1年生4、5月編(入学~体育祭まで)

一学期 狭間に揺れし者

 日下部日和くさかべひよりの朝は、早い。早朝5時に起きて、まずは顔を洗う。それから、身支度をして朝食を食べる。歯を磨いた後、朝のランニングを始める。


 そして帰宅後、まず最初にやるべき事は、ミルク割のプロテインを飲み、汗を流すためにお風呂に入る。そして、体をリラックスさせた後に再び身支度。今度は学校に行くため制服を着る。


 準備を終えるとすぐ、学校へ向かう。高校に入学してまだ、少ししか経っていない4月の桜がまだ咲いている季節だが、日下部日和は小学校時代から変わらないきちんとしたモーニングルーティーンを行っていた。




 いつもの通学路にまで来ると同じ学校の制服を着た学生たちの姿も見えてくる。少しすると……男子生徒達からの視線が少しずつ気になって来る。女子生徒達のヒソヒソ話も聞こえてくる。



「……ねぇ、知ってる? あの子よ」




「え!? 1年生にして全国模試1位の才女……学年主席でスポーツ万能の超絶美人……日下部日和さん!?」




「……すげぇ。なんて、綺麗なんだ……! まるで、自由の女神様のようだ!」



「……一度、付き合ってみてぇ……」


「……馬鹿! 俺達じゃ、友達になる事さえ不可能だろうが!」



 彼女の周りにいる男子生徒、女子生徒……様々な人々が彼女の美貌に見惚れていく。その圧倒的美貌……白く長い髪の毛が風になびく。その白い髪の毛の白さに並ぶくらいの白くすべすべの肌。スカートは、校則違反にはならない程度に折った太ももが若干露出するくらいの短さでエロスと可愛さ、セクシーと美の要素を良い感じに感じられる長さ……。程よい肉付きをした太もも……胸には、2つの大きな谷の間に……オレンジ色に輝くネックレスをつけている。今どきの女子高生らしい姿の中に清楚な雰囲気のギャップを併せ持った美少女……それが、日下部日和である。


 彼女は、東京都の中でも偏差値上位に位置する私立光星高校に通う高校一年生。入学して1か月も経っていないにも関わらず、その噂は一気に学校中に広まっていた。


 それもそのはず、彼女は入学試験を成績トップで通過。入学式のスピーチではそのあまりの美貌に男子生徒だけでなく……女子生徒までも含めて皆が圧倒され、そしてこの日以降、彼らの憧れの的となる。たった1日にして彼女はこの学校一の知名度と人気を誇るようになったのだ。




 そんな日下部日和が、学校の校舎の中に入るとたちまち学校中のありとあらゆる生徒達が、挨拶をかわしてくる。




「日下部さん、おはよう!」



「おはようございます」



「……日和さんおはよう!」



「はい! おはようございます」



「……おっ、おはよう!」



「おはようございます」



 校門を潜っただけで数十人。教室の席につくまでで……毎朝、100人程には声をかけられているのだろうか……それくらい沢山の生徒達から日下部日和は、慕われているのである。それもそのはず、なんと彼女はこの数の生徒達の挨拶を全て1人1人に向けてしっかり挨拶を返しているのだ。そして、それが日下部日和の人気を確かなものにしていっているというわけだ……。



 今日も昨日や一昨日と変わらず、挨拶ずくしの朝を過ごしていた日和……。しかし、彼女が校舎内に入り、教室に向かって廊下を歩いていた時の事だった。




 後少しで教室に着くその廊下の曲がり角で突然、日和の前に大量の本を両手で抱えて持った背の小さな1人の少女が姿を現した。



 少女は、自分の顔の辺りまで本をどっさり持っていて視界が塞がっていたため当然、自分の目の前に日和がいるだなんて事には気づかなかった。



 日和は、いち早く少女がこっちに向かって来ている事に気付き、曲がり角でぶつかりそうになる直前で、反射神経の早さをフルに活かして、少女を避ける。すると、その動きでようやく目の前に人がいるという事に気付いた少女は、びっくりしたのか、たちまちバランスを崩しそうになり、持っていた本を落としそうになる。




 しかし、少女が本を傾けそうになったその寸前に日和は少女の体と本をしっかりと支えてあげて、本が零れ落ちて行かないようにしっかりと持ってあげた。




「……はにゃ!」


 その突然の事に驚く少女が、しばらく固まっていたが少しして自分と本を支えて持ってくれている日和の事を見ると、少女はたちまち恥ずかしそうにお礼の言葉を述べた。




「……あっ、あのっ……ありがとうございます!」



 少女の最初の「あ」の発音だけ裏返った感じのがちがちに緊張した様子でのお礼だったが、日和はそんな少女にも気さくに話しかける。



「……大丈夫ですよ。持てますか? 良ければ、私も一緒に運ぶの手伝いましょうか?」



 しかし、日和の優しさに触れた少女は、顔を真っ赤にして両手に抱えて持っている本で口元を隠して言った。


「……いっ、いえ! 結構です! 大丈夫です! 1人でなんとかなりますからぁ!」


 一目散に逃げるような早歩きで日和の元を去っていく少女。その後ろ姿をぼーっとした様子で見つめる日和。そんな彼女の周りでは、ちょうどさっきの事を見ていた他の生徒達が既に噂にしだしていた。






「……日下部さん、素敵だわぁ……」



「……カッコいいよねぇ」



「……やっぱり、自由の女神のようだぁ……」



 周りからのヒソヒソ声が聞こえる中、しばらくして日和は教室の中へと向かって行った。





















 さて、そんな誰もが憧れる完璧美少女の日下部日和であったが、そんな彼女にも一つだけ……絶対に誰にも言えない秘密があった。



 教室についた彼女が、突然急ぎ足でトイレに向かって行く。その様子をクラス中の他の生徒達が心配そうに見つめる。




「……どうしたんだろう? 日下部さん、体調悪いのかな?」



 そんな声がクラス中で上がる中、日和は1人……女子トイレに駆け込む。勢いよく個室のドアを開けて、中に入るとそこで彼女は、過呼吸になっていた自分の呼吸を必死に落ち着かせる。






 そして、ギュッと……彼女は両手を握りしめた。





「……うへへ」



 日和の口からそれまで全く想像もつかないような……気味の悪い笑い声が漏れる。






「……いひっ! ぐへへ……」



 そのあまりに気色の悪い笑い声の後、彼女は自分の股の辺りで両手をまたギュッと握りしめる。そして、今まで全く想像もつかないような野太い声で……日和はボソボソと喋り出す。



「……可愛かったなぁ。さっきの女の子。ちっちゃくて……ちょっとドジそうな所とかが……ぐふふっ!」





 少女の口から次から次へと……気色の悪い言葉が漏れ出てくる。



「ぐふっ! 特にあの女の子……。触った時も小さな背中が可愛くて……はぁはぁ……思い出しただけで……やばい! たまらない! はぁ~」




 日和は、顔を赤らめたままトイレの便座の上に座って1人……妄想の世界にふけった。







 日下部日和……学校中で人気のこの女、成績優秀でスポーツも万能。才色兼備なこの女……しかし、実は一点だけ誰にも言う事のできない隠された秘密が存在した。







 ――それは、彼女の前世が男であったと言う事。そして、その前世の時代から長く彼女の体に血液のように流れる女体への果てんあい興味……。幼少期、生誕の日に自分の体を最高の美貌に変えて……1人で楽しもうなどと考えていたこの女。成長して……少しは現実を知ったかと思えば違う。自分の体が予想以上の成長を遂げていく中、彼女の眠れる性欲は……この約15年の間で更に更に……熟成されていった。







 今や、自分の体だけでは満足できないくらい……他の女の姿を見るだけで……いや、どんな姿であろうと女だと分かったその瞬間に日和は、興奮する体質へと変貌してしまったのだ。







 いわば、彼女は理性の皮を被った獣。ライオンの皮を被ったロバとは、まさにこの女の事。その辺の男よりも質の悪いとんでもない変態美少女に成長してしまったのである。

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