九十六学期 見つけた者
「見つけた! これだ! アルバム!」
押入れの中を勝手に開けられて一時は、どうなる事やらと思っていた私だったが……何とかそれも免れそうだ。押入れの奥から見つけたアルバムを取り出すと、私はそれを皆に見えるように真ん中に置いた。
「……その、別に見てもそんなに楽しいものじゃないですし……退屈なだけだと思いますが……」
私は、念押しするようにそう言うが……彼女達は、私が頬を赤らめさせてそう言っている事にとても楽しそうに微笑みながら告げるのだった。
「……いえいえ~、私達はただ昔の日和ちゃんがどんなだったかな~ってみたいだけなので」
にっこり微笑みながら言う愛木乃ちゃん。
「そうです! お友達ならこう言うのも知っておきたいなと思っただけです」
やる気満々の様子の瑞姫ちゃん。……て、いや何に対してやる気満々なんだこの子?
「……まっ、お兄ちゃんの写真なんて何百枚あっても困らないしね」
何処か余裕な感じの乃土花ちゃん。……いや、君もなんでそんな愛木乃ちゃん達に対して空かした顔をかましてるの?
しかし、とりあえず私は彼女達の要望通りにアルバムを開いてあげる事にした。なんだか、こうやって家族以外に自分の過去の写真を見られるのって……改めて自分でこうしてると……なんか恥ずかしいな。
そんな事を思っていると開いた途端に彼女達は「うわぁ~」と声を揃えて言っていた。……一体、何がそんなに凄いのか私にはよく分からないが……。
「……こっ、これが私の赤ちゃんの頃……らしい」
「……可愛い! 日和ちゃん、すっごくずんぐりしてるね!」
「赤ちゃんは、みんなそうでしょ!」
愛木乃ちゃんの意味の分からない感想に突っ込んでいると、今度はもう一つのアルバムを手に取って息を荒くしている乃土花ちゃんを見つける。
「……はぁ、はぁ……小さい頃のお兄ちゃん。可愛い……可愛いぃぃ」
「貴方は、どうして……私の写真を見て興奮しているわけ?」
「……こういうお兄ちゃんもありだな。うむ……お兄ちゃんじゃなくて弟にしちゃうのも……ありか?」
「なしだよ! ぜってーになし!」
「いや、でもお兄ちゃん女の子だし……ここは、妹かな?」
「なしだっつってんだろ! スリーアウト退場だわ!」
と、まぁ……この子はいつも通りって感じの反応だ。うん……そういえば、小さい頃もこんな感じで私の写真をじっくり眺めて、なかなかアルバムを離そうとしなかったっけな?
と、昔の記憶に私が浸っていると……ふと瑞姫ちゃんの方が気になった。彼女は、他の2人と違ってアルバムのページをさっきから一度もめくらずにずっと同じ写真ばかりをジーっと見つめていた。
しかも……私が生まれたばかりの病院で撮られた写真だ。その写真にそこまで面白い所が……?
「瑞姫ちゃん……どうしたの?」
「ふぇ!? あっ、あぁ……いえ何でもないですぅ」
少し不自然な態度に私は、首を傾げたが……まぁ、彼女が何でもないと言うのなら……それまでか。
私が彼女から視線を逸らして、自分も過去の写真を見ようとアルバムを1つ手に取ってみるとその時、彼女が私に話しかけてきた。
「……日和さんって何処の病院で生まれました?」
「え……?」
いきなり、どうしたのだろう? いや、けど……病院かぁ。
「うーん。なんだっけな? 昔一度だけママから聞いたんだよなぁ。えーっと……宇井狗病院だったっけ? 確か……」
「宇井狗……病院……」
瑞姫ちゃんが意味深にそう告げるのを見て私は、さっきから様子のおかしい彼女を心配して声をかけてみる事にした。
「どうしたの? 具合でも悪い?」
「あっ、あぁ……いえ! 大丈夫です!」
「そっ、そう……」
瑞姫ちゃんは、その後「ありがとうございました」と言って同じ写真をずっと見続けていた……。
――私=水野瑞姫は……衝撃的な事を知ってしまった。私がたまたま日和ちゃんの家に遊びに来て……普通にアルバムを覗いてみたら……そこには、驚くべき光景が映っていた。
宇井狗病院……。この言葉には、聞き覚えがある。この辺りの町の病院ではなく……少し電車で行った所にある遠い場所の病院だったが……しかし、昔私もお母さんからこの病院の名前を聞いた事があった。
――けど、まさか……そんな……しかし、実際に日和さんは私にそう言ったのだ。そして、私もこの目ではっきりと見た。この病院の雰囲気……そして、病院の入口の前で撮られた家族の集合写真。そこの看板に書かれた宇井狗病院という確かな文字。日和さんの言っていた通りの場所だ。
私は、この偶然に少し驚いたのと同時に……嬉しかった。ここに来て良かった。まさか、こんな発見ができるとは……思わなかった。こんな偶然が……いや、もしかしたらこれは、運命なのかもしれない。それを見つける事ができて嬉しかった。
――私の生まれた病院と同じ病院だ……!
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