四年後の襲来 Ⅲ

 ふと自分の頭に浮かんだ想像に、私は思わず固まる。

 しかし、すぐに私はその想像を否定した。

 歓迎されるなど、シャルルが想像している可能性などありはしない、と。


 ……何せ、シャルルは伯爵家をここまでぼろぼろにした張本人なのだから。


 そのことを等の本人が分からない訳がない。

 そのはずなのに、シャルル本人はどこか胸を張った様子だった。

 まるで、それを私が望んでいると心から思っているように口を開く。


「隣の女性、アイラが心配か? なに、アイラは第二婦人にする予定だ。一番はお前だ、マルシア。何も心配することはない!」


 その脳天気きわまりない言葉に、私は思わず口を開いていた。


「……貴方は、なにを考えているの?」


「決まっているだろう? これからのこの領地の繁栄についてだ!」


 その私の質問に、シャルルは笑顔で告げる。


「魔法の街に、この天才魔術師である私が戻ってきたのだ! これからはさらにこの領地の名声は大きくなるに……」


「ああ、本当になにも考えていなかったのね」


 私がようやく安堵できたのはその瞬間だった。

 いつの間にか身体に入っていた無駄な力をとり、私は心からの笑顔を浮かべる。


「……マルシア?」


 そんな私に、疑問を隠せない様子でシャルルが見てきたのはそのときだった。

 私はそんな彼に満面の笑みを向け、次の瞬間大きく自分の腕を振り上げる。


 そして、なにを勘違いしたのかにやけた笑みを浮かべるシャルルの顔へと、その手を振り下ろした。


「誰が喜ぶか、そんな話」


「っ!」


 ぱちん、と心地いい平手の音が響き、シャルルが声にならない悲鳴を上げ、その隣の女性は俯いたまま、肩を震わせる。

 そんなシャルルを冷たく見下しながら、私は口を開く。


「てっきり、何かよからぬことを考えてきたのだと思えば、なにも考えていなかったなんて」


「貴様、なにを考えている……! 婚約者になにを……」


「婚約者? その立場を、伯爵家次期当主の地位ごと捨てたのは貴方でしょうに」


 激怒して声を張り上げるシャルル。

 しかし、そんなことで私の胸が動くこともなかった。


「四年前、この領地を見捨てて駆け落ちして、今更迎え入れてくれるとどうして思えたの? この領地が栄えてきてすり寄ってきたのが、分からないとでも?」


「……っ」


 私の言葉に、シャルルが顔を歪める。

 それだけで、その内心を知るには十分だった。

 シャルルは必死にしおらしい表情を繕うとしながら、口を開く。


「違う! あの時の俺は、この領地を栄える為を考え、自己研鑽の旅にでただけなんだ!」


「手紙一つなく? 女連れで?」


 しかし、その私の言葉でその化けの皮もはがれ落ちることになった。

 そのあまりにも、情けない姿に内心呆れながら私は口を開く。


「自己研鑽したというなら、その成果はあったのかしら? 私たちに胸を張っていえることはあるの?」


 そういいながら、私はそんなものはないと分かり切っていた。

 いくらシャルルの才覚があっても、立場が不安定であれば、宮廷魔術師にはなれない。

 伝手もなくなれるのは、精々地方務めの魔術師だが、そんなものでは自己研鑽なんていえるものではない。


「ああ!」


 けれど、その私の予想に反して、シャルルは自信ありげに口を開いた。


「紅蓮の魔術師、その名前をお前は知っているか?」


「……え?」


 その言葉に、私は思わず言葉を失う。

 そんな私の表情に、シャルルの顔がさらに自慢げなものとなり。


「あの、ごろつき集団の用心棒が貴方なの!?」


 次の瞬間、その表情のままシャルルは固まることになった。

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