九十五学期 確信した者
「……そっ、それでその……日和ちゃん?」
「……」
「この押入れの中は、一体なにかな?」
「……」
日下部日和、俺が私として生まれて来てから早15年以上の時が過ぎた。いきなり性別が変わってしまったのに私の心は、男だった頃のまま何も変わらず、大人の階段を日々上り続けた。
前世の頃と変わらず、インターネットを使って検索をかける時は毎回「ムチムチ 巨乳 ヌルヌル エロ」で調べて、出てきたものを使って楽しんだ。この4つの単語を入力する事だけは、全国に住むどのオス共よりも早く入力できる自信がある。
3歳の頃、パパがこっそり隠していたエッチなビデオを発見。流石は、昭和生まれ……スマホのデジタルで買わずにわざわざ自分で持っておこうとする所に私は、感服した。
母にバレたらまずいと思った幼い日の私は、父のものを自分の部屋の押入れの中に隠し、それを長年保管し続けた。当時は、父が母のいない所で1人男泣きをしていたのをたまに見ていた。パパはいつも私が「どうして泣いているの?」と尋ねると「泣いてないよ。改めて母さんしかいないんだなって思っただけだよ」と意味深な事を呟いていた事は今でも思い出す。
パパもあの頃は、まだ若かったのだろう……。そういうものに興味もあったみたいだ。まぁ、浮気するよりはマシだと思う。
そんな風にして幼少期から地道に集めてきたエロコレクション達……そして、そんなエロコレクションたちと共に歩んで来た私の青春の日々。誰にも言わず、乙女の秘め事としてずっと自分の心の中だけで内緒にしてきたこの日々も……今日で終わってしまった。
しかし、私はそれでもまだ諦めない。こういう時でも言い訳を考えて往生際悪く立ち振舞うのが……男という生き物。
だからこそ……。
「……そっ、それは……私もよく知らなくて……その……この部屋、パパとママが結婚する前は、元々パパの書斎だったみたいで……」
いや、だとしても掃除くらいするだろ……なんてツッコミもすぐに出てくるようなひっどい言い訳だ。
しかし、意外にも瑞姫ちゃんと乃土花ちゃんの反応は、思ったよりもいいものだったのだ。
「……なるほど。大変だったんですね……。日和さん」
「お兄ちゃん、こんなものがいっぱいある中でよく頑張ったね」
「あはは……ありがとう」
しかし、次の瞬間に瑞姫ちゃんと乃土花ちゃんのロリっ子コンビは、突然悪魔のような事を私に言い始めた。
「……日和さん、お父さんのものとなったら捨てにくいでしょうし」
「ここは、私がお兄ちゃんのために代わりに処分してあげるよ!」
「え……?」
ちょっ!? は? おい! 何言ってやがんだ……このメスガキども。
「いっ、いや……そっ、そこまでして貰わなくても……」
と、言いかけた所で瑞姫ちゃんと乃土花ちゃん達による処分が始まってしまった。
「……さぁ、捨てちゃいましょう!」
ぎゃああああああああああ! 待って! やめて! ……とも言えず。いや、言ったら色々ヤバいし……。かといって、このまま放置しているとこの子達、突然ポケットから取り出して来たゴミ袋の中に全部コレクションをぶちこんでしまいそうで……おっ、恐ろしい……。
ど、どうすれば……そもそも、なんでアルバムを見ようだなんてこんなイベントが……誰がこんな悪魔的閃きをしたんだ……。
と、私が慌てているとエロ本やえろDVDなどを処分している瑞姫ちゃんたちの前に愛木乃ちゃんがやってきて、2人に言った。
「……2人とも今は、そんな事している場合じゃないでしょう? それよりも……今は、アルバムを引っ張って来るのが先でしょう?」
彼女がそう言うと、ピタッと2人はゴミ捨て作業をやめてすぐに押入れの中を探し始めた。
「そうでした。忘れてました!」
瑞姫ちゃんと乃土花ちゃんの2人は、そう言うとそのまま押入れの中に手を伸ばしてアルバムを探し始めた。
……なっ、ナイス。ナイスだよ。愛木乃ちゃん……。この場で私がいくらやめてと言っても辞めなかったであろうお宝廃棄を見事に止めてくれた。
ナイスすぎる……。
――私、木浪愛木乃は……衝撃的なものを見てしまった。日和ちゃんの家に遊びに来て……普通に遊んでいた私達だったが、突如日和ちゃんの部屋の押入れの中を私は見てしまった。その中には……驚くべきものが並んでいた。
いや、本来考えてみたらこんな事は、別に驚く事でもなかったのかもしれない。あの人の秘密を知っているのはこの中で私だけなのだ。それが、本当にそうなのであれば……こう言う事もあるはずだ。
まっ、まぁ……よく男の人の部屋の中には……エ、エッチな本が1冊か2冊はあるのが普通だと聞きますし……。
しかし、自分でも意外だったのは彼女の本当の秘密をこの目ではっきりと目の当たりにした時、私の中で……幻滅したというよりも……嬉しい気持ちが溢れてきた。それまで、あの人の事に関して性別的な部分でずっと私は、引っかかっていた。令和の時代にもなってこんな事で悩むなんて馬鹿みたいかもしれないけど……それでも、同性同士だと考えてしまうと……どうも引っかかる所があった。いくら、元々異性だったとしてもだ。
しかし……今、ここでそのモヤモヤはなくなった気がした。私は、もっと……彼女を……いいえ、彼を…………。
そんな思いからか、私は水野さん達のようにあのエ、エッチな本を処分しようだとかは思わなかった。
いけない。……意識してないとニヤケてしまう。でも、本当にそうなのだとしたらそれは……私の事だって……女として見てくれるかもしれないチャンスがあるって事なのだから……。
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