48話 猛者ぞろい
俺達は互いの自己紹介をする間もなく、厳戒態勢に移行した。
さっきは耳元からの
NPCではないと、バレてしまったのは仕方ない。
ならば、ここは強気で行進するのみ。
がやがやとさざめく
ジョージの正面に立った傭兵はなぜか『ヒッ』と怯えた顔をして道をあけてくれるから不思議だ。
まぁそんなジョージのおかけで進む足が止まることもない。もっと絡まれるかと思っていたのだが、俺とミナを挟むように、周囲に対して威嚇をあらわにした
二人は完全武装といった出で立ちで、その恰好はおよそ舞踏会に出席するようなものではない。
「あいつら、どこの誰だ」
「あれは……小規模
「そんな奴らが何故、鉄血ジョージといるんだ?」
「百騎夜行ねぇ……さしずめ、謎の姫を守る騎士といったところか?」
口々に憶測や感想を述べる
そんな観衆のどよめきに、割って入るようによく通る声が周囲に問い掛けた。
「たかだか、騎士ごときでは力不足だと思わないか! 諸君!」
声の主は両手を広げ、恐れるものなど何もないといった、傲岸不遜な態度でこちらを一心に見つめている。
燃えるような赤髪に上質なローブを着込んだ少年、『百鬼夜行』のグレン君だ。後ろには副団長であるユキオくんを引き連れている。
「我が姫、お迎えにあがりました」
ツカツカとこちらに歩み寄ってきたかと思いきや、素早くジョージと俺の間に割り込み、颯爽と片膝をついた眠らずの魔導師。
グレン君は自信満々に前髪を右手でかきあげ、左手を差し伸べてくる。
なんだか、これが当たり前だとでもいうかのような親密な態度に、俺は首をかしげる。
「ずいぶんな態度じゃないかグレン」
「『戦争』中のボクたちが、
すかさず
しかし、そんな事は意にも解さないといったように涼しい笑みを浮かべるグレン君。
「愚かしい。これは我と姫、二人の問題であって、貴様らが横から口を挟む資格などない」
いや、まぁ確かにそうかもしれないけどさ。
「この舞踏会で、姫をエスコートする大役は我と決まっている。なぜなら、可憐な姫君ご自身が、良き友人である我を指名するからだ」
なんでグレン君はそんなに自信満々なんだろ。
俺はどちらかと言ったら、
どう対応するのがベストなのか判断しあぐねていると、足を止めたジョージがくるりと振り返り、グレン君のおしりをなでた。
「ひぐぅっ」
その動きは清らかな流水の如く、滑らかにして俊敏。
その場にいた誰もが反応できなかった。
グレン君の少しみっともない声が上がるのをにこやかに眺め、ジョージは語りかける。
「あらあらぁん、
ただのオトコではないオカマが言うと、言葉に重みがあるな。
「オトコなら無駄な争いをしてる場合じゃないと思うわぁん? グレンちゃんは天使ちゃんの敵なのかしらぁん?」
「いっいえっ」
ジョージの両目閉じウィンクに気圧されたかのように、裏返った声でしどろもどろになるグレン君。
「なぁらぁ、話しは簡単ねぇン? 天使ちゃんさえ良ければ、後についてきなさぁいん」
ジョージがチラッと俺に視線を寄越した。
確かにここでグレン君と無駄に争うのは悪手にしかならない。ならば、
「べつにいいよ」
俺の了承を得たジョージは、グレン君を有無言わさぬ動作で腕を握り、立たせて歩くことを促した。
こうして、先頭がジョージ。そのすぐ後ろにグレン君とユキオ君。
左右に
喜ばしい事にこのままのペースで行けば、王城の扉付近まで辿り着くことができるかもしれない。ミケランジェロの王が出てくるとしたら、
ただ、少し残念なのがシズクちゃんやゆらちーだ。
『百騎夜行』が買えた馬車は一頭二輪馬車で、乗車人数が二人までなのだ。
だから今回、この場にいるのは
そんな事を考えていた矢先。
ジョージの前に立ちはだかる大男が現れた。
「ようよう、よぉーう。ジョージじゃねえか」
ガサツな喋り方の男はジョージに親しげに挨拶を飛ばした。
その粗野な口調とは正反対で、ピシっと黒の正装に身を包む30代半ばぐらいと思われる
「あらぁん、ベンテンスじゃないのぉん」
ベンテンスとジョージに呼ばれた男は、自分の髪の毛をゆっくりと両手でなでつけた。そいつは黒髪をポマードか何かで固め、オールバックにしている。
さらに右目は刀傷か何かでつぶれているようで、黒スーツ姿+悪人相とか、ぶっちゃけていうとマフィアの幹部みたいな雰囲気を出している。
「元気そうじゃねえか、ジョージぃ。おめえさんには世話になってるから、たまには連絡くれると嬉しいんだがなぁ」
ほどよくかくばった
「あらあらぁん♪ あちきに興味があるのかしらぁん?」
「あんたも気になるが、そこの綺麗な
ガハハと大きな図体を揺らして笑うさまは、怖くもあるがどこか愛嬌もあり、ぶっちゃけていうと同じ男として少しカッコイイとさえ思える。
「やだん、
「そう、ケチなこというなよジョージィ。俺とお前の仲だろうが」
そう言ってベンテンスの兄貴はグイッとグレン君を押しのけ、俺に近づいてきた。
「よぉう、嬢ちゃん。俺は『黄昏時の酒喰らい』って
差し出された右手は太くてごつい。
握られたら、つぶされてしまいそうだ。
俺とベンテンスとの間では体格差がかなりあり、山のような大きさの彼を見上げる。
油断のならない相手に、俺はニコリと微笑みドレスの裾を両手で掴む。
そして軽く膝を折り、頭を下げる。
「タロと言います。ジョージとは懇意の仲であるとか。どうぞ、今後ともお見知りおきを」
握手は遠慮させてもらった。
「おおう、ちっこいくせに、肝っ玉の据わった嬢ちゃんだなぁ? いい友達じゃねえかジョージぃ」
「えぇん、そうでしょうともん♪」
「んで、嬢ちゃんや。その
ズイッと顔を近づけてくるベンテンスに、思わずたじろぐ。
彼は俺の肩にちんまりいる小人を凝視して、ニマリと笑う。
「挨拶代り、いや友好の印として俺に教えてくれねえか」
やっぱり来たか。
この質問が。
どうやら周囲も、話の流れに耳を立てているのか、ソワソワとしだす。
さらに今更ながら気付いたのだが、ベンテンスと同じ黒スーツを着たガタイのいい傭兵が他に三人、俺達を囲む位置で立っている。
おそらく、ベンテンスと同じ
つまりそれなりの財力と力のある
どう答えるべきか。
ここで素直に妖精ですと答えれば、果たして簡単に解放してくれるのだろうか。せめて、王がよく見えそうな場所まで移動してから、こういった質問責めに受け答えしたかったのだが……。
「そろそろ、ボク達は会場の更に奥へ向かおうと思いますので」
そこで颯爽と
「そうだな。そろそろウチの姫さんがしびれを切らすところだ。機嫌が損なわれる前に移動しないとだな。というわけでオッサン、そこどいてくれ」
続いて
二人は高校一年にしては身長が高いほうだと思う。
リアルモジュールでキャラを作ったから、その背格好はなんら現実と変わらない。そもそもクラン・クランは現実との身体の誤差5cm未満でキャラクリを作らなければないのだが、敢えて言おう。
その二人が壁役としてベンテンスの前に立ちはだかっても、ベンテンスは頭1つ分高く、大熊のような威圧感を放っていた。
「あぁん? てめぇらは勝手に歩いてろよ。俺はジョージと銀髪の嬢ちゃんに話しかけてんだよ」
うるさい虫共だとでもいうように、ベンテンスは俺のクラスメイトを見下す。
「そうはいきません。ボクたちは貴方が言う『銀髪の嬢ちゃん』とお友達なので」
「早い話が、おっさんに構ってるヒマはない、だ」
二人の不退転な態度に、少し苛立ちを募らせたのかベンテンスのこめかみに一筋の脈が走る。
「おまえら、どこの誰だ?」
「百騎夜行のユウ」
「同じくコウだ」
名乗りを上げる
「我は眠らずの魔導師グ「お前は知ってる、いらん。中二病のガキだろ」
グレン君の口上を遮り、ユウとコウに向き合うベンテンス。
横にいたミナも手が震えているのに、俺の前に立ってくれたりしている。
「お前らなんぞ、聞いた事もない弱小
やはり『黄昏時の酒喰らい』という
俺は脅しをかけるベンテンスを睨み、晃夜や夕輝を押しのけて自らの力で対峙しようとする。
だが、その動きを留まらせたのは、俺の肩にソッと手を置いてウフフと微笑むジョージだった。
「ベンテンスぅん♪」
「あんだよ、ジョージぃ」
向き合う二人。
ジョージもそこそこの長身であるが太さ、高さ、共にベンテンスが上だ。
そんなオカマの
俺からは自分の背が低い事もあり、さらにジョージが前を向いているからどんな表情をしているのか見れない。
興味が湧いたので、のぞきこもうとしたのだが、珍しく青い顔した
「こんなとこでぇん、私とオトコの子を取り合おうっていうのぉん? この子たちは、わたしの獲物よぉん」
オカマは
ジョージのアフロが心なしか1.5倍に膨れ上がったような気がする。
さらに、二の腕の筋肉がモコリと動く。
どうでもいいが、晃夜と夕輝、ドンマイ。
さすがはイケメンだよお前ら、さっそくオカマにターゲットされたな。
ほんと、イケメンに生まれた事を呪うんだな、ざまぁ。
「お、おうっ。ジョージィ、そんなこええ顔すんなよ。今日はせっかくの宴だろ? そりゃあ俺だって普段より
表情はいかついまま、強面のベンテンスであったが、額には汗が流れ始めている。
「あたしのお友達がぁん、気を悪くする前にぃん、また場を改めて会いましょぉねぇン?」
「……お、うよ。おら、おまえら行くぞッッ」
ベンテンスがそう言うと、黒服の3人は彼の後に続いて更に会場の奥へと進んでいった。
彼らが去った後、
「
「しかし、なぜもっと早急に奴を追い返さなかったの、ですか?」
ぎこちない敬語を使うグレン君にジョージは満面の笑みで答える。
「だってぇん、彼。お得意さまだものぉん」
オカマは上機嫌にウフンっと投げキッスを、去り行くベンテンスの背中に飛ばす。
なるほど。
ジョージが作る
タダの男達に天使ちゃんのエスコート役は務まるのかしら。
なぜかジョージの言葉が俺の頭に残響していた。
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