰ろうと決意した私である。帰り道でもう一度我が弟 (市助君)のところに寄るから船での移動になるし、そうなれば尾張も通り道だからね。
『……市助君のところに寄ったら、そのまま転移魔法で美濃まで帰ればいいだけなのでは?』
プリちゃんのツッコミは聞こえなかった。不思議なこともあるものだ。
◇
「というわけで宗久さん、弥左衛門さん。私もそろそろ帰ろうと思います」
堺の商人である今井宗久さんと小西弥左衛門さんに挨拶した私である。尾張を中心に活躍している生駒家宗さんは一緒に帰ることになるからね。
「そうですか。寂しくなりますなぁ」
もっと金儲けの話がしたかったなぁ、という顔をする宗久さんだった。心を読むまでもなく分かる。何とも分かり易いことであった。
「まぁ撰銭屋で使う銭の補充もしなきゃいけないですし、雇った少女のことも気になりますからまたすぐ来ますけどね」
三ちゃんが買い取り、私が雇った『鑑定眼』持ちの少女。そういえばまだ名前すら聞いていなかったわね。
『物事には順序というものがありまして。まず真っ先に名前を尋ねるものなのでは?』
なるほどまず真っ先にやるべきことすら後回しにして少女を救った私は偉いと言いたいのね? 分かるわ。
『何も分かってない……』
分かってないらしい。
「あ、そうだ。あの少女ですけど、かなり凄い“目”を持っていますので。慣れてくれば目利き(鑑定士)としての仕事も任せられると思いますよ? まぁ目が良すぎるから後付で価値を創造したものの鑑定はできないかもしれませんけど」
たとえば正宗の刀の真贋を鑑定することはできるけど、かの有名なルソン壺を見せても『……ただの大量生産品ですね』となってしまうのだ。
「ほぅほぅ?」
「帰蝶様がおっしゃるとは、それはそれは良き目を持っているのでしょうな」
なにやら『絶対に逃がさん!』という顔をする宗久さんと弥左衛門さんだった。堺の豪商二人から見守られるのだから少女の安全は保証されたようなものね、うん。
『……なにやら人生の選択肢が凄い勢いで絞られているような』
多少自由がなくても遊郭行きよりはマシなのでは?
『思考回路がもう悪党のそれですよね』
なぜ少女の未来を保証したのに悪党呼ばわりされてしまうのか。解せぬ。
私が首をかしげていると、弥左衛門さんから『旅立ちの前にぜひ我が家に……』と誘われたので、さっそく弥左衛門さんの家に行くことにした。小西隆佐君にも挨拶しなきゃいけないしね。
◇
弥左衛門さんの家に着いたあと。なにやら弥左衛門さんは慌ただしく準備を始めた。私を歓迎する宴会――という訳でもなさそうだ。
ごたごたする家内をしばらく眺めていると、私が通された部屋に続々と人が集まってきた。弥左衛門さんに、奥さん。隆佐君に妻の若草ちゃん。その他、堺に来たとき挨拶された小西党の皆さんが正座して私に向き合っている。
そんな皆を代表して弥左衛門さんが話を切り出した。
「帰蝶様。このたびは貴重なる阿伽陀 (ポーション)を我らに取り扱わせていただき、真に感謝の念に堪えませぬ」
いや~こっちも稼がせてもらってるんで。とは、さすがに口にしない。私だって空気くらい読めるのだ。
私が自重している間にも弥左衛門さんは話を進めてしまう。
「阿伽陀の力は凄まじく、その悪用を案ずる帰蝶様のお気持ちも当然でございます」
そういえば、いつだったかそんな話をしたような、しないような。
「そこで、評定(会議)を重ねました結果、小西家の嫡男である隆佐を『人質』として差し出すことにいたしました」
「…………」
……ん~?
人質?
なんで?
武士でもあるまいに。
どうしてそうなった?
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