第6話
「ちょっと寒くなってきたから帰るね。それじゃあ」
と席を立つが、ぐいと腕を引かれてひきとめられる。
「理玖、どこに逃げるつもり?」
結衣が攻略される前のように冷たい。
「理玖くんが屋上に行ったと聞いてきてみれば、ねえ理玖くん? 私というものがありながら、これはどういうことかなぁ〜?」
猫撫で声の若菜に逃げ道を防がれる。
如月若菜。仮面優等生のエムっ子。代々政府の要職を担ってきた一族、警察庁長官の娘。
あれ? 詰んだ?
「私というものがありながらって何? 理玖の恋人は私なんだけど?」
「ん? 何かにゃ? 結衣は頭がおかしくなっちゃったのかな?」
「は? おかしくなったのは若菜でしょ?」
ぴきぴき、と2人のこめかみに青筋が立つ。
ひっそり逃げようとしたが、腕はガッチリと掴まれたままで逃げられそうにない。
「いやいや、結衣は私の恋をサポートするのに、私と理玖を2人きりにしたりしたよね?」
「そんな事実ないし。むしろ私の思いに気づいた若菜が、4人で遊びに行こうって誘ってドタキャンして、私と理玖のデートをセットしたじゃん」
しばらくの無言ののち2人は同時に口を開いた。
「「頭でも強く打った?」」
2人の息ぴったり! これは仲良くやれそうだな! 安心安心!
じゃっ、ここらでお邪魔虫は退散……できない。若菜に視線だけで足を止められた。
「記憶に齟齬があるようだけど、私と理玖が結ばれたことは事実だから」
「私もそうなんだけどな〜。しかもドラマチックに結ばれた」
「何? 一応、聞いたげる」
若菜は「まずは馴れ初めからだね」と遠い目をキラキラさせて語り出す。
「運動神経抜群、頭脳明晰の私は優等生として振る舞ってきた。私自身も完璧な優等生の自覚があって、私に敵うものは誰もいないとすら思ってた。だけどね、護身術の授業で私を容易く組み伏せた理玖にね、プライドをぽきりと折られちゃったの」
そうだった。続きはたしか……。
「そしたら、一番でいなきゃ、と無意識にかかっていた重圧から解放されて、私は理玖を意識した。あと組み伏せられたことに、ぞくぞくと興奮を覚えて意識し始めた」
そんなんだった……。このゲームのライター、絶対恋愛経験ないだろ、そう思ったことを覚えている。
「偉いさんが赤ちゃんプレイに嵌るような感じで、私は理玖くんに嵌っていった。積極的に接して、罵られようと近づき続けると、理玖くんも私を詰ることに拒否感をなくしていった」
「理玖?」
知らない。知らない、けれど、そういう未来もあるのだから、目をそらすことしかできない。
「そうして仲が深まったころ、一学期の終わりのペア課題で、理玖くんと2人で成績トップを収めた勢いで私は告白した。そしたら、理玖くんも付き合おうと言ってくれた」
勢いってすごいんだな、と我ながら冷めた感想を抱く。
「付き合うことになった私たちだけど、困難が立ちはだかった。どこの馬の骨だかしれない男は如月家に相応しくない。そう言った父が、全課題、2人でトップ合格できたら付き合うことを認めるって条件を出してきたの」
全課題トップ合格。俺の目指すところは退学しないくらいの成績。関わりたくないという思いが強まる。
「私たちはそれを呑んで努力した。そして全ての課題にトップ合格し、最後の試験を残すだけになったある日、テロリストが警察を狙うという噂を私たちは耳にする。父が標的になるかもしれないと思った私たちは、愛情パワーでテロ組織を壊滅させた」
愛情パワーでテロ組織を壊滅させるんだ、すご〜い。
……終わってるよ、このゲーム。2人でテロ組織壊滅って、いろいろと何だよ。俺はよく3人分もクリアしたな、このゲーム。
「そのせいで、最後の試験は失敗に終わったんだけど、テロ組織壊滅の功績で父に2人の仲を認められて、私たちは結ばれたんだ」
若菜が話し終えると、結衣はしらけたように言った。
「もうちょいましな嘘つきなよ」
結衣の反応が当然すぎた。
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