【完結】非攻略キャラたちに溺愛されています
鈴乃こころ
【序章】
01話 プロローグ
ふと落ちてきた本を手に取ったあのとき、あの瞬間に、ここは前世で人生の聖典といってもいい、
しかも──。
もしかして今の私は、原作の中で"ポンコツ令嬢"として名高い悪役令嬢である、侯爵令嬢リーゼリット~~~!?
でっ、でも、問題ないわ!
大好きな物語の中に入れただけで幸せなのよ。
さぁ、この侯爵令嬢という地位を利用して、前世でこよなく推していたキャラクターたちをただひたすらに眺めるの。
でもいざ、推しキャラクターたちが生きているのを実感すると、私は悲劇が起こるのを見ていられなくて──。
………それが愚か者の考えであることに気付くまで、そう時間はかかりませんでした。
"わたし"にとって、この
前世の"わたし"は今世の世界の
小説の名は『魔法使いと聖なる夜』──。
この
もとい攻略キャラクターたちと、恋愛を繰り広げる模様が描かれているファンタジー。
話の分岐点によって、4名それぞれの攻略キャラクタールートに分かれるように分冊されて書かれている。
私はこの
もとい非攻略キャラである男性たちに、それはそれはハマってしまっていた。
皆が皆、勿体ないくらいの美しいイケメンなのに、攻略キャラの今後の活躍のために儚く退場せざるを得ない宿命ともいえる存在立ち位置。
そんな彼らを今世では陰ながら応援という名の観察目的で、その悲しき姿を最後の最期まで見届けるつもりだった。
何と言われようとも、記憶を思い出した当初の私は、
この世界観に興奮しつつも、ただ推しキャラをごく間近で眺めていたいだけだったのだ──。
*****
今、目の前には、その不憫な運命を辿るはずだったキャラクターたちの姿が。
皆が皆、原作にて"ポンコツ令嬢"で有名なこの私、悪役令嬢でありノーマン侯爵令嬢リーゼリットを見て語りかけてくる。
ノーマン侯爵令嬢リーゼリット。
ピンクゴールドの髪で、紫紺の瞳。
本日付で、17歳になったばかり。
現在、王立学園の2年生。
ノーマン侯爵家は、並の家柄ではまず歯が立たない、名だたる筆頭侯爵家である。
前世を思い出す前は悪役令嬢として、この
取り柄という取り柄もなく、ただただ放って置かれている状況だけだったのも知らずに、傲慢に立ち振る舞い断罪される令嬢。
──それが転生自覚前、いわば記憶が戻る前の
目の前の状況を理解できずに目を逸らそうとしていたけれど、断念して前を見つめた先には──。
シェイメェイ王国第4王子のラドゥス。
プラチナブロンドの髪に、翡翠の瞳。
現在、王立学園の2年生。
ダリアン第1王子とサトゥール第3王子の権力争いに巻き込まれて死に至り、途中退場していくこのお話の不運代表というべき非攻略キャラクター。
ずっと権力争いを静観していたラドゥス王子が、最後の最期に命を投げ打ってまでその争いを止めて、異母兄弟であるダリアン王子にこの国を託していく。
そのはずが───。
「そなたの真っ直ぐな心根をその場で見てきたお陰で、兄上たちの政権争いを見て見ぬふりで過ごしてきた以前の僕ではなくなったよ。リーゼリット、そなたのためならと思えばいつまでも繰り広げられる兄上たちの喧騒をも止めさせることができたんだ。──そして、これからはそなたがのんびりと安らかに過ごせる日を与えてみせようとも」
ラドゥス王子に溺愛されるようになってしまい──。
キュール公爵令息三男のシュジュア。
漆黒の黒髪に、藍色の瞳。
現在、王立学園の2年生。
シュジュアは攻略キャラの1人、キュール公爵令息長男であられるマリウスのためにと、寝る暇も惜しまずとある情報を求め続けた。
その結果、過労が祟ってボロボロの身体になり、心すらも病んでしまって途中退場してしまう。
けれども───。
「リーゼリット嬢、君のお陰だ。今の俺は寝る間も忘れて、ひたすら情報収集ばかりをする日々を駆け抜けていれば、望む人生を歩めるというものじゃないことがわかった。──そのうえ、君と一緒にただ自堕落に過ごせる日がどんなに有難いかを、俺は身をもって知ってしまったんだ」
シュジュアからも溺愛されるようになってしまい──。
ガラティア侯爵令息次男のターナル。
明るい茶髪に、蜜柑色の瞳。
現在、王立学園の2年生。
ターナルはその生真面目さが原因で、攻略キャラの1人である、ガラティア侯爵令息長男ザネリと一触即発。
喧嘩別れしたそのまま、行方不明になってしまった。
なのに───。
「リーゼリット殿、あなたは私の救世主だ。あなたのおかげで、あれほど歪んでしまった兄との関係の確執はなくなりました。だから今もこうして、ガラティア家の子息としてこのときを過ごせています。──その恩恵に報いる為に、これからはあなたに安息の日をもたらしてみせましょう」
ターナルにまで溺愛されるようになってしまい──。
*****
もうっっ!!
どのキャラクターたちも、原作の哀しい雰囲気や不運な面影がなくなってしまってるじゃない!!
あの前世の"わたし"が求めていた不憫さを思い出す事なんてないくらい、御三方とも精神・身体どちらもお元気で、今もなお私のことを見つめ返してくるわ。
しかもなんで、皆そろって、のんびりとか、自堕落とか、安息とか、苦難に立ち向かって生きてきたキャラクター達とは真逆の発言をしてらっしゃるの?
確かに私は大幅な原作改変を行った疲労で、悠悠自適な生活を望んでいたけれど、こんなはずでは……。
そもそも本来は、次期王太子の婚約者候補の1人だったというだけの悪役令嬢が、なんだって皆様に愛の告白とも受け取れるお言葉をこうして頂戴しているの?
それもこれも
前世の記憶を思い出したことで、思いもよらぬポンコツを発動してしまった私は、非攻略キャラクターたちだった彼らにこれからどう対応していけばいいの~~~~~!!
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