第47話

 俺の腕に抱きついて、ぶるぶる震える姫華さんを伴って、映画館から出た。


「どうでした?」


「思い出させないでちょうだい」


「あのシーンよかったですね。引っ越したのに、幽霊がピンポン連打してくるシーン」


「ひぃいいい!」


 ぎゅーと腕に巻きつく。姫乃たちとはまた違う柔らかさは凄く気持ちがいい。


「色々とあたってますよ」


「へ、変態、何考えているのかしら!?」


「じゃあ離れてください」


「む、むむむ、無理よ、まだ怖いわ」


 仕方ないので、腕を組んだ状態で歩く。


「映画の後は、カフェで感想会っていうのが定番ですけど、どうですか?」


「できるわけないじゃない!」


「ですよね。じゃあ、ゲーセンでも行きます?」


「は? ゲーセン?」


「このモール。ちゃんと、大手チェーンのゲームセンターが入ってるんですよ。いかがです?」


「ゲームなんて子供騙し。したことないわ」


「じゃあやってみましょう。楽しいですよ、あ、別に、カフェで感想会でもいいですけど?」


「い、行きましょう! 楽しそうだわ!」


 ということで、ゲームセンターへ。


 色々と筐体がある中、ガンシューティングゲームを選択。百円を入れると、姫華さんに言う。


「さあ始めますよ。腕から離れて銃を手に取って」


「わ、わかったわよ」


 ゲームが始まると、出てくるテロリストに銃をぶっ放していく。


「ほら、撃ってください、撃って」


「いいのね? 撃てばいいのね?」


「はい」


 姫華さんは撃ち始め、どんどん敵を倒していく。


「上手いですね」


「ふふん、当然よ。海外で拳銃の扱いは学んだわ。勿論、そこでも最優秀賞よ」


「そうですか、はい撃って」


「ええ!」


 どんどん敵が増え始め、だんだんと余裕がなくなっていく。


「貴方、右側の敵は自分で処理しなさい!」


「やってますよ。姫華さんこそ、左、残ってますよ」


「ふ、ふう。ムービーの間は、ちょっと休憩ね」


「ダメです! ハートを撃ち抜いてください!」


「え、え、え」


「ほら早く! ムービーが終わっちゃう前に!」


「ど、どうすればいいの!?」」


「俺に拳銃を向けてラブラブズッキュンって可愛く!」


「わ、わかったわ。ラブラブ、ずっきゅん♡」


「くっ、くくく、嘘です」


「くぅ〜、何でこの拳銃は本物ではないのかしら!」


「あ、ムービー終わりました。ちゃんと撃ってください」


「わかったわよ!」


 再び、ゲームに戻る。どんどんステージを進んでいき、難敵であるボスを撃破する。


「やったわ!」


 目を輝かせた姫華さんとハイタッチする。


「貴方、なかなかやるわね」


「姫華さんこそ」


「ふふっ、誰にものを言っているのかしら。さあこのまま行くわよ」


 それからもうち続け、無事クリアして二度目のハイタッチ。


「いえい!」


 はしゃぐ姫華さんは、どこからどう見ても女子高生にしか見えない。


「楽しいわね、次は何やろうかしら」


「女子高生みたいにウキウキしてますね」


「女子高……生?」


 しばらく凍りついた姫華さんはがくんと肩を落とした。


「いい歳して、私は一体何をやっているのかしら……」


「いいじゃないですか。俺は歳を気にしませんよ。それに姫華さんの見た目なら、同い年かちょっと先輩かくらいの方がしっくりきます」


「そ、そうなの……」


 姫華さんはポッと顔を赤く染めた。


「はい。だから楽しみましょう」


「……わかったわ! なら存分に楽しんであげるから付き合いなさい!」


 それからも姫華さんと遊び続け、リズムゲームにメダルゲーム、UFOキャッチャー。格闘ゲームからパズルゲームまで。存分に遊び尽くして、最後に辿り着いたのは、プリクラだった。


「こ、これって女子高生とか若い子が撮るやつ、よね?」


「はい。俺も初めて入りました」


「ダメじゃない! 私たちみたいなのが入っちゃ! 年齢を気にしない宣言したけれど、流石にキツいわ! ただでさえ私の柄じゃないのに、この歳でプリクラはキツいわ!」


 流石に姫華さんは動揺した。


 俺だって正直恥ずかしいし、柄じゃない。だけど、こういう反応を見たい気持ちの方が強い。


「そういう反応が見たかったんで、正解でしたね」


「貴方、本当に嫌なやつね」


「ほら、シールカラーを選べるみたいですよ」


 外のモニターを操作して、1人目、つまり俺の色は適当に選択し、姫華さんにかわる。


「姫華さんの番ですよ」


「うっ、本当に撮るのね?」


「はい」


「くぅ〜、分かったわよ! つっ、どれにしようかしら……」


 文句言ってたくせに、プリクラシールの色を本気で悩む姫華さんは可愛くて、笑ってしまいそうになった。が、ヘソを曲げられたら困るので、我慢する。


 姫華さんが選択し終えると、少しのロードがあって、中へどうぞの表示が出たので2人で入る。


「これでいいのね」


 姫華さんは俺からかなり間隔をあけてたので、


「ダメです。そんなに離れてちゃ、見切れますよ」


 とぐいと引き寄せる。


「ちょっ、近い! 近いわ!」


「さっきまで腕組んでたじゃないですか」


「あれはノーカンよ!」


「ほら、まずは普通にですって」


「わ、わかったわ」


 カシャ、と音が鳴って写真が撮られる。


 次は『ほっぺハートで!』と機械に指示されたので、姫華さんに教える。


「こうやって、指曲げてハートの半分を作って、ほっぺたにくっつけてください」


「そ、そんなの、この私がやるの!?」


「機械は待ってくれませんよ」


 3、2、1とアナウンスののちカシャと音が鳴る。


 撮り終えてから姫華さんを見ると、ちゃんとほっぺハートをしていた。


 また、『曲げピースで!』と指示が入る。


「今度はピースの指を曲げる、曲げピースです」


 また恥ずかしそうに姫華さんはしてくれる。


 そして次は、『2人でハートを作って!』と指示が来た。


「無理よ!」


「やりますよ」


「く、くぅ〜」


 ハートを片側ずつ作って、くっつけると、また写真が撮られる。


「も、もうないわよね」


「多分、まだありますよ」


 案の定、まだあって『ハグしよう!』と指示が来た。


「これはしないわ! 誰がこんな男と抱き合うものですか! いい加減になさい!」


「機械に怒らないでくださいよ。ほら、ぎゅー」


「〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?!?!」


 姫華さんを抱きしめる。抱きしめると華奢で小さくて女の子みたいなのに、柔らかくて、温かくて、甘い匂いがするせいで、逆に抱かれているような気もする。


 カシャとなると俺は姫華さんを離す。


 ぽけっとしていたが、すぐに顔を赤くして怒ってくる。


「貴方、セクハラよ! 犯罪よ! 訴えられたら負けるわよ!」


「姫華さんはハグ良くなかったですか? 俺はちょっとほっとした気分になりました」


「よ、良くないことはなかったけれど、それは!! 心理学や、脳からドーパミンが出るからであって!!」


 なんて姫華さんが怒っている最中に、最後の指示が来た。


『最後は2人でキス!』


「な、な、な……」


 真っ赤な顔で口をあんぐりと開けた姫華さん。


「姫華さん」


「う、う……」


 心を決めたように目を閉じた姫華さんに言う。


「流石に、キスはしませんよ?」


「……」


 無言で蹴ってきたせいで、最後の写真はタイキックになってしまった。


 のれんの外に出て、落書き……は、もう流石に可哀想なのでやめて、撮ったままの写真を選んで印刷されるのを待つ。


 写真が出てくると、俺は姫華さんに片方を渡す。


「どうぞ」


「……なにこれ」


「何ってプリクラですよ。大分、修正入って、顔変わってますけど」


 俺の方は盛れてるのかもしれないけれど、姫華さんは元々超美人な分、現実の方が可愛い。


「そ、そう。よかったわ。修正でもなければ、私がこんな乙女みたいな顔するわけないもの」


 乙女? 言われてみれば、写真の姫華さんは、恋する乙女みたいな感じがする。が、でも一日中、こんな感じだった気がするので、制服補正ってやつだろう。


「じゃ、記念もできたところで、そろそろ帰りますか」


「そうね、ひどく疲れたわ」


 そう言った姫華さんに今更ながら、大概なことをした申し訳なさが湧いてくる。


「あの、色々とすみませんでした」


「そうよ、反省なさい。私がどれだけ恥ずかしかったか。ただ、まあでも……」


「まあでも?」


「青春を送れたみたいで楽しかったわ」


 姫華さんはニッと心をがっしりと掴む笑顔を浮かべた。そしてシールをしまい、歩き出したが、あ、と思い出したように立ち止まる。


「これ、貴方にあげるわ」


 渡されたのは名刺だった。


「もともと、これを渡す用事もあったの。貴方、雪城に入る予定なんだから、私の連絡先をしっておきなさい。困ったことがあれば、助けになるわ」


 そう言った姫華さんの顔はさっきまでとは異なり、ちゃんと出来る大人の顔に変わっていた。


「姫華さん……えい」


「ひゃん! だから何でつっつくのよ!」


「すいません、何か恥ずかしくて」


「やっぱり、貴方は地獄に落ちるわ!!」


 そうして、姫華さんとの休日が終わり、月曜日には姫華さんの言った通り、地獄に落ちたのだった。

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