十学期 撃退者
水野さんが、いなくなってすぐ私の脳裏に浮かんだ一つの答えは……今日のクラスの女子達が水野さんの事をちょくちょく睨んでいた様子だ。おそらく、煌木に好かれたい女子達なのだろうが……その子達の仕業に違いないという事をすぐに察知していた。
この辺りの地理感なら毎朝ランニングして細かい所まで把握済み。それに……
女子と言うのは、時に恐ろしい事をする。俺のような男が想像し得ないようなとんでもない事も……時には、するものだ。まぁ勿論、こう言う所は男も女も関係ないだろうが……。
しかし、そうなれば……水野さんが何処に行ってしまったのか……おおよその場所は見当がつく。
そして、私が向かったその場所にたまたま水野さんと女子3人が発見できたというわけだ。さっすが、私の勘と言った所か。
――まぁ、そんな事をしている場合ではなさそうだけど……。
私は、水野さんの襟を掴んであげている女子とその後ろに立っている2人の女子の姿を確認して、もう一度告げる。
「……聞こえなかった? アナタ達、ここで何をしているの?」
すると、水野さんを上げていた女が水野さんの事を下ろしてあげた後に私に言ってきた。
「……なにって? 見て分からないの? じゃれ合ってるの? んね? 私達、仲いいからさ~。そうよね? 水野さん?」
「……」
少女は、震えていた。とても怖そうに……恐怖に打ち震えていた。その姿を見て私は、ちょっと手が出そうになったが、グッと堪える。
「……仲が良いと言うわりには水野さん、泣きそうだけど。本当にそうなの?」
すると、水野さんの事を下ろしてあげた女の1人が今度は、私の方へと近づいて来て、鋭い目で見つめてきながら話しかけてくる。
「……どうして疑うの? 私達、すっごく仲良いのに……。はぁ~、せっかく私達だけで楽しんでいたのに……。貴方のせいよ? 私たちだけで楽しんでいた事を……横から割り込んで来て……だから、これから起こる事も全部……貴方のせい、だからね?」
「……!?」
刹那、私のお腹に強烈な一撃が入る。避けようがないその突然の一撃に不意を突かれた私は、腹を思いっきり殴られた後、地面に膝をついて苦しそうに咳をする。
「……うっ、うぅ…………」
ここばかりは、どれだけ鍛えても……どれだけ運動しても……いざ、くらったらどうしようもないエリア……。痛い……。
私が、地面に膝をついた様子を見ていた女どもが一斉に集まって来て、私の周りを囲むように立ちはだかる。そして、自分達の足を使って彼女達は、私の背中を蹴り始めた。その攻撃に私は、ただただ丸まって自分の体を守る事しかできない。女の1人が言う。
「……アンタも気に食わないんだよ! いつもいつも……煌木くんに話しかけられて! そのくせ、なんか素っ気ない態度とってさ! 何なのよ! 勝者気どりしてる感じがすっごくムカつく! 自分が、学園で一番モテるって思ってそうな所が大っ嫌いよ!」
女が、本音を私にぶつけてくる。……いや、まぁていうけど、実際学校で一番モテてるの私だし……。どう考えても私だし……。そこを怒られても……それは、もう男子達に言って欲しいものだよ。
そして、うーん。普段から運動して体鍛えてるからこの位の蹴り程度じゃ全然痛くもないけど……しかし、どうしよう? この態勢じゃ逃げる事もできないなぁ。このままある程度長い時間やられてるふりをして……相手がスカッとしてボコし足りて、水野さんの所に戻っていった所で……反撃を開始するかなぁ。
私の脳内で作戦が決まる。そこで、私はさっきよりも更にやられている感を演出するため、声優顔負けの声での演技を披露する。
「……くっ! うっ! がはっ!」
ふふふ、こういう時の演技は、前世でバトルもののアニメを散々見漁って研究済み。ちゃんとやられている感じを再現できるってわけよ!
そして、そんな私のやられている演技を聞いて蹴っている女達は、徐々に顔がニヤニヤしてくる。そして、激しく蹴っている中で1人の女がまたしても口を開く。
「……ははは! 学園で一番の人気者のアンタをこうしているとすっごく気分が良いわ!」
さっきと言ってる事違うやん。勘違いしてるところが嫌いなのか……それとも実際に学園で一番人気なのか……。どっちなんだろ……。
と、思っているとそんな女子達の蹴りを苦しそうな演技で乗り切っている私の姿を見ていた水野さんが、瞳から涙を零しながら今にも泣き叫んでしまいそうな悲しそうな声で言った。
「……やっ、やめてくださぁぁぁい! もうやめて!」
すると、そんな水野さんの必死の叫びに女の1人が一瞬だけ私を蹴る事を辞めて、水野さんの事を突き飛ばす。
「……うっせーんだよ! テメェは、そこで黙ってろよ!」
地面に倒れ込む水野さん……。かなり勢いよく倒れてしまった彼女の事を見ていた私は、途端に心配になった。
いや、まずいな! こんなやられているふりなんかしている場合じゃない! 早く……すぐに水野さんの所へ行って……手当とかをしないと……。
私が、強行突破でこの状況を打破しようと心に決めたその時だった……。突如、地面に倒れたはずの水野さんの方から今まで聞いた事のない声がしてくる。
「……おう? お主、人様の事突き飛ばすたぁ、ええ度胸しとるのぉ? おお?」
「は……?」
その突然の豹変っぷりにさっきまで私の事を蹴っていた3人の女子達は、固まる。……というか、私も。
私とその3人の女子達は、水野さんの豹変っぷりをカチンと固まった状態で見ていた。すると、少女はさっきまでとは、違って豪快に立ち上がると3人の女子達の前へづかづかと歩いて行く。
「……お主ら、わしと殴り込みしようっちゅうのなら……いつでも相手してやるけんのぉ? おぉ?」
「……あっ、あぁ? のっ、望む所だよ! 喋り方変えた所で、オメェみたいなチビがアタシら3人に敵う訳ねぇだろう! なんせ、こっちは……3に……」
と、慢心しきっていたのも束の間、突如女の頬っぺたに水野さんの強烈な拳が一発。その女子は、殴られると綺麗に真上に上がっていき、そしてそのまま落下。地面に伏した。
しかも、一発で気を失っている。……って、いや……えぇ。
水野さんは、更に他の女子達が自分達の仲間を1人やられれて怯えているにも関わらず、さっきまでとは想像もつかない程、変わった様子でづかづかと近づいて来て、喋りかけてくる。
「……売った喧嘩を買ったんは、そっちじゃけんの。いつでも来ていいっていったからにゃ、ただで済むと思ってもらったら……困りますけんのぉ。お主ら、全員……血祭になるまで……帰さんわい!」
こっ、これが……本当に水野さん……なのか? 私は、夢でも見ているのか? なんだろう……水野さんの姿がたまに……菅原文太のように見えてしまう……。いや、マジで……こえぇ……。
そして、その怖さに実際ビビったのか、他の2人の女子達は、急いでその場から離れて行こうとした。
「……ごっ、ごめんね! ちょっとやり過ぎたかも!」
「そうそう! アタシ達、別に本気だったわけじゃないの! この子に誘われて……あはは!」
そうして、倒れているその子を2人で担いで3人の女子達は、逃げるように水野さんと私の元から消えていく。
残された私は……1人、この目の前のおかしくなっちゃった水野さんと一緒にいた。
「……たっ、助かっちゃった?」
私の口からこの一言が出ると、その直後……突然さっきまでピンピンに立っていたはずの水野さんがまるで死んだかのように意識を失ってしまう。
「……え!? 水野さん? 水野さん!」
私は、そんな倒れてしまった水野さんの事を地面に倒れて行く前にキャッチして、支えてあげる。そして、彼女の顔を見た。
まるで、普通に眠っている時のようだった。
「……この子、もしかして…………」
私は、1つある事を思いながら水野さんの綺麗な寝顔を見つめた……。
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