十二学期 才ある者
──暗い地下室の中……大小様々なビーカーが置かれているその部屋の中で、1人の少女がほくそ笑む。その少女は、白衣を身に纏い、グツグツと沸騰する紫色のビーカーの隣でパソコンをカタカタと打ち込んでいた。
少しすると、少女はEnterキーを人差し指で勢いよく押すと、パソコンの椅子の背もたれにどっかりと座ると、そのまま息を吐き捨てて、首の骨をコキコキ鳴らしだした。少女の口から独り言が漏れる。
「……ようやく完成したわ」
それから少女は、椅子から立ち上がり、自分の目の前の壁に貼られた一枚の写真を手に取って、それをしわくちゃに握りしめると、高らかに笑う。
「……これで、奴も……もう終わりですわ! おーほほほほほほほほほほほほほっ!」
少女は、くしゃくしゃにした写真をポイっと捨ててからまたも口を開き、1人の女の名前を言った。
「……日下部日和。貴方は、もう終わりよ」
*
──水野さんとの一件も終わって、今日もいつも通りの1日が訪れる。学校に着くと様々な人達からの挨拶が飛び交う。
「おはよう」
私は、その一人一人に挨拶を返す。彼らは皆、嬉しそうにしていた。これが、完璧美少女の早朝スマイル配り。まぁ、私の視線は常に女の子にしか向かないけども……。
「……キャー! 今、日下部さんと目が合った!」
「嘘!? 良いなぁ。私とも目を合わせてくれるかしら……」
目じゃなくておっぱいとなら毎日合わせてますわよ。
と、まぁ早朝から軽いギャグを内心飛ばしつつ、今日も私の1日がエレガントに始まる。
……と、私が下駄箱にやって来て上履きに履き替えている時だった。普通ならここでもいつも通り挨拶を交わされるのだが、この日は少し違う。
いきなり後ろから誰かに抱きつかれる。
「ひよりちゃん。おはようございます!」
その女の子は、とても大人びた雰囲気でありながら、年頃の少女のように私の後ろから抱きついて来た。
「……おはようございます。愛木乃ちゃん」
今日も素晴らしいおっぱい! うむ。素敵な弾力と形。最高ですわ! と思いつつ、私は理性的に愛木乃ちゃんに告げる。
「……ごめん。愛木乃ちゃん。靴履きづらい」
「あら。ごめんなさい」
愛木乃ちゃんが、謝りながら私の傍から離れて行こうとする。……これで、安心して私は、靴を履く事ができる……と思った矢先、私の視界に映ったのは私と愛木乃ちゃんのじゃれ合いを見ていた水野さんの姿。
なんだか、すっごく睨んでいるような……。そんな事を思っていると、水野さんがちょこちょことこっちへ近づいて来て、私の事を見つめる。そして、何かをごにょごにょ話しだした。
「……何なんですかね。昨日あんなに良い感じだったのに……本当に本当に……だいたいこの人は一体……」
「……水野さん?」
どうしてそんな怖い雰囲気なのでしょうか……。ここで人格入れ替わったらわりとまずいんじゃ……。
と、私が少しビクビクしながら恐る恐る水野さんの事を見つめていると少女は、突然私の体をギューッと抱きしめてくる。
「……あっ、朝の挨拶でしゅ! おはようございます……日下部さん……」
みっ、水野さん!? この子……朝の挨拶は、ハグなのか!? なんて、大胆な! こんな挨拶、もしも変なおじさんにでもしちゃったら……勘違いしちゃうよ!
慌てている私と隣で、ほほうと何を納得しているのかよく分からない様子の愛木乃さん。
いや、というか……やっぱり靴が履きづらいのだが……。
困った様子の私だったが、水野さんは全く変わらずに私に抱き着いてきて離れない。……うーん。どうしようかぁ…………。すると、その時だった。
「……全く、朝から何なんですの? 学年一位の人間が……そんな体たらくで……」
その声のした方を見てみるとそこには、縦ロールの金髪に青い瞳を持った外国人のような見た目をした白い肌に細くてすらっとした高貴なお嬢様のような見た目をした女の子と、その周りに取り巻き(?)の女子達が2人立っていた。
「……あっ、アナタは!」
「……ふっ」
その少女は、とても誇らしげに胸を張って偉そうにどっしりと構えていた。しかし……。
「……誰?」
正直、この少女が誰なのかよく分からない。いや、なんだっけなぁ? 完璧美少女の私が人の名前を忘れるなんてそうそうないはずなのに……どうして思い出せないのだろうか……?
すると、そんな私に金髪少女がずっこけた後にツッコミを入れる。
「……
「……ん? …………うーん」
・
・
・
・
・
・
「……あっ! あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 金閣寺財閥の! 科学者で財閥も経営している……なんだか、凄い家の人でしたっけ? 御丁寧な解説ありがとうございます」
「……なんだか凄いって何なんですの! どれだけ、わたくしの認識ふわっふわっ何ですの!」
「……あはは、ごめんなさい」
「……全く反省してないでしょう! くっ! もう良いですわ! 日下部日和さん! わたくし、絶対に貴方の弱点を発見してみせますわ! 覚えてなさい!」
「そうですかぁ〜。ご勝手にどうぞ。金髪寺さん」
「金閣寺です! 私の名前は、金閣寺・F・恋金です!」
そう言いながら彼女は、何処かへ行ってしまう。……うーん。何なんだったろうなぁ……。あの金箔時さん。あれが、あの人なりの朝の挨拶って奴なのだろうか……。
この時の私は、まだその程度の認識でしかなかった。しかし、この後……私の金箱寺さんへの印象は……大きく変わる事となる。まさか、あんな事になるとは……。
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