第102話 人質を得た魔女
――阿伽陀の力は凄まじく、やろうとすればどうとでも悪用することができる。
偽薬を売りさばく、法外な値段をつける、阿伽陀を欲する相手を意のままに操ろうとする、などなど。
前の世界での経験から、そんな心配をしている私を安心させるために『小西党の後継者』である隆佐君を人質にすることにしたらしい。
人質ということは、『我らがもし阿伽陀を悪用したら遠慮なくぶっ殺してくださいな』ということなんでしょう。怖いな戦国時代。
『……なるほど。武士の間であれだけ人質のやり取りが成されていたのですから、重大な取引の際に商人の間で人質のやり取りがされても不思議ではありませんか……。債権の担保として子供を『質入れ』した事例もあるそうですし、それから発展して人質を差し出すのもおかしなことではありませんね』
はいプリちゃん(歴史オタ)が長考に入りました。あなたがツッコミを放棄すると酷いことになるんですけど、自覚あります?
私は未来ある少年少女の味方である。自分の意志で美濃行きを決めたとか、遊郭に売り飛ばされるのを救うために保護したという事情があるならいくらでも受け入れましょう。
ただ、今回は親や一族が決めた『人質』であり。いくら隆佐君が了承したとしても、それは大人からの圧力をはじき返せないだけの可能性もあるわけであり。いくらポンコツな私でもホイホイ受け入れるわけには――
と、私が珍しく常識的な判断をしようとしていると、長考から復活したプリちゃんが、
『そういえば、小西隆佐は豊臣秀吉から蔵入り地の代官を任せられたり堺奉行になったほどの人物でして。きっと財務管理とかの行政能力は高いですよね』
「――そこまでの覚悟、拒否するのも義に反しますね! 小西君を美濃に連れて行きましょう!」
はっ、しまった。つい反射的に受け入れてしまった。いやだってしょうがないじゃん。あの何でも自分でやらなきゃ気が済まない秀吉に財務を任せられた人材は絶対欲しいもの。わたし、わるくない。わたし、とてもいいひとね。
『本当の善人は自分で『良い人』とは言わないのでは?』
私が万夫不当の大悪党みたいな言い方するの、止めてもらえません?
『いえ、そこまでは言っていませんが』
言っていなかったらしい。いや言ってたじゃん。あれ言ってなかったっけ? 解せぬ。
◇
小西君が来るなら奥さんの若草ちゃんも一緒じゃなきゃダメでしょ。妊娠中の女性を旦那さんから引き離すとかどんな鬼畜やねんって話だ。
というわけで、若草ちゃんの同行も認めさせた私である。鬼畜回避。
『端から見れば、さらなる人質を要求した鬼畜ですけどね。しかも身重の女性。生まれてくる赤子も含めれば後継者二代を人質に取るという』
血も涙もない鬼扱いは止めていただきたい。まだ生まれてくるのが男の子とは限らないし。
ま、いいや。
人質とはいえ牢屋に監禁しなきゃいけないわけじゃないし。軟禁する必要もなし。ここは思い切って現代知識を教え込んじゃいましょうかね。そして将来的には金勘定を任せるのだー。
『……人格破壊は止めてあげなさい』
教育を施したら人格破壊になるって何やねん。解せぬ。
人格破壊はともかく、本格的に教育するならやはり『学校』を作るべきかしらね? そうすれば将来の『織田政権』で働く官僚も確保できるし。それに、中世的な世界で学校を作るのは転生者のテンプレだもの。
『……あなたはテンプレに収まりきらないと思いますがね』
ありきたりな展開なんて破壊しろってことね? 分かるわ。
『大人しくしてろ』
最近プリちゃん口悪くありません?
『誰のせいだと……』
私のせいだと言いたいらしい。解せぬ。
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