【最終回】流れに身を任せる俺
天使のアンジェラに背中を押されたらしい木下さんが、再びキスを求めてくる。
さっきは一瞬触れただけだが、俺達は付き合っていないんだぞ。
付き合ってないのに、キスをして良いのか…?
木下さんの顔が、徐々に近付く。……再び触れる俺と彼女の唇。
さっき触れた時も思ったが、女子の唇って柔らかいな…。
瞬く間にキスの虜になった俺は、木下さんの行動を受け入れる。
俺はキスについてサッパリなので、彼女に合わせるのが精一杯だ。
…彼女も興奮しているのか、俺を押し倒し馬乗りになりながらのキスに移行する。
彼女の積極性に驚かされるな。変貌ってレベルか?
別人になったって言われても、違和感ないんだが…。
「ふぅ。いったん休憩…」
長時間のキスでお互い呼吸しにくかったので、木下さんが距離を置く。
俺はその間に体を起こし、そばにいるアンジェラを確認する。
…ニヤニヤしながら俺達を観ているな。
「良ちゃん。キスの感想はどう?」
どう? って言われてもな…。
「良かったに決まってるよね。2人とも、気持ちよさそうな顔してたし♪」
アンジェラに言われるのは悔しいが、その通りだ。
「これで2人は両想いだと自覚できたんじゃない? だからさ、もう付き合いちゃいなよ♪」
木下さんにキスされたことで、彼女が魅力的に見えてきた。
今なら片想いになるかもしれないな…。
我ながら情けないが、女子と目が合っただけで好きになる男もいるようだし、それの派生みたいなものだろう。
「私は、冴木君と付き合いたいな♡」
木下さんはトロンとした目をしている。
彼女と付き合ったら、あのキスを好きなだけできる…。ありがたい事じゃないか。
「お…俺も、木下さんと付き合いたい」
キス目的なのは不純だろうか?
「ありがとう、嬉しいよ♡」
彼女は微笑んでくれた。
「やっと2人が付き合ってくれた…。手間かけさせてくれるよね」
アンジェラが肩の荷が下りたようなことを言う。
せっかくの機会だ。残った疑問を全てアンジェラに訊くとしよう。
今なら全部答えてくれる…はず。
「そもそも、天使のお前が人間の俺達の恋路を気にするのは何故だ?」
住む世界が違う奴の恋愛事情なんてどうでも良いはずだろう。
「今の日本って、少子高齢化なんでしょ? それを気にしてる天使長が、なるべく多くのカップルを作るように、あたし達天使に命令してるんだよ」
天使長というのは、アンジェラの上司的存在に違いない。
そんな指示を出す理由は、天使長やさらに上の立場の天使しか知らないだろうな。
「あたしは良ちゃんと晴ちゃんのカップルを成立させたから、報奨金が出るんだ」
嬉しそうに言うアンジェラ。
「天使も金を使うのか。人間とそう変わらんな」
俺には想像できない生活をしていると思ったぞ。
「変わらないよ~。人間だろうが天使だろうが、生物だから感情はあるし上下関係もあるの。天使同士の争いだって、珍しくないんだから」
「そうなのか…」
天使って、意外に身近な存在かも?
「…そうだ、アレをやるの忘れてた」
そう言ったアンジェラは、何かを唱え始める。
すると、俺と木下さんの左手薬指に指輪が出現した。
その指輪は、瞬く間もなく消えた…。
「おい! 今の何だ!?」
アンジェラの魔法の実験材料になるのはゴメンだぞ。
「2人は付き合ったんだから、その証だよ。別れる時は、あたしの許可がないと無理だからよろしく」
「何でそんな勝手なことを!?」
コイツ、高校生の時に付き合ったカップルは、そのまま結婚すると思っているのか?
「さっき言ったよね? 少子高齢化を何とかしたいって。そのためには、まず結婚してもらわないといけない訳。にもかかわらず、簡単に別れられたら意味ないの」
俺は木下さんとキスしたいから付き合ったのに、結婚のことまで言われるとは…。
「結婚がどうとか言われるなら、俺は木下さんと付き合わないぞ」
失礼なのは百も承知だが、今後木下さん以上に素晴らしい女性と会えるかもしれない。その可能性を潰したくないな。
「え…」
泣きそうな顔をする木下さん。
「良ちゃん。浮気はダメだぞ♪」
子供を叱るような軽い口調で言うアンジェラ。
「木下さんこそ良いのかよ? 俺と結婚なんて」
彼女も反対してくれれば、カップルは不成立になるはず。
「良いの。私は冴木君と結婚したい!」
彼女の態度的に、意志は曲げないようだ。
絶対におかしい。結婚のことを躊躇なく決めるなんて、背中を押したレベルじゃない。彼女は催眠にかかっているんだ!
「アンジェラ! 木下さんにかけた魔法について詳しく教えろ!」
「背中を押したのはさっきも言ったけど、実は晴ちゃんの、良ちゃんに対する好感度を常にMAXになるようにしたんだ♪」
好感度の操作だと…。
「やっぱり、お前が余計なことをしたから木下さんは…」
正常な判断ができなくなっている…。
「それは違うよ。だって魔法をかける前に、晴ちゃんに確認したもん」
「んな訳あるか!? お前が嫌がっている木下さんに無理やりかけたんだろ」
「冴木君。アンジェラさんが言った事は本当だよ。私からお願いしたの」
この言葉だって本心とは限らない…。
「いつか現れるかもしれない人のことを考えるより、今気になる人と一緒にいたい。そう思ったから、私はアンジェラさんに魔法をかけてもらったんだ」
一理あるが、これだって言わされているのかも…?
「俺達の結婚に関して、互いの両親がなんか言ったらどうする?」
俺の両親は何も言わないだろうが、彼女の両親は不明だ。
「そんなの、魔法で何とかするに決まってるじゃん。良ちゃん鈍いな」
またアンジェラに小馬鹿にされた…。
木下さんを元に戻すにはアンジェラに何とかしてもらうしかないが、この天使がそんな事をする訳がない。
天使の方針とアンジェラの報奨金を、ないがしろにするからだ。
俺1人ではどうすることもできない。なら受け入れたほうが良いのか…?
木下さんと末永く過ごすために…。
「アンジェラ。木下さんにかけた魔法を、俺にかけることはできるか?」
「もちろん♪」
これで俺と木下さんは、他の異性に興味を持たなくなる…はず。
浮気されることはなく、互いの好感度は常にMAX。
もしかしたら、普通のカップルより幸せになれるかもな。
「…なぁ。そんな万能な魔法があるなら、さっさとかければ良かったろ?」
回り道をしているような気がするぞ…。
「本当は言っちゃいけない事だけど、天使の魔法はなるべく人間にかけないほうが良いんだって。生態系を崩すからだとかなんとか。あたしもよくわからないけど」
天使は少子高齢化のためにカップルを作らせてる訳だが、魔法でどんどんカップルを作ったら、今度は逆に人口を増やし過ぎることになるのか…。
でも報奨金なんて用意したら、すぐ魔法を使う天使が出るよな。
どうなってるんだ? 天使の考えはサッパリだ。
…そんな難しいことは無視しよう。俺は木下さんと死ぬまで一緒に過ごす。
ただそれだけだ。それ以外のことは、どうでも良い。
「…で、魔法かけて良いんだよね?」
魔法をかける前に俺が質問したから、アンジェラはちょっとイラついている。
「ああ。頼む」
俺は目を閉じる。意味はないかもしれないがな。
その後すぐに、アンジェラの詠唱っぽいのが聞こえる。
…温かい何かに包まれた感じがする。言葉にするのは難しいな。
「もう良いよ」
アンジェラの言葉を聴き、目を開ける俺。
…特に変わった感じはないんだが。
「カップル成立おめでとう♪」
そう言った後、アンジェラはテントから出て行った。
そういえば、長い間このテントにいるような…? 今何時なんだ?
「…木下さんヤバいぞ。あと10分で昼休みが終わる」
「えぇ! 私達、まだお昼食べてないのに…」
キスと魔法に関する話を聴いたら、こんな時間になってしまった。
俺達は急いで昼を済ませた後、テントを出た。
魔法をかけてもらってから、アンジェラには1回も会っていない。
別のカップル成立のために、忙しくしているんだろう。…多分。
俺と木下さんは、あの昼休み以降ほぼずっと一緒にいるようになる。
それに対し、クラスメートは誰も指摘してこない。
これもアンジェラのおかげかな。
ある日の放課後、初めて木下さんの部屋にお邪魔することになった。
俺に見せたいものがあるんだとか。
何なんだろうな? 放課後が楽しみだ。
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