第14話 布団とか作りたいな


『火縄銃を買うのはまだ理解できますが、なぜ3挺も?』


「え? 鑑賞用、保存用、布教用だけど?」


『マンガやDVDじゃあるまいし……しかも値段を聞いていませんよね? 1挺1億円とかふっかけられたらどうするのですか?』


「い、いざとなったら錬金術で金を錬成しちゃうとか?」


 自分でも忘れがちだけど、私、錬金術士。錬金できる錬金術士なのだ。


『そしてまた金相場を暴落させると?』


「いやー、金相場を暴落させるだなんてーとんだ悪党もいるものだねー」


 プリちゃんの苦言を聞き流しつつ私は稲葉山城下の街に繰り出していた。生駒家宗さんの引っ越し作業が終わり、屋敷の引き渡し当日となったのだ。もちろん護衛として光秀さんほか数人が同行している。


 家宗さんと定型文な挨拶をしてから屋敷の引き渡し。細かいことは父様がやってくれていたのですんなりと終わった。


 家宗さんの先導で屋敷を案内してもらう。無意味なまでに広い庭を通って正面玄関から入るとかなり広めの土間がある。何かの作業場としても使えそう。


 土間の右側、一段上がった場所はいわゆる板の間で、40畳ほどの広さがある。畳も座布団もないのでのんびりするのは難しそうだ。絶対お尻が痛くなるね。


 板の間の真ん中辺りにあるのは囲炉裏。川魚を焼いたり鍋をつるして料理をしたら美味しそう。


『もうちょっとマシな感想は抱けないのですか?』


 プリちゃんがなぜか呆れていた。解せぬ。


 ちなみにトイレは室内になく、庭の隅。しかもボットンだった。水洗トイレなんてないのだから仕方ないけどさぁ……。内政チートを頑張って水洗トイレを作るしかないか? ローマ帝国にすらあったらしいからいける、はず。


『水洗トイレ開発に邁進する濃姫なんて見たくないですね……』


 身も蓋もないことを言われてしまった。でも生活環境の改善は急務だよね。まずはトイレ。あと早急に何とかするべきは寝床か。この時代にはもちろんベッドなんてないし、布団すらない。なんと畳の上で眠っているのだ。もちろん寝心地は最悪。


 研究中に寝落ちすることも多かったから床で寝るのは慣れているとはいえ、さすがに毎日となると憂鬱だ。なぜ人生の三分の一を固い畳の上で過ごさなければならないのか。

 城下町で買えればそれが一番だけど……。


「へいプリちゃん。この時代に布団はないのかな?」


『ないでしょうね。貴族ですら畳の上で寝ていたとされる時代です。布団の中に入れるなら木綿でしょうか。木綿の栽培自体はされていたと思われますが、普及するのはよくて戦国末期じゃないでしょうか?』


 今は1548年だったかな? 信長でさえ15歳くらい。戦国時代、しばらく末期にはならなそうだ。


「う~ん、木綿、木綿かぁ。木綿ってどうやって作るの?」


『綿の木の種子から作りますね』


「へ~。綿か。たしか硝酸と硫酸をあれこれして綿をあれこれすると無煙火薬である綿火薬が作れるよね。材料も何とかなるだろうしいずれ作ろうかなぁ」


『なぜ木綿の原材料すら知らない人間が綿火薬の作り方を知っているのですか?』


「もちろん私が軍オタだからさ。うん、とにかく木綿か綿の木を入手すればいいのかな? 綿の木があれば大量生産できるだろうし」


 育て方なんて知らないけど、たぶんプリちゃんに聞けば答えてくれるはず。

 私がそんな予定を立てていると、(一応小声で話していたのだけど)家宗さんにも聞こえてしまったらしい。


「おや? 木綿をご希望ですか? 堺あたりから運んでくることもできますが」


 何に使うか教えてくれ、と家宗さんの目が語っていた。前世とか元の世界のことを教えるわけにはいかないのでそれっぽい話をでっち上げることにする。


「ええ。母の故郷では布袋に木綿を詰めて、寝具として使っていたようなので。畳よりもはるかに安らかな眠りを得ることができるとか」


「……詳しくお話を伺ってもよろしいですか?」


 家宗さんの目が光っている。商機というものを嗅ぎ分けたのだろう。

 布団の作り方なんて知らなかったけどまぁたぶんこんな感じだろうと思ったことを家宗さんに教えておいた。


「なるほど興味深いですな……。一度作ってみて、具合がいいようなら販売してもよろしいでしょうか? もちろん上納金は納めさせていただきますので」


 特許料みたいなものだろうか? 断る理由もないので了承しておいた。出来がいいようなら私が使うのに一つ売ってもらおう。私よりはいいものを作ってくれるだろうし。


 ついでと言っては何だけど枕のことも教えておいた。この時代にも枕はあるけどね、かなり固いのだ。しかも高さがあって首が疲れるし。最近の私なんて枕無しで眠っているほど。異世界転移するときに寝具を持ってこなかったのは一生の不覚だね。


 家宗さんの活躍(?)に期待しつつ私たちは屋敷を一通り見て回った。全体的な感想としては、広い。床の間の他にも大きめの部屋が四つもあり、納戸や屋根裏部屋まで存在していた。屋根裏部屋なんて実質的な二階相当の広さがあり、蚕だって育てられそうなほど。


 治癒術の教室として使うだけなのはもったいないなぁ……。いっそのこと病院か薬局でも始めてしまおうか? そうすれば光秀さんたちは癒術の実地訓練にもなるし、患者さんは助かるし、私は集めた治療費で火縄銃や名剣、名槍を買うことができる。これこそまさに近江商人の言う三方よしだね。


『一方はどうしようもないほど欲望まみれな気がしますが』


 プリちゃんのツッコミは聞き流した私であった。




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