44話 オカマと神官少女と平穏な日々
『実は……『
アンノウンさんの頼み事とは、何の事はない。
俺が譲渡した素材、『
そのため、一つしか渡していなかった塗料は消失。
さらなる『
『申し訳ないでありんす……』
フレンドメッセージから伝わってくるアンノウンさんの声音は、酷く落ち込んでいるようで、覇気がない。
だけど、俺からしたら『透明な灰暗色』はスケルトンから採取できるお手頃な素材だ。色を生成するのに、『インク』代は100エソとかかるが、『
『ぜんぜん大丈夫ですよ! 任せてください』
錬金術も失敗はつきものなのだ。
裁縫も、アンノウンさんも、失敗を積み上げていく同士だというのが、ちょっぴり嬉しくて。
ついつい大言壮語したくなってしまう。
『何個でもあげます! アンノウンさんの満足いくまで『
そうと決まれば、俺とミナで『浅き夢見し墓場』でスケルトン狩り兼撮影会を敢行し、うなだれるアンノウンさんに満面の笑顔で塗料を20個ほど譲渡したのだった。
狩りに狩り尽くされ、魂をも写真に引き抜かれたスケルトンたち。
「タロ氏……こんな、たいそうな数をもらうても宜しいので?」
「もちろんです! アンノウンさんの染色には期待してるんですから。こんなので良ければ、俺とミナで何個でも用意します。な、ミナ?」
それに思わぬ
「はい、天士様。全部、天士さまのご意向のおかげです。ア、ア、ンノウンさん、よろしくお願いしますっ」
「ミナもすごい手伝ってくれたじゃないか。二人だから、こんなにすんなり集められたんだ」
「天士様が全てです」
染料の譲渡数に申し訳なく感じているであろうアンノウンさんに、ミナと俺は少しでもその気持ちを和らげようと、お安い御用だってことを伝える。
「うぅ……タロ氏やミナ氏の心ずくし、げに美しきかな。お二方の友情に見劣りしない、否、それ以上の大成を必ずや実現してみせるでありんす」
妙に気合いの入った言葉を残して、アンノウンさんは颯爽と俺達と別れたのであった。
意気揚々と遠ざかっていくアンノウンさんの
「さてさて、ミナよ。錬金術を始めようか」
「はいです!」
輝剣屋に向かう道すがら、俺は
スケルトンの撮影会では、予期せぬ収穫が俺達の手に落ちた。
それは『浅き夢見し墓場』の帰り道、『始まりの草原』を横断しているときだった。
茶色のブタが出現したのである。
奴は口元に
ミナいわく、体長と体高が共に1メートル程あるこのブタ、名を『いのブタッピ』というモンスターらしい。
『始まりの草原』と言えば、初心者の
スライムと比べて経験値が10倍以上もあり、初心者が見つけようものなら即座に飛びかかって、成長の糧にする対象らしいのだ。そのため、クラン・クランのサービス開始からここ数日、ミケランジェロ周辺の
普段は温厚で、のんびりと草を
特にレアモンスターというわけではないが、せっかく遭遇したのなら『古びたカメラ』でパシャリと撮らえてから、戦闘に挑んだ。
こちらの攻撃を受けると、『いのブタッピ』は『ピッピィィィ!』とブタにあるまじき鳴き声で叫び、その黒くつぶらな瞳を怒りの形相に変え、単調な突進攻撃を繰り返してきた。
このブタは怒ると身体がピンクに染まるらしく、まんまブタが突進してくる錯覚に陥って少し困惑したりもした。
どうにも腑に落ちない可愛らしさを持つ『いのブタッピ』の攻撃を、俺とミナはかわしていき、横合いから難なく攻撃をヒットさせて倒す。
するとどうだろうか。
やはり新しい色が取れそうな写真を入手することができた。
さらに俺は体皮がピンク色に染まった時に写真へと魂を収めたら、写真に変化があるかもしれないと踏み、次にエンカウントした『いのブタッピ』を怒らせてから、『古びたカメラ』で撮らえて倒すと、案の定違う色が抽出できそうな写真をゲットできたのだった。
それが今回の戦利品。
「やっぱり錬金術は奥深い……」
輝剣屋スキル☆ジョージに到着し、様々な色に触れていると、自然と錬金術に対する畏敬の念が口から出てしまう。
「天士さま……
一瞬オカマへチラリと視線を向け、心配そうにミナが独りごちる。
「アフゥンッ♪」
そんなミナに呼応するジョージ。
錬金術に没頭する俺とそれを気遣うミナ。カウンターから店の外を眺めたりしているオカマ。
これが、俺達のお決まりの日常風景になりつつある。
「大丈夫だよミナ。それに、ここは
「……天士さまがそうおっしゃるのであれば」
それから数日間、賢者ミソラさんの事もあるから、他の
てっきり、再び『一匹狼』のヴォルフとヴァイキンが絡んでくるだろうと予測し、常にミケランジェロにいるときは警察よろしく
なので、
スケルトンから撮れた【
モフウサから撮れた【
更に、『始まりの草原』で出現する最弱モンスターのスライムを写真に収め、色を抽出してゲットした【
それに加え、いのブタッピの通常時で撮れた『
これらを素材にとことん錬金術を試し、いくつかの新たなるアイテム生成に成功した。
色、つまり塗料の使い道は大きく分けて、2種類だった。
1つ目は『合成』
素材やアイテムと合成して、色を付ける。そして、新しい素材やアイテムが出来上がる。
例えば、素材だったら『石コロ』と『
通常の石コロよりも、弾力性があり、なおかつ青い石コロだった。
このように色付けをする事で、全く新しい素材を生みだすことができた。
これらを元に、アイテム生成の可能性はさらに広がり、武器や防具の素材になるようなモノも新たに造り出せないか、目下研究中である。
また、アイテムに至っては『ケムリ玉』と『
そして、色の使い道の2つ目は『塗る』だ。
これは専用装備、『
この『
【
装備条件:知力100 力1 MP20
レア度:1
ステータス:色力(色彩ボーナス)
射程範囲:3メートル
という感じの装備品なのだが、装備条件にゴミステータスと言われている知力が100も必要であり、肝心の色に至っては効果を付与するような存在が今までなかった事から、街のNPCが経営している店頭で500エソという安価で売られていたものの、何の要素に使えるか全くわかっていなかったらしい。
だが、今は違う。
少なくとも、俺の手に渡った時点でこいつは立派な武器になりえる。
まず、この筆の使用方法なのだが、使いたい『色』をアイテムストレージから瓶ごと出すと、筆の先がその『色』に染まる。
あとは
そうすると『色』の効果が武器や防具に付与できる。
飛び塗りは筆の先を向けると、射程範囲内であったら『色』のポインタが出現する。『射ろ筆(小)』の場合、射程範囲は3メートルと表記されているので、きっと3メートルまでポインタが出現する。
『
ちなみに
また、ステータスの色彩ボーナスという項目の通り、直塗りの方が『色』の効果付与ボーナスが高く、飛び塗りの方が低いようだ。
先日の『一匹狼』の件が、【妖精の舞踏会】では何が起こるかわからないという不安を残したのは言うまでもない。ならば、準備できることは全てやっておきたいという考えに至り、とことん錬金術を試し、結果的に様々なアイテムを生みだす原動力になった。
問題は光から抽出した色の扱いだった。
モンスターから撮れる色に関する錬金術はコストも低く、手に入りやすいものばかりなので色々と実験できる機会が多かったが、光から抽出する色は希少性が大きく、その使用用途も現時点では不明である。
『妖しい魔鏡』で集束させた【
既存の金属として販売されていなかったので、またもや独占市場をいいことに、強気の値段設定で5000エソにしておいたら、即売れだった。
これをミナの袴代の一部にしようと思っていたのだが、なかなかアンノウンさんから
そんなこんなで、俺達は着々と【妖精の舞踏会】に備え、当日は
喜びと発見、オカマと神官少女が傍にいる、平穏な日々が続いたのだった。
そして、あっという間に三日間が経ち、【妖精の舞踏会】が開催される日になった。
◇
【妖精の舞踏会】当日。今日は万人の休日でもある、日曜日。
俺はクラン・クランにログインし、お決まりの
「やっほぉん、てんしちゃん☆」
「こんにちは、天士さま」
約束していた時間の10分前にログインしてきた俺だが、二人は既にログインをして待っていたようだ。
ウキウキしているオカマと、どこかそわそわしている金髪神官童女。
ミスマッチな組み合わせの二人だが、今日の舞踏会のお伴はこの二人なのだ。
「二人とも、もうログインしてたんだ」
正直、俺も内心は興奮気味なのだが、至って平静な態度でジョージとミナに挨拶をする。ジョージの同類、もといオカマとキャッキャはしゃぐとかごめんだぜ。
「そうよぉん! いてもたってもいられないわぁん! ついに今日から舞踏会が始まるわよぉん! 素敵なダ・ン・ナ・候補探しの始まりよぉぉおん」
「天士さまをお待たせするわけにはいきませんので」
現在時刻は午後1時。
イベント【妖精の舞踏会】は各町、各都市で午後2時と午後10時、一日二回開催される。期間は二週間で、その最中であれば何度でも足を運んで目ぼしい
「妖精の舞踏会ぃん♪ 一体、なにが起きるのかしらぁん! いいオトコがたぁーっくさん集まるわよねん!?」
「天士さまと一緒に行けるのが、ミナはとても嬉しいです」
テンションMAXなジョージに対し、ミナは平常運転だ。
どころか少し、陰りがある。
やっぱり、未だにアンノウンさんから
「ミナ……やっぱり今日いくのは……」
アンノウンさんの報告を待ってから出席するのでも遅くはない。せっかくの舞踏会なら二人で、着飾って行く方が楽しいと思いなおし、今日いくのはやめにしようと俺が提案しようとした時。
決して鳴る事のない、来客の知らせのベルが入口から発せられた。
カランコロンと心地よくも乾いた音が俺達の視線を色ガラスのドアへと集中させる。
もしかしてアンノウンさんかな!
そんな期待を込めて、向けた視線の先には。
「やぁよぉ、タロちゃん。それにタロちゃんのご友人たち」
その澄んだ空色の髪の毛をすっぽりと隠すように、目深なとんがり帽子をかぶる美少女が入店してきた。
スキル☆ジョージの門戸を開いたのは、賢者ミソラさんだった。
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