第4話 異世界転生と言えばやっぱり

「ボクのこと、怖くない?」

「ううん、怖くない! それよりすごかった!」

「そうでしょう。ネロ様は凄いんです!」


 恐る恐ると言った感じで聞いてくるネロ、ネロの凄さに語彙力を失った俺、そして何故かドヤるラムルさん。


「そ、そう?」

「うん! ネロさんこんなに可愛いのに、あんなに強いなんて……かっこよかった!」

「か、可愛い!?」


 自分の頬を両手で挟み、顔を赤らめて照れるネロ。8歳の子供らしく純粋で素直な感じで言ってみました。コミュ障の俺にはこれが限界だが、ネロは案外チョロいかも知れん。


「それよりネロ様、今後の事をお話している途中でした」

「はっ!? そ、そうだね。座って話そうか」


 8歳の少年に可愛いと言われ何やらブツブツ呟いていたネロを、ラムルさんが落ち着かせる。でも可愛いなんて言われ慣れてると思うんだけどな。だって本当に可愛いし。


 俺とネロは再びテーブルで向かい合って座った。ラムルさんは相変わらず後ろに控えている。さっき少し話して分かったが、ラムルさんは俺のことを嫌ってるとかじゃなく、単に表情が変わらない人のようだ。


「ウォード、これからなんだけど、どこか行きたい所はある?」


 俺が住んでいた村はデモニオの襲撃で全滅した。父さんもその時死んだし、母さんはずっと前に死んで兄弟もいない。そもそも村以外で知ってる人がいない。


「特にない、です」

「それなら、まずは人族の町でウォードの冒険者登録をしよう。身分証になるから。その後はボクの国に行こうと思うんだけど良いかな?」


 冒険者! 異世界転生と言ったらやっぱり冒険者だよね! ちなみにネロの国には冒険者ギルドがないらしい。


「8歳でも冒険者登録できるの、ですか?」

「うん、本当は12歳から。ただ、Cランク以上の冒険者が『弟子』にする場合は『見習い冒険者』として登録できるんだ」


 冒険者はGランクからスタートで、実績に応じてAランクまで上がる。その上にはSランクもあるが人型で到達するのはほぼ不可能らしい。


 そして、12歳未満の子供を弟子にする場合には大きな責任が伴う。その子供が罪を犯せば連座で責任を取らされるし、万が一弟子の子供を死なせたら、過失の大きさによって冒険者資格の剥奪から最悪死刑まであるんだって。故意に死なせたら問答無用で死刑とのことだ。


「ボクはBランク、ラムルがCランクだから、弟子にするのは問題ない」

「ネロ様は実力で言えばSランクです」

「いや、そんな事ないと思うよ? せいぜいAかな」

「いいえ、間違いなくSです」


 ネロがBランク、実力はA以上でラムルさんがC。って言うか、ドラグーンも冒険者登録出来るんだね。


 俺を助けてくれて、数十人の部隊を率いて、側仕えがいて、実力のある冒険者。いったいネロって何者?


「あの……ネロさんってどういう方なの、ですか?」

「ネロ様は火焔神龍国クトゥグァの第三王女様です!」


 ラムルさんがただでさえ大きな胸を張って今日一番のドヤ顔をする。無表情でも分かるぞ。あれは絶対ドヤ顔だ。


 おうじょ……ってあの「王女」だよね? まずドラグーンの国がある事も初耳なんだけど、そこの王女様?


 ボクっ娘美少女で魔法少女でBランク冒険者で王女? 属性が大渋滞だな!


「火焔神龍国……王女様……はっ! し、し、し、失礼しましたー!」


 俺は椅子から飛び降りて美しい土下座をキメた。これでも元日本人だからね。土下座の一つや二つお手の物さ。異世界で貴族・王族に失礼な態度をとったら「不敬罪だ!」と言われてその場で斬り捨てられるまである。俺の少ない知識ではそうだ。


「やめてやめて! ボクの国はそんな堅苦しい感じじゃないから!」


 ネロが自ら俺の傍に来て、両脇に手を入れて立たせてくれる。俺の目の高さに合わせるように屈みながら言う。顔が近い。


「今まで通り……ううん、『様』も『さん』も要らない。敬語も要らない。普通に『ネロ』って呼んで。ね?」

「う、うん。分かりま……分かった」


 大きな金色の瞳を潤ませながら言われたら、了承せざるを得ない。ラムルさんをチラッと見ると、別に言葉遣いが丁寧じゃなくても良いみたい。


 ネロが何者か分かったところで、俺達は早速ここから近い人族の町に向かう事になった。


「この子達に乗って行くからね!」


 天幕の裏側に連れて行かれ、「この子達」を紹介された。それは、某恐竜映画に登場するヴェロキラプトルに似た、ぶっとい後ろ足で立つ体長3メートル近い小型のドラゴンだった。翼はない。こういうタイプを地竜というんだったかな?


「この子達は『走竜』。こっちの青い子がプラネリア、そっちの緑の子がマフネリアだよ」

「クルゥゥ!」


 濃い青色に、喉からお腹にかけて白っぽい色のプラネリアが、ネロに撫でられて鳴き声をあげた。ヴェロキラプトルに似てると思ったけど、映画で見たあれより目が大きくて愛嬌のある顔をしている。眼球は黄色で、縦に細く黒い光彩が俺をじぃっと見ている。


 もう一頭のマフネリアは黄緑と白のツートンカラーで目は同じだ。こちらも俺を値踏みするように見ていた。


「ウォードのこと気に入ったみたい」

「え? そうなの?」

「うん。だって威嚇しないから」


 気に入らないと威嚇するんだ。大人しそうに見えるけど、やっぱ竜だから強いんだろう。気に入られて良かった。


 ラムルさんが何もない空中から鞍を取り出して二頭の背に付け始めた。


「えっ!? どこから出した?」

「フフ。私は無属性魔法が使えるのです。これは次元収納。側仕えの嗜みです」


 おお! これは所謂アイテムボックスみたいなものか! テンション上がるぅ!


「いいよね、次元収納……ボクはえん属性だから無属性は使えないんだ」

「焔属性?」

「ああ、火属性の上位が焔属性だよ」


 火・水・風・土の四大属性には、それぞれ焔・ひょうらんの上位属性がある。上位になるとより強力な魔法が使えるらしい。この他に、光・闇・無の三つの属性がある。この三つには上位属性はない。

そして、七つの属性を全て究めると最強と言われる「らい」属性を習得出来る可能性が生まれる。


 種族と種族属性が合致している場合、魔法属性は一つしか持てないという話だ。俺みたいに人族なのに種族属性が龍というイレギュラーは、複数の魔法属性を持てるんだって。


 つまり、俺も無属性魔法を使えるようになったら、次元収納が使えるってことだ!


 テンションがめちゃめちゃ上がった俺は、ネロに抱えあげられてプラネリアの背に乗せられた。いや、プラネリアはちゃんと「伏せ」の姿勢になってくれるんだけど、それでも胴の高さが1メートル以上あるんだよ。俺の後にネロが乗ると、プラネリアはゆっくりと立ち上がった。俺はネロに後ろから抱かれるような形だ。マフネリアにはラムルさんが乗った。


 そうそう、俺が鉱山から持って来た槍も、ラムルさんが次元収納に入れてくれた。何と言うか、俺が生きている証のような気がして手放せなかったのだ。天幕はそのままで残されたドラグーンの戦士達が使うそうだ。


 こうして、俺とネロ、ラムルさんと二頭の走竜たちは人族の町に向けて出発した。

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