ゲーム序盤で死ぬモブヒーラーに転生したので修行したら、なぜか真の勇者と崇められた ~ただ幼馴染ヒロインと自由気ままに暮らしたかっただけなのに、成り上がりすぎて困ってます~
第19話 世界最強の勇者と、世界最強の回復術師
第19話 世界最強の勇者と、世界最強の回復術師
「嬉しいぜセイン──みんなの目の前で恥をかかせられる機会が、こうして整ってよお……!」
コロシアムの闘技スペースに入場してきた《勇者》シン。
シンの表情には焦りが一切見られず、ひょうひょうとしていた。
「恥をかくのはシンの方だ……と言ったら?」
「オレは名実ともに世界最強の《勇者》だ。お前ごときに負けねえよ」
シンは真顔で言った後、俺を睨みつけながら続けた。
「──セイン、確かにお前は強い。《回復術師》にしちゃあ……なんて言葉もいらねえくらいに、誰が見ても文句なしに強い。お前はもうモブなんかじゃない、強キャラだ。今までの試合を観ていて、ようやくそのことを認められるようになった」
「シン……」
「だが今回は相手が悪かったな。最後に勝つのは、神に選ばれし人間であるこのオレ……シンV3だ。お前はこの世界の主人公なんかじゃない」
さすがはゲーム主人公、言うことが違うな。
「さて! シン選手は、『一瞬で』チャレンジャーから序列一位に成り上がった、相当の実力者です!」
実況と解説によるアナウンスが、コロシアム中に響き渡る。
「シン選手はコロシアムにやってくるなり『ハンデだ。オレは一歩も動かん。お前ら全員でかかってこい』と豪語し、見事有言実行しました!」
「コロシアムの《
おいおいマジかよ……
さすがの俺でもそんな伝説作れる気しないぞ。
その
そして《勇者》という天職には、その「蛮勇」を現実にするだけの力があるということか。
「片や! チャレンジャーはなんと、最弱職の男性回復術師・セイン選手! しかしながら『一人で戦えないザコ』などとあざ笑うものは、もうこの場にはいないことでしょう!」
「やれ! あのスカした勇者野郎をぶっ殺せ!」
「ザコ天職でも《勇者》に勝てるって……そういう『夢』を見させてくれよ!」
「……言いたいことは、観客たちに全部取られてしまいましたね」と、寂しそうな声で実況者は言った。
実況の声が止んだ後、シンが不敵な笑みを浮かべて言った。
「セイン、リディアに最後のあいさつでもしたらどうだ?」
「……最後?」
「お前はここで無様に負ける。場合によっては死ぬかもな。そうなればリディアはオレのものだ。ま、最初からリディアは主人公であるオレのものだけどな」
「ちょっと待て。シンの言い分だとまるで、リディアはいま現在俺の『もの』って言ってるようなものだよな? リディアは大切な幼馴染で妹みたいなものだけど、恋人じゃない。ましてや所有物なんかじゃない」
「訳の分からねえこと言ってねえで、さっさとリディアにあいさつしとけよ」
シンに促されて、俺は観客席に座るリディアと目配せをする。
「セインくん! わたしはセインくんが勝つって信じてる。でもこれだけは約束して……生きて、わたしのところに帰ってきて!」
リディアはおそらく「死ぬくらいなら降参して」と言ってくれているのだろう。
そして「万が一負けたとしてもわたしは受け入れる」と言いたいのかもしれない。
もしそうだとしたら、これほどありがたいことはない。
けどな、リディア。
俺はもう決めているんだ。
「ありがとう。でも心配はいらない!」
リディアは不安そうな表情を一瞬だけ浮かべたが、すぐに表情を引き締めてうなずいてくれた。
すると、リディアの隣に座っていたエリスが、大きく手を振りながら叫んだ。
「セインさん! 神の力を生産性ゼロの私闘に使うやんちゃ坊主に、お灸をすえて差し上げてくださいね!」
「俺は別に人を裁く立場ではないが……全力は尽くす!」
聖女教の「熱心な信者」に扮した聖女エリスに、苦笑いしながら返事しておいた。
するとエリスは満足げに、にこっと笑った。
一方のシンは「チッ……マジでゲームと性格変わりすぎだろ」とぼやいていた。
まあそれは十中八九、自業自得だろうがな。
シンは続けて「いつか絶対分からせてやる」とつぶやいていたが、果たしてなんのことやら。
しかし、シンはどうやら気持ちを切り替えたらしい。
「オレが世界最強の《勇者》であること……そして、オレがこの世界の主人公だってこと、今ここで証明してやるッ!」
「これより! 序列一位の《勇者》シン選手と、チャレンジャーの《回復術師》セイン選手の試合を始めます──始め!」
試合開始の幕が切って落とされる。
それと同時に、シンは大剣を地面に叩きつけた。
「ぐっ!?」
地面が大きく揺れる。
これは勇者スキルの一つ、マップ攻撃 《大地の怒り》だ。
今回は、建物が倒壊しない程度の震度に抑えられているようだ。
しかしそれでも、
だが空中に移動してしまえば特に問題はない。
「お、おまっ! なんで男のくせに《天の架け橋》を使ってるんだよ! 聖女専用スキルだろうが!」
「俺はただ、空中に展開した魔術障壁の上を歩いているだけなんだが」
「そんなのチートだろ!」
「ほら、おしゃべりしている暇があるのか!」
地震が収まったタイミングを見計らい、俺は魔術障壁から飛び降りる。
落下時の運動エネルギーを活かしながら、シンに向かって一気に剣を振り下ろす。
「チッ!」
シンは舌打ちしながら攻撃を受け止めた後、バックステップで間合いを取った。
そして再び大剣を地面に叩きつける。
今度は地震ではない。
割れた大地がめくれ上がり、ガレキが俺に向かって押し寄せてきた。
これは勇者スキル《
しかし──
「な、なんで『てつの剣』でガレキを斬れるんだよ! てめえもしかしてイカサマでもして高級装備使わせてもらってんのか! それともあれか、剣聖スキルの《兜割り》ってか! チートすぎんだろ!」
「そんなわけないだろう。ただ身体強化魔術を使って力任せに叩き割って、その都度 《リペア》で剣を修理しているだけだ」
「そんなわけあるかあああああああっ!」
シンは叫ぶやいなや、姿を一瞬のうちにかき消した。
今から6年前、《剣士》時代に見せてくれた上級スキル《縮地》だ。
「おらっ! でやっ! はあっ! ……くそっ、当たらねえ!」
「焦って昔の癖が出ているようだな。一度見た技は通用しない。さっきの勇者スキルのほうがよっぽど対処しづらかったぞ」
「うわっ!」
俺はシンの脚を引っ掛ける。
シンは前につんのめり、地面に突っ伏した。
「シン、お前の負けだ。降参しろ」
俺はシンの後ろ首に、剣の切っ先を当てる。
「……くくく、笑わせてくれるぜ」
「何がおかしい?」
「こういうことだよ!」
シンは《縮地》を使い、まるでクモのように
そしてこちらに勢いよく振り向いた後、大きく息を吸った。
「うおおおおおおおおおおおおおおッ!」
空気が、大地が揺れる。
シンの
これは、自分と味方のステータスを上昇させる一方で、敵を弱体化させるという強力なスキルだ。
その証拠に、どういうわけか俺の脚が震えている。
「まさかこのオレが《勇者の
シンは再び姿を消し、俺の背後に回った。
俺はとっさに剣を上に掲げ、シンの振り下ろしを防ぐ。
そして振り向きざまにバックステップをして距離を取りつつ、シンの猛攻を防ぐ。
「これが《勇者》の聖痕を授かったこのオレ・シンV3の真骨頂──う、嘘だろ! なんで《勇者の
「いいや、ちゃんと効いてるよ」
「《勇者の
「違う」
「嘘つけ、魔王以外に考えられねえだろうが! 剣も魔術も使えるなんておかしいって思ってたけどよ!」
「だから魔王じゃないって。俺は──」
そろそろ《勇者の
俺はシンの胴をめがけて、剣を勢いよくなぎ払う。
「──ただの《回復術師》だ!」
「ぐはああっ!」
シンは胴体から大量の血を流しながら、数メートルも後方に吹き飛ばされた。
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