ラドゥスを選びます
──学園での昼休み。
私はラドゥス王子と美術室で、もはや日課となっている漫画の続きを描いていた。
先程までひたすらにペンを動かしていたラドゥス王子が、パタリと手を止める。
「どうかなさいました、ラドゥス様?」
「いや。こうして漫画を描くのが日常となってはいるが、こう婚約者同士としてはいかがなものかと思ってな」
「そうですか? 私はラドゥス様と同じ空間にいつつ、二人きりで共通の趣味を楽しめるのは喜ばしいことだと思っていますわ」
私とラドゥス王子は、数ヶ月前に晴れて婚約関係となった。
そんなラドゥス王子は私の返事を聞いたのち、なにやら悩ましい顔をして首を
「たしかに、お互いに趣味を楽しめるのはよきことだ。だが、黙々と作業をしているだけでは、う~む。つまり、その……」
「つまり……なんでしょうか?」
「距離が
「──!? あらまぁ、そういうことですか」
私がわざと
「二人きりとはいえ、僕にここまで言わせておいてその反応とはなんたる婚約者だ」
「申し訳ありません。あまりにも嬉しいお言葉をいただけたもので、ちょっとした意地悪をしてしまいました」
「仕方あるまいが、許そう。いくらそなたの誕生日に、あれほど大々的に告白の返事をくれたのだとしても、それとこれとは違う。
そう言ってラドゥス王子は、隣にいる私の手をギュッと掴み、ゆっくりと彼の方に引き寄せる。
「ただでさえ、僕が王子である以上は婚姻が遅れてしまう。サトゥール兄上が臣籍降下を陛下に申し出ている以上、そのあとになる。そのうえ、ダリアン兄上の婚姻の進み具合が関係してくるからな」
「私は貴方様と添い遂げるためでしたら、王子妃になってもよろしいのですよ?」
「いいや、そなたの父が許さないだろう。それに、今の僕は王子であることにこだわりはない。だから、もう心に決めたのだ」
「ラドゥス様……」
ラドゥス王子は私の手だけではなく、身体ごと徐々に引き寄せて抱きしめてくる。
「僕にあらゆるものを与えてくれたそなただからこそ、今の地位を捨て去ってもよいと思えてしまった。──ここまで僕の決意をみせたんだ。一生涯そばを離れることは許さないぞ、リーゼリット」
「ええ、末永くよろしくお願いいたします」
私はラドゥス王子の愛の言葉に、彼を抱きしめ返すことでその返事を裏付けた。
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