第12話
先生は普段巻物みたいになってるタイプのスクリーンに映し出されたpdf をレーザーポインターを使いながら早口で解説し、それをクラスメイトたちは必死こいて食らいついている。
授業初日にも関わらず、授業内容はハードだ。
基礎科目の授業は1科目1時間と短い。だけど内容が少なくなったわけではなく、事前に授業内容をpdfで配布されていて予習を前提に進めるため時間的に短くなっている。
それはどうしてか。当然、桜宮学園特有の授業の時間を作るためだ。
「初日からハードな授業になりましたが、基礎科目はこのように進められるので、遅れずついてくるように。そして、今日の午後からは執事、メイドの技術を学ぶ科目になります、がその前に……」
先生はpcを操作して、スクリーンに表を映し出した。
「これは早速今日の終業後から始まる課題、それに取り組む生徒の組み合わせ表です」
名前がずらっとした表を前にして、クラスメイトたちはざわついた。
今日から始まる課題は、早速、貴族クラスの生徒の従者として取り組むことになっている。そのため、どのお嬢様、御坊ちゃまと、誰と組むことになったのか気になって仕方ないのだろう。
「お昼休み中はここに掲示しておくのでその間に確認しておいて、班の横に書かれた所定の場所へと放課後向かうように。あとは、そうですね。このことに関して質問があれば、今受け付けます」
先生がそう言うと、前の方にいる男子がすっと手をあげた。
「先生、貴族クラスの生徒1人に対して、平民クラスは1人だったり4人だったりとばらつきがあるのはどうしてですか?」
その通りで、人数配分にばらつきがあって、表は歪な形になっている。
「お答えします。この組み合わせは、生徒個人の能力を鑑みて、戦力差が広がらないように配慮しているからです」
「戦力差……ですか?」
「はい。最初の課題であっても、その出来不出来は成績に反映されます。貴族クラスの生徒の成績は、名声だけではなく、優秀な跡取りがいると見做されて株価にまで影響することもあります。ですので、平民クラスの生徒の質で戦力差が生まれないよう調整してあるというわけです」
質、という言葉に何人かの顔が曇る。多いところに所属した生徒は能力がないと見做されてるに等しいのだ。
本当、とんでもない設定の学校だな、倫理観とかどうなっているんだ。
「人数が多いグループに配されていても、そう気落ちする必要はありません。あくまで、今回の課題に対する能力が不足しているだけです。別の課題ではまた異なる評価になるでしょう」
ほっとした生徒に、ただし、と先生は付け加えた。
「現状、力不足なのは事実です。努力を惜しまぬように」
そして先生は、他に何かありませんか、と質問を募集するが、今度は誰からも手があがらなかった。
「それでは、これにて終了とさせていただきます」
そう言うと同時に鐘が鳴って、先生は教室から出て行った。
さて……表を見る、までもなく、俺は誰と組み合わせなのか理解していた。
「理玖、姫乃と2人きりの班ってどういうこと?」
黒いオーラを纏った結衣が詰め寄ってくる。
「いや、運だししょうがないよね?」
「何、運命ってこと?」
冷たい指で頸動脈をするりと撫でられれる。
たったそれだけなのに、暗い殺気が篭っていて、泡吹いてガクガク震えそうになった。
「顔が青いよ、理玖。ごめんね、怖かったよね」
座っている俺の頭を結衣が抱きかかえてきた。幸せな柔らかい感触と温かい体温、そして花のような優しい甘さの香りに包まれる。筆舌しがたい安心感がそこにはあって、今までの辛いことを吐きながら涙を流したくなった。
「もう大丈夫だよ。よしよし、理玖。よく頑張ったね」
頭を優しく撫でられて、うぅ、結衣ママぁ〜とバブみを感じたけれど、よくよく考えなくとも、怖がらせてきたのは結衣なので、俺はさっと腕から抜け出す。
「何これ?」
「理玖を落とす作戦の一つ」
「どういう考え?」
「理玖を怖がらせて精神が不安になったところで甘えてもらえば、甘える強い悦びを覚えるかなって」
発想、怖。
「んで、怖がらせて甘やかすを続けて、理玖に甘える悦びを覚えさせたら、そのうち理玖は怖がらせられることにも悦ぶようになるかなって」
発想、怖。
「そしたらもう、互いに依存してる状態だから、ずぶずぶの沼に嵌まれて幸せかなって」
発想、怖。
銀髪碧眼のギャルとかいう見た目なのに、愛情が昏すぎる。
「でもさ、やっぱ照れるね。ハグしたりとか、こーいう、恋人っぽいこと」
照れながらギャルっぽく、あははー、と笑う結衣だけど、多分恥を覚えるのはそこじゃあない気がする。
「それはさておき、理玖」
かなりイカれた事案をさておくな、と突っ込みたい気持ちを我慢して「何?」と尋ねると、結衣は最初の背筋が凍るような笑顔を浮かべた。
「姫乃と2人きりになっても、浮気しちゃダメ、落とされちゃダメだかんね?」
「怖がらせようとしてる?」
「いや、これはガチ」
「そ、そうですか」
「本当に守ってね? じゃないと私、何するかわからないからね?」
結衣の言葉に、それでまだ理性はあるんだ、と震えた。
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