10話 小人の正体


「場所、借りちゃってすみません」


「いいのよぉん♪ 天使ちゃんならいつでも大歓迎だわぁんっ」



 俺は今、輝剣アーツ屋スキル☆ジョージにいる。

 ミソラの森から帰ってきた、夕輝ゆうき晃夜こうや、俺の三人はいったん解散することになった。

 

 それというのも、夕輝ゆうき晃夜こうや傭兵団クラン『百騎夜行』に敵対する傭兵団クラン、『百鬼夜行』が他の団員にちょっかいを出してきたらしい。

 ゆえに、二人はその対応に急ぐため、俺とPTを解散することになった。


「天使ちゃんがぁんっっ錬金する姿はいつまででも愛でていたいわぁん」


 なぜ、俺がこのオカマの店にいるかというと。

 それは客が、人がいないから。


「外だと落ち着いて、錬金術ができなくて……」


「まぁそうねぇんっっ。天使ちゃんきゃわいいからぁん、たっくさぁんナンパされるでしょぉん」


 ナンパもそうだが、じろじろと見られるのはどうも錬金術に集中できないのだ。

 だから人のいなそうな所、つまり輝剣アーツ屋スキル☆ジョージにお邪魔させてもらっている。



「ありがとうございます」


 この店、大丈夫かな。ヒトの少なさにつけこんで、錬金術をしている俺が心配することじゃないが、サービス初日とはいえ誰も客が入ってくるところをまだ目にしていない。


「うふふッッ♪」


 主な原因は、まぁ、店主の外見だろうなぁ。この店は輝剣アーツが外からも見えるように、壁がほとんどガラス張りになっており、外からでも店内の様子が見れる。

 だから、カウンターで獲物(♂)を待ち伏せている、ショッキングピンクのアイシャドウが濃ゆいパンチパーマなオカマがいたら誰も入店しようとは思わないだろう。


 商品が並ぶショーケースに、新しく緑の光を放つ品物・・・・・・・が置かれているのを横目に、この店の残念さを考えながら錬金術を開始する。



「ジョージさんは『ミソラの森』を知ってますか?」


「ジョージでいいわよんっっ♪」


 俺はミソラの森から持ち帰った素材を『変換』しつつ、気になる事を訊ねてみる。


「じゃ、じゃあ……ジョージは『ミソラの森』を知ってますか?」


「知ってるわよぉん。ベータテスト期間によくモフウサを狩りにいったわぁん」



『水』の上位変換失敗で『汚水』と雑草の上位変換成功で『清潔な草クリア・リーフ』を生成していく。


「小人とかって見たことあります?」


「小人ぉ? そんなモンスターいたかしらぁん」


 俺は合成釜を出しながら、核心に触れる質問を続けていく。


「では、『ミソラの森』で小人・・を見た傭兵プレイヤーの話とかって耳にしたことはありますか?」


「聞いたことはないわねぇ……」



 俺の質問にジョージは不思議そうに首をかしげる。


「『ミソラの森』で賢者ミソラ・・・・・を見た? って質問じゃないのねぇ」


 そっちも気になるな。


「賢者ミソラを発見した傭兵プレイヤーはいるのですか?」


「それはいないわぁ。あの、NPCがミソラの森には賢者ミソラ様がいる~って台詞も信用できないわよねぇん」


 そうかそうか。

 そんなもんなのか。

 ミソラの森の謎は、未だ傭兵プレイヤーによって解明されていないと。


 やはり気になるな。ミソラの森で見た小人。


 今すぐにでもミソラの森に行って、また小人に会えないか探索したいところだが、店の外は暗く星の光が降り注いでいる。夜の『ミソラの森』は凶悪なモンスターが出現するらしいから、今はまだ行けない。


 おれは合成釜を混ぜ混ぜしながら、考える。

 そもそも、俺一人では昼間に出てくるモフウサだって倒せるか疑問だ。


 素早さはかろうじて、モフウサについていける程度。力、攻撃力が低すぎて、一匹を倒すのに時間がかかりすぎる。



:浄化水+スライムの核 → 翡翠エメラルドの涙:

:『翡翠エメラルドの涙+2』が生成できました:


 ミソラの森で見た小人のことを考えながら、翡翠エメラルドの涙を追加で5個生成していって気付いた。


 俺、キャラレベルが3に上がってるんだ。

 レベルポイントをステータスに振り分けるのを忘れていた。攻撃力が足りないなら、力に振りわければいいじゃないか!


 すこし熟考してから、俺はレベルポイントの振り分けを実行する。




キャラクター名 タロ


レベル3


H50(+10) MP35(+10) 力1 魔力14 防御2 魔防8 素早さ100(+47) 知力110(+33)



 ドヤァァァ!


 素早さと知力が夢の3ケタ超え!


 今回は素早さ重視でレベルポイントを振ったが、錬金術師としては知力も存分に上げております。



 え?

 力を上げる?


 俺のメイン武器、【小太刀】『諌めの宵』の装備必要ステータスが力1なんですもん。必要ないわ!

 それより素早さを上げて、圧倒的スピードと手数で押し切るとか男のロマンでしょうよ。


 これで、モフウサ対策も万全だわドヤァ。



【小太刀】諌めの宵・攻撃力+18(+9) 技量補正G


 何気なく、メイン武器である『諌めの宵』を確認してみると。

 攻撃力+18?

 なぜか攻撃力が上昇していた。


 おかしい。俺の記憶が正しければ、【小太刀】『諌めの宵』は攻撃力+10だったはずだが……これが技量補正Gの影響なのか?

 しかし、技量補正ってなんだ。

 同じ武器をつかっていけば馴染むとかそういうたぐいのモノなのか?


 よくわからないが、攻撃力が増えたのなら願ったり叶ったりだ。



 よし! あとは今回の冒険で手に入れた新素材を試す時がきた。


 モフウサがドロップした『赤い瞳の石レッドアイ×11』とミソラの森で採取できた『イモムシ×7』。

 さっそく、それぞれの説明文に目を通す。


 赤い瞳の石【モフウサの瞳が魔力を失ってできた石】。

 イモムシ【栄養満点のイモムシ】。


 どちらもそのままだな。

 とりあえず俺は『赤い瞳の石レッドアイ』が上位変換可能か試す。


 銅の天秤の左皿に一個ずつ、その赤い石を乗せていく。

 10個で天秤が平衡になったことから、上位変換に必要な素材数は10個か。


『水』と同じで多いな……。

 ここからが本番だ……。



「『変革の銅法』!」


:MP30 → 25になった:


 まずは『変革の銅法』で『変換』の成功率をアップさせておく。


「『上位変換』!」


 さぁ我が手で煌めけ、赤い宝石よ!


 銅の天秤は俺の掛け声と共に眩く光、左皿に載っていた物質は瞬時に消えた。

 そして右皿に、透き通った赤くてゴツゴツした石が出現した。


:レシピに『赤い瞳の石レッドアイ×10』の上位変換、成功 → 紅蓮石×1が記録されました:


 紅蓮石【紅蓮の炎を宿す石】


 フハハハハハ!

 熱いぞ錬金術!


 次は栄養満点のイモムシじゃ!


 しかし、イモムシは7つおいても天秤が平衡にならなかったので、上位変換をするには素材数が足りなかった。ショボーン。


 だがまぁよい。

 これより合成を始める!


 銅の合成釜に『紅蓮石』を入れ、二つ目の素材は何がいいのか、どんどん素材をかざして様子を見ていく。

 しかし、俺のテンションとはうらはらに、合成釜の中に浮かぶ星空は曇り空ばかりになる。


「……合成をキャンセル」


『紅蓮石』は釜からチュポンっと音を立てて、俺の懐に戻っていく。


 今のところ紅蓮石に合う素材は手持ちにない……と。

 仕方がないので、上位変換をできなかった『イモムシ』を釜の中にポイッと入れる。


 さてさて。こいつと相性の合う素材は……『ミコの実』だった。

 釜の中は澄み渡り、きらきらと輝いている。


 ミコの実【栄養価の高い赤い実】

 ミケランジェロで拾ったり、ミソラの森で収穫できたなんの変哲もない素材だったな。

 

 これはいけそうだ。


『ミコの実』をポチャンと釜に落とし、鍋を混ぜ混ぜ。

 釜の温度は中火で様子を見る。

 

 色は『イモムシ』の白っぽいクリーミィと『ミコの実』の赤い色が旨い具合に重なり合っているようだ。匂いは、正直キツイ。卵と土が腐ったような感じ。


 粘り気は驚くほどスッキリしており、ほとんどかき混ぜ棒に絡みつく重さを感じず、ただの液体をピチャピチャしている感覚だ。注意しないと混ぜるスピードが速くなりかねない。

 

 それ以降、特に変化も見られず、釜の中の液体は白と赤が混ぜこぜな色のままだった。


 これ、失敗かな。

 そう思ってしばらくすると、成功を意味する青い煙が立ち込めた。


:イモムシ+ミコの実 → 過激なあめ玉:

:『過激なあめ玉』が生成できました:

:合成レシピに記録されました:


過激なあめ玉

【イモムシ風味の過激な味がするアメ玉。使用すると、1分間だけステータス・力+10になる】



「ふぉぉぉぉおおおお!」


 赤と白が混ざったアメ玉をかざし、おれは大興奮する。


 どうだ。これが錬金術なのだ。

 力なくとも、力を錬金術で生めばよし!

 

 金塊欲すらば、錬金術で金を作るべし!


 ふはっははっは。

 これで俺の攻撃力不足はカバーできるというもの。


「天使ちゃぁんわぁ、作った錬金アイテムとかぁ売りには行かないのぉ?」


 俺がえつに入っていると、ジョージがまっとうな疑問をぶつけてくる。

 いたのか、オカマ。


「どうやって売るのですか?」


「あらぁあらぁ、これはおねいさんが教える必要があるわねぇん♪」




 ところ変わって、ここは賞金首と競売ウォンテッド

 あらくれ共である傭兵プレイヤーが集まる、市場だ。

 

 あれから『過激なあめ玉』を6個作り、全部で7個にしてから、オカマに案内され、『翡翠エメラルドの涙』を売りにいくことになった。


 賞金首と競売ウォンテッドは、広場にクエストボードと呼ばれる木製の板に張り紙が何枚も貼られており、その紙に書かれている内容がクエストだ。いわゆるクエストを探して受注し、探す場でもある。


 今は夜のため、クエストボードの前にはかがり火が配置されている。

 ゆらめく炎に群がる傭兵プレイヤー達はまるで、光に集まる虫のようだった。


「相変わらず、にぎやかねぇん」


 クエストボードは酒場と呼ばれる建物にも併設されているらしいのだが、賞金首と競売ウォンテッドの方がクエストの種類も数も豊富らしい。


 賞金首と競売ウォンテッドのもう一つの機能としては、競売だ。プレイヤーが手に入れたアイテムや装備品を、ここで競売にかけるらしい。

 ただし、ここで商品を競売にかける場合、一定率を税金として売り上げの金額を持っていかれるらしい。


 税率は都市によってそれぞれ違うそうで、税から逃れるには、ジョージのように自分の店で商品を売ること。

 


「今日は素材が安いわねぇ」


 ジョージは競売を眺めながらつぶやく。


 競売はNPCらしき人間達が管理しており、巨大な板に数字が書かれた小さな札をはめ込んでいき、次々と競売にかけられている値段が変動していく。


「やっぱり初日だからかしらぁん……ここらへんで手に入る素材は売っても、税金で搾取される金額抜いてほとんどが1エソだわねぇん……」


 この板に書かれている値段は、傭兵それぞれで見えているものが違うのだ。

 つまり、ジョージと俺で見えている数字や品物の名前が違う。


 競売の前でメニューを開き、気になる商品を検索にかけると、その商品についての値段があの巨大な板に見えるのだ。



「ポーションの相場は……」


 俺もさっそく、アイテムのカテゴリから回復系統を選択肢、ポーションの項目をタップしてみる。


 すると競売の板はカシャカシャと表示されてる札が変化し始める。


 ポーション【HPを1分間で120回復】・・・・・380エソ  出品者 エルリック

 ポーション【HPを1分間で120回復】・・・・・400エソ  出品者 ヴォルデモート

 ・

 ・

 ・

 ・

 ポーション+1【HPを1分間で180回復】・・・・580エソ  出品者 エルリック

 ポーション+2【HPを1分間で240回復】・・・・860エソ  出品者 マゾヒスト



 すごい高値で取引されていた。


 だがやはりポーションは、NPC店のアイテム屋で買っている傭兵がほとんどのようで、在庫はたまっているようだ。

 出品数が多い。


 +値のついたものは、一部の高レベルプレイヤーが極稀に買うそうで、在庫も品薄だった。

 

 俺の『翡翠エメラルドの涙+2』はHPの回復量200という数値から見て、860エソで取引されている、『ポーション+2』を少し下回る回復力を持つ。しかし、ポーションが徐々にHPを回復していく仕様と比べ、こちらは一瞬で回復だ。

 

 つまり、ここの相場で出品すれば860エソは固いはず。


「ジョージ、ここミケランジェロの税率はどれぐらいですか?」

「アイテム系統は一律、5%よぉん」


 860の5%……43エソか。粗利は817エソというわけか。

 俺にとってはずいぶん美味しい商売だな。



『純水』という『水』を1000本必要な素材から、ポーションを作ってる傭兵プレイヤーたちからしたら、労力に見合わない値段だろうけど。


 競争相手は同じポーション売りの傭兵プレイヤーより、目下はNPCのアイテム屋か。

 アイテム屋が徐々にHPを120回復するポーションを1個30エソで販売しているのだから……。

 

 さらに競売の+値ポーションの値段を踏まえて……。

 俺は『翡翠エメラルドの涙』を3つ程、競売に出品した。

 値段は『ポーション+2』の860エソよりも300エソ安い、560エソでだ。



 他に『翡翠エメラルドの涙』を出品している傭兵がいなかったのもあり、価格設定に関しては俺が決めるしかない。


 ついでに『過激なあめ玉』の相場を確認すると、一つあたり30エソで取引されていた。

 大した値段にもならないので、『過激なあめ玉』はすぐに使う予定だし、売らずにとっておくことにしよう。


「よし……ジョージ、案内ありがとうです」

「あらぁんいいのよぉん。天使ちゃんに変な虫がつかないように、わたしがちゃぁーんと見張ってたからぁン♪」


 パンチパーマなオカマが周囲に睨みを利かすと、数人の傭兵プレイヤーが視線を逸らす素振りはしたのは気のせいだろうか。

 

 凶悪なジョージの顔に、ふと光がさす。

 朝日だ。


「そんな怖い顔をしないでください。せっかくの美人が台無しですよ?」


「ぅんもぉぅッ☆ 天使ちゃんッッたらぁ」

 

 俺のリップサービスに、身をよじらせクネクネするオカマ。


「じゃあ、俺はいきます」

「あら、どこへいくのぉん?」



「もっと、高みへ」



 出発の時だ。

 夜だとミソラの森は危険だが、陽が出始めたなら、今の俺でも大丈夫なはず。


「あらあらぁん、やる気満々ねぇん。でも無理は禁物よ?」


 心配するオカマに、俺は満面の笑顔で答える。


「ジョージの立派なお店にふさわしい、商品を置いて・・・・・もらいたいので」


 さきほど、ジョージのお店で目に付いたもの。


 それは新しく陳列された商品。


「あらぁん……天使ちゃん、惚れちゃうわよ? ウホッ」

「掘れませんよ(♂)」


 それは緑色に輝くポーション——


 俺があげた『翡翠エメラルドの涙』が、ジョージのお店の商品陳列ケースに鎮座されていたのだ。


 商品札には『天使ちゃんのポーション』と書かれ、値段はなんと1億エソだったのだ。




 値段が示すその意味は——


 俺が初めて成功させた錬金術品をとても大事に扱ってくれ、売る気なんて毛頭ないってこと。そして、それだけの価値をつけてくれたジョージの意向に照れくささを感じつつ、俺はミケランジェロを発った。



 ミソラの森へと、小人を探しに。




 ジョージと別れてから10分弱で、ミソラの森に到着する。

 

 道すがら数匹のスライムをほふり、『スライムの核』を3個手に入れた。

 【小太刀】諌めの宵の攻撃力が上がったからなのか、スライムを一撃で葬り去ることができるようになり、レベルアップを実感した。



「ふぅ」


 俺は使えそうなアイテムのストックを確認し、小太刀を油断なく構える。


 『翡翠エメラルドの涙』2個と『過激なあめ玉』が7個。

 このアイテムを頼りにモフウサを倒しながら、以前小人を見た場所を目指していく方針だ。


 今回はソロのため、採取はせずに周囲を常に警戒しながら森の中を進んでいく。

 その姿勢が功を成したのか、数メートル先でフワフワとただようモフウサを発見する。あちらはまだこちらに気付いてない様子。

 


 数は一匹。

 

 やれる……か?


 俺はアイテムストレージから『過激なあめ玉』を取り出し、口の中に入れる。すると、なんとも苦い味が口内に広がり、自然と顔をしかめてしまう。

 

 ……これがイモムシ風味。


「うぇぇえ……」


 まずさに耐えながら、自分のステータスを確認すると、力が11に増えていた。

 

 これで攻撃力強化も完了、準備は整った。

 強化が持続する残り時間は55秒。


 俺は全速力で駆けだし、モフウサに不意打ちをしかける。


『ピョン?』


 接近に気付いたモフウサはこちらを振り返るが、もう遅い。

 

 小太刀を上から下へとふるうと、モフウサはひるんだようにフワっと後方にさがる。

 確かな感触に手ごたえを感じた俺は、間髪いれずに小太刀を突き刺し、二撃目もヒットさせることに成功する。



『ピョンピョ……』


 これはモフウサが魔法を詠唱するときの鳴き声か。


『ピョン!』


 とっさに、モフウサの正面から体をひるがえし、モフウサから見て右側面に移動する。

 狙い通り、火球はさっきまでいた場所をむなしく通過していった。


 これがステータス素早さを上昇させた恩恵なのか。前回と違い、モフウサの攻撃に反応することも、避けることも可能なスピードを自分が持っていると確信する。


 そのまま、俺は小太刀を逆手に持ちかえ、ばってん印をつけるようにモフウサを切りつける。


『ピョウン』


 モフウサはまたもやひるみ、空中にほわんと跳んだ。


『ピョンピョピョン!』

 

 頭上から反撃の火球を飛ばしてくるが、俺は身を低くした体勢から地面を転がるようにしてかわす。


「しっ」


 そのままモフウサの着地地点に移動し、更に3回切り裂く。

 するとモフウサは消滅していった。


「……『過激なあめ玉』を使用すれば7撃でモフウサを倒せるのか」


 単独でのモフウサ撃破の喜びをかみしめつつ、俺は更に森の奥へと進んでいった。





 あれから数匹のモフウサと遭遇したが、無傷で倒すことに成功した俺は見覚えのある地点までたどり着いた。


 さて、どうやって小人とまた会うことができるのか。


 すでにおおまかな算段はつけている。

 

 とりあえず、アイテムストレージからミケランジェロや森で拾っておいた『石ころ』を取り出し、適当に上空へと投げつけてみる。

 

 そう、小人がニョキっと出てきたあたりに石コロを投げて、反応を見る計画だ。

 だが『石ころ』は放物線を描き、どこかへと落ちて消えていった。


「…………」


 俺のステータスじゃ、小人が出現した高さまで石ころが届かない……。

 

 何か高さを稼ぐ方法は……。

 周囲を見渡す限り木、木、木、木しかない。

 つまり、木によじのぼってから石ころを投げる。


 それしかない。


 俺は小さな体を駆使して、なるべく多く枝のついた登りやすそうな木を選んで、木のぼりを試みる。

 だが、手足の短いこの体では木をよじ登るというのは至難の業であり、ぶっちゃけ不可能だと諦めかけていたそのとき。



 妙に柔らかい・・・・木があった。


 何気なくみきを掴んでみると、ブニっとゴムのような弾力性があり、手に吸いつくような感触だった。


「変な木もあるもんだな……」


 自分がつかまっても滑らない事を確認した、その不思議な木によじ登っていく。


「まぁいいや」


 適当に太い枝まで辿り着いた俺は、落ちないように注意しながら、枝の上に乗り、再びアイテムストレージから『石ころ』を取りだす。


「そいっ」


 掛け声と共に小人が出てきたあたりの空へ『石ころ』を投擲すると――――

 空に波紋が生まれ、石ころは空へと吸い込まれていった。


 

 やはり。

 この『ミソラの森』の空模様は常に変化がなく、昼も夜も晴天。


 つまり、この上空に描かれた空は、何者かによって作られた仮初の空に違いない。

 


「石ころは……戻って落ちてこない。小人も石コロに釣られて、出てきたりはしないか」

 

 あちらに入ったら、戻れない可能性がある。

 ただ、わかったことは、あの高さまでたどり着くことができれば小人の世界(仮)? に入れるかもしれない。


 ついでに、あちこちの上空に石コロを投げてみるが、波紋が生まれて吸い込まれたのは、小人が出現した周囲のみで、それ以外の範囲では普通に石コロは重力に従って落下していった。


「さて、どうやってあの高さまで行くかだな……」


 俺は木の枝に座り込みながら考え込む。

 

 目の前にある分かたれた小さな枝をつまんでは離しを繰り返し、ビョーンと震える様を見つめながら思考する。


「それにしても、この木はブニブニしてて変な木だなぁ」


 自分で言って、俺はとあることに気付く。


 その場で軽くジャンプしてみると、枝はグイっと下がり、その弾力に従って俺を押し上げ、1メートルほど体が宙をさ迷った。


「お、おうっ」


 バランスを崩しそうになったが、必死に枝にしがみついて着地する。


「あぶない、あぶない」


 だが、これはいけるかもしれない。



 俺は意を決し、枝の先端付近に移動して思いっきり飛び跳ねてみた。

 枝に着地するとその弾力性のおかげで、枝全体がグインと曲がり、そして戻ろうとビュインッと俺を上空へと弾き上げる。


「わああっ」


 さらに高度を上げた俺が、また枝に着地すると、先ほどよりも大きく枝は曲がり、ギュニョンッと俺を空へと舞い上がらせた。


 あ、やばい。

 体のバランスを崩した。

 

 この高さから枝を踏み外したら確実に死ぬ。

 

 『ミソラの森』を一望できそうな程の高度まで上がった俺を待ち受けていたものは。



 トプンっと水辺に沈む・・音だった。

 

 水面にダイブしたような感触を顔面から味わい、ついで上半身、腰、太ももと続く。

 

 空へと突入した俺の目にうつったのは、地面から這い出るように、いや、まだ足の部分が地面に埋まっているのだが、とにかく地面から生えた俺の身体だった。

 

 空から地へ。

 

 上空の見えざる水面は、小人の世界(仮)の地面に繋がる仕組みになっていたのか?

 

 とにかく俺は足を地面から引っこ抜き、あたりを見回す。



 そこは。

 植物が水晶のようなきらめきを放つ森だった。


 木々は茶色く透き通っており、またしげらす葉も緑色だが透明だった。

 地面だけがただの土であり、それ以外の植物は全て結晶でできているかのように美しかった。

 咲き誇る花々も、様々な色彩の結晶から成っており、赤、黄、青、紫、ピンクと輝かしい。



「綺麗だ……」

 

 俺が感動で呆けていると、背後からふと声がかかる。

 

「あ、人間・・だ!」


 甲高い声に驚いて振り向くと、そこには羽の生えた小人が一匹、宙に浮きながら屈託のない笑みでこちらを指さしていた。


「あ、小人だ」


 俺も指さしてみる。


「んん、小人? それは違うよ。ボクは、ボクたちは妖精だよ?」


 そういってせわしくなく羽をパタつかせる妖精は、大仰な素振りで両手を広げた。



「「「「そうさ、ボクたちは妖精だよ」」」」

 

 その妖精の自己紹介が合図だったかのように、木々や植物の陰から一斉に妖精たちが出現してきた。


 見つけちゃったよ、妖精の住まう森!

 


「宝石を生む森、クリステアリーへようこそっ」


 無邪気な妖精たちの微笑みに応じるように、俺も天使の笑顔を浮かべる。

 黒い感情を気取られぬよう。


「はじめまして、妖精さんたち」


 くひひ。

 ここは、すごい素材が採取できそうだ。







レベル3


H50 MP35 力1 魔力14 防御2 魔防8 素早さ100 知力110



所持金 200エソ。


装備品

頭:蝶の髪飾り

胴:旅人のコート

腕:旅人の手袋

足:旅人のズボン


右手:【小太刀】諌めの宵・攻撃力+18(+9) 技量補正G

左手:なし


アクセサリ:なし

     :なし

     :なし

     :なし

     

スキルポイント:22

レベルポイント:0



称号:老練たる少女


レベルアップ時のスキルポイント取得量が3倍。



スキル:錬金術Lv10

『変換』・・・・・『変革の銅法』『失敗は成功の王道』

『合成』・・・・・

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