第六関門

 私は人からよく『妹っぽい』と言われる。みんなで食事へ行った際に率先してサラダを取り分けないとか、人の世話を焼かないとか、なんとなくちゃっかりしているとか、そういうところが妹っぽく感じるらしい。


 よっぽど自分の考えに自信があるのか、初対面の人から「末っ子でしょ」と断言されることもあった。それに加えて「長女は絶対にない」とも言われる。

 たいていの場合、こういった話はアイスブレイクのために振るのだろうが、私からするとアイスでしかなかった。他人から「絶対にない」と言われようが、私は上にきょうだいがいない。歴とした長女なのだ。


 しかし、仕事中は『お姉ちゃんっぽい』と言われることがあった。私の妹キャラ感よりも、同期の弟キャラ感が勝っていたのだ。


「お姉ちゃんいるでしょ」

「そうっすね、姉がひとりいます」

「やっぱり。『弟』って感じがするもん。年上から好かれるでしょ」

「年上っていうか……まあ……」


 同期が先輩にいじられていた。彼は学生時代、バイト先のマダムキラーだったらしい。本人としては2、3コ年上の女性と付き合いたいようだが、声をかけてくる女性は0がひとつ多いという。

 ふた回りも年が離れていたら、さすがにストライクゾーンから外れるか。確実にボール球である。わざわざ見極めるほどのものでもない。


「なんかふたりいると、『姉弟きょうだい』って感じするよね」


 突然、先輩に話を振られる。この流れはめんどうだ。

 視線だけを同期の方へ動かすと、彼も同じように私を軽く見た。私としては「余計なこと言うなよ」と口止めしたいところだが、あいにく彼に伝わるわけもない。微妙な空気がふたりの間に流れるだけだ。


「そうっすかねえ」


 同期はあまり納得のいっていない様子でため息をついた。こちらとしても、こんな大きい弟ができた覚えはない。

 しかし、そんなことを構わず先輩は続ける。


「きょうだいいるの?」


 第六関門、きょうだい。


「弟がいますよ〜、高校2年生です」

「えっ高校生!? 若いねー」


 弟は現在、高校2年生で16歳。誕生日を迎えれば17歳になるが、先輩からすれば6、7歳差だ。小学1年生と中学1年生くらい離れている。


「結構離れてるよね?」

「そうですねー、高齢出産だったので」


 この間の一人暮らし歴についてもそうだが、具体的な数字を出すことはできない。弟といくつ離れているとか、母親は何歳のときに弟を産んだとか、言ってしまった瞬間に推理が始まってしまうからだ。数字は絶対であり、数字が嘘をつくことはない。嘘をついているのは人間だ。


「5歳くらい離れてるとケンカもしなそうだね」

「ケンカはしなかったですね。お互い、ひとりっ子みたいな性格なので。仲はいいと思います」


 Twitterも相互フォローしてるんですよ。たまに『いいね』押してます。

 私の言葉に、「それは仲良すぎるわ」と先輩は笑った。


 第六関門突破。

 あれ。今って、Twitterは『いいね』だよな? 『ファボ』って言わないよな? ……あとで確認しておこう。

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