第2話 一人目

「おうち帰してぇえ〜〜〜!!」


 ほんの数時間前までは自室だったのにあら大変、化け物が発生する草原に来てしまいましたクソッタレ。

 なんかさっきドラゴン飛んでたし、やばすぎ死ぬ。

 夢だって思いたいところだけど、流石に感覚がリアルすぎるし……多分ガチの異世界。

 

 いつもファンタジーなキャラ演じてるから、なんか妙に安心するなぁ。すぐ飲み込めたのもこれが原因かも。


 で、PCだの音響機材だのはなんか灰になって消えてしまったし、残ったのは私の後ろをついて回る不思議な半透明の板だけ。


 BANの表記は消え、代わりに『信者数:0』とだけ日本語で記されてる。


「…………ほんといやな数っ」


 肩を下げ、トボトボと歩き続けていると、鬱蒼と生い茂る森が見えてきて……そこから大量のゴブリンが出てくるのがわかった。

 

 奴らは大小様々な汚い武器を掲げ、恐ろしいことに私めがけて走り出す。


 はは、わかった。

 私ここで死ぬんだ。

 さっきは勢い余って倒せちゃったけど、あの数はキツそうだなぁ。

 戦いの心得なんてもちろん無いし、一匹二匹倒せても隙だらけの背中を斬られてゲームセット。


「せめてあっさりと苦しまないよう殺しておくれ」


 うん……え? うそ、死ぬの??


 やっぱ夢ってことで手を打たない!?

 逆に?? そう、夢でいい!


 あぁ……マジで、ウッソ、迫力やっば────


「何をしている! 逃げろ!!」

「ふぇ?!」


 殺しやすいよう両手を広げている私の前に謎の青年が躍り出る。


 さらにグイッと手を引かれ、


「ぼさっとしない。行くよ!」

「え、ぇ、ええ!?」


 今度は謎の女性。

 二人とも剣を持ってて、その剣先からは真新しい血が滴り落ちている。


「あの、」

「早く!」

「ふぉわ!?」


 有無を言う暇もなく逃走を強制される。


 ほんっと、何が何だか……でもこの人が私を助けようとしてくれているのは確かだ。


 綺麗な顔だなぁと見惚れていると、ガツンと苛立ちをぶつけられる。


「目立つ白い髪に華奢な体で、大剣なんて背負ってるから何か凄いことするかもって思って見てたのに」

「たいけん……?」

「でも違った、自殺志願者だったのね。ナイフだったりハンマーだったり、彼氏の形見持って魔物に襲われに行く子は珍しくないしさっさと判断しておけばよかったわ」

「自殺……は間違ってないけど」


 すれ違った会話のまま、彼女は何かしら結論付けたのかきりりと顔を引き締める。


「じゃ、あたし仕事に戻るからここでジッとしてて。流石にケニー一人じゃ危ないわ」


 そう言って彼女は背を向けて戦地へ戻っていった。


「……助けてもらったのに。名前聞けなかったな」


 何もかもが『意味不明』で埋め尽くされているけれど、彼女らが私を助けてくれたことだけは分かる。

 

 そして、現状を解き明かすヒントもくれた。


 私は白髪じゃないし大剣──なんて、現実世界の私は当然ながら背負ってない。

 あまりに自然な感覚で身体を動かしてたから、何も違和感なかったけれど……


「……」


 試しに頭の後ろへ腕を回し自然な動作で『柄』を握り、下ろす。


 右下に視線をやれば、さも当然のような顔をして無骨な鋼鉄の大剣が大地に突き刺さっていた。

 白刃に見慣れた美少女の顔が映り込む。


「ライザの大剣……」


 そりゃ気付かないわけだ。

 四六時中大剣と生活している彼女からしてみれば、親の顔より見た何とやらと変わりない。まさに身体の一部。


 大剣を持つと、さらに身体の存在感が増していく。


 顔、毛穴、手、足、隅々まで感覚が研ぎ澄まされ、血の流れまで理解できる。

 これは彼女の──ライザの身体なのだと明確に認識できる。


 そして、分かる。

 ……血が喜んでるんだ。

 血湧き肉躍ってる。


「はぁっ、は〜……っ、うん、わかってるって」


 戦いたい。

 ゴブリンでもなんでもいいから敵と命のやりとりをしたい!


 彼らは劣勢だ。

 なら助けが必要。

 じゃあ戦えるじゃん。


 日本人の感覚や常識が止めようとすれば全細胞が総動員で説得してくる。

 

 私はその欲求に──


「どいて!!」


「君は、さっきの……!」


 ──考えるよりも早く答えていた。

 ライザならきっとこうする──その最適解を私は無意識で選ぶことができるのだ。


 こんな風にゴブリン集団の中央に飛び込んで、円を描くようにして大剣で薙ぎ払うのがイイんでしょ?

 

 剣なのに何故か斬れないとか知ったことか。

 この甘美な時間を長く享受できるのなら、むしろ幸せでしょ?


 ライザは私。

 私はライザ。


 金稼ぎのためにVtuberやってたんじゃない。

 手段が逆。

 ライザになりたくて事務所に応募して、結果的にお金を稼ぐようになっていただけ。


「はぁっ、はぁ……っ、ふふ、あはは。さいこー……」


 ゴブリンの骨と肉を粉砕し作り出した屍の山、その上で仰向けになって寝転んでいると足音が近づいてくる。


 あの二人だね。


 頬を引き攣らせてるみたいだけど……何かあったのだろうか?

 

 代表して青年が口を開く。


「一目惚れしました!! 俺と付き合ってください!!!」

 

「…………はい?」


 突然の告白。

 あまりの事態に目を泳がせていると、ふわふわと浮かぶ板の数値が──信者数:1となっていることに気が付いた。

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最強設定の大剣少女Vtuber、異世界で信者の山を積み上げて頂点に立つ 吉田空 @eriku

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