第8話
「ねえ、理玖くん? どういうことかな?」
「まさか、姫乃にも同じような真似したわけじゃないよね?」
「ちゅき?(なにこの状況?)」
俺は恐怖で震えたあがった。
どうすればいい、この状況。どうすれば安全にことを乗り切れる?
……いや。もう本当のことを話そう。
2人の話を聞いて思った。いかに、ぶっ飛んだストーリーであろうと、彼女らからしてみれば関係がない。若菜と湊理玖は2人で難題に挑み、危険を乗り越えて結ばれたのは事実。結衣が囚われのお姫様から救われて結ばれたのも事実。姫乃だってそう。あり得ないと思われる経験を実際にして、湊理玖と大恋愛をした。その事実は変わりなく、持っている感情も本物なのだ。
だけど、俺の方は違う。俺は彼女らと恋愛する湊理玖であっても、彼女らと恋愛した湊理玖ではない。そしてそのことを、本物の恋愛感情を持つ彼女らに、隠し続けるのは誠意に欠ける。
だから本当のことを話そう。
そう心に決め、俺は口を開く。
「結衣、若菜、聞いてくれ」
2人は何か言いたげに眉をしかめたが、黙って頷いた。
「さっきの結衣の話も、若菜の話も事実だ」
「コロ……」
「待ってくれ!」
俺は転がすの可能性を残すため、結衣の言葉を遮った。
「考えてみてくれ、どちらも事実だとすると、時間や人間関係がおかしいだろ?」
異常に気づかせるためにそう言うと、若菜は口を開いた。
「いやそもそも、私が未来からタイムリープしてきてる時点で、おかしいことには気づいているよ。だから言われなくても、さっきの間のときに、結衣の話も、そういう世界線から帰ってきた結衣がここにいるって飲み込んで、それを踏まえて理玖に怒ってるんだけど?」
「え」
「え、じゃないっしょ。そりゃ、未来の記憶を鮮明に覚えているんだから、私だって若菜と同じこと思ってるから。そんで、そう思った上で、理玖の浮気にキレてんじゃん。理玖、両方の話を否定しなかったから、両方の記憶がある。つまり、理玖は単一の存在で、世界線を行き来できる存在だから、三股したことは理玖の選択。そのことについてキレてるんだけど?」
ヒロインがSFにつおい……。
「ちゅき?」
何の話? って言ってる。こいつは愛おしいなあ。
というより、2人が理解しているのなら話が早い。
「大体結衣の言う通りだけど、違う点がある。俺は単一の存在だけど、湊理玖はそうじゃないんだ」
「どういうことかな?」
「湊理玖はギャルゲーの主人公で、俺はギャルゲーのプレイヤー……いや俺は湊理玖に変わりないけど、未来の記憶は、ギャルゲーのプレイヤーとしての記憶なんだ」
2人の頭の上に?マークが浮かんだので、補足する。
「この世界はギャルゲーの世界で、3人はギャルゲーのヒロインなんだよ。それで俺はその主人公。そして俺にあるのは、そのゲームをプレイした記憶なんだ」
「ねえ理玖?」
「何、結衣?」
「ギャルゲーって何?」
「私も。ギャルゲーって何かわからないんだけど?」
……へ?
そんだけ飲み込み早いのにギャルゲーをやったことがない? そもそも知らない?
いやこの世界にそもそもギャルゲーはあるのか?
あるだろう。あくまで俺たちにとっては現実。ギャルゲーもあるに違いない。
だったら。
「わかった。結衣、若菜、それに姫乃も、今日ギャルゲーをやってくる、は無理でも、調べてきてくれ。それでまた明日、ここで話し合おう」
俺の提案に2人は渋い顔をしたが、わかった、と頷いた。
「姫乃もわかった?」
「ええ。わかったわ。大体話が理解できたもの。私もギャルゲーとやらを勉強してくることにするわ(ちゅき)」
「う、うん。じゃあそういうことで」
と言い残して、逃げるように俺は屋上から去った。
扉を閉め、階段を降りながら、大きく息を吐く。
ひどく疲れた。ただこれで、諸々の問題は解決した。
彼女らがギャルゲーについて理解すれば、愛した湊理玖はいないのだと気づくだろう。ならば俺への好意がなくなり、自然と疎遠になるはず。そしてそうなれば、俺はギャルゲー主人公の道を歩まずとも済む。
最愛の人を失った彼女らのことは、気の毒には思うが、ここでこの話は終わりだ。
さて。ギャルゲー主人公の役割から解放されたことだし、これからに目を向けよう。
そうだな、解放されたとはいえ、せっかくギャルゲー主人公になったんだから、スキルを活かしたyoutuberでも目指すか。楽そうだし。
うん、俺の未来は明るいな、なんて思いながら、軽い足取りで帰路を辿った。
***
翌日の屋上、昨日よりベッタベタに、結衣に、若菜に、背中には姫乃にくっつかれていた。
「……あのさ、ギャルゲーの件、どうなった?」
「昨今、一番人気のギャルゲーをやってきたわ」
「うん、私も姫乃と同じで、ドキドキ漫研部やってきた」
「2人とも唯一やっちゃダメなギャルゲーやってきたんだ……」
「あれ、若菜はやってないの?」
「うん。やってない。私は別のゲームをした」
「ちなみに、何てタイトル?」
「僕と彼女と彼女の恋」
「あの、それもダメだわ」
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