第127話 プレゼント

 あたしは姉の真似をしながら、ご飯を食べる。


「うまいうまい」

「……ルリアは……基本的に姿勢は良いのよね」

「それほどでもない」


 昨日までは母が横にいて、あたしが何をしても、アドバイスしてくれた。

 だが、今日はほとんどなにも言われないので、少しさみしいぐらいだ。


 あたしが母をチラリと見ると、母もあたしを見つめていた。


「……ゆっくり身につければいいわ」

「うむ!」

「そうだ、ルリア。コンラートが来るみたいよ。遊んであげてね」

「むむ? そういえば、そんな話があったな?」


 母に遊んであげてと言われたら、遊んであげるのもやぶさかではない。

 それに悪ガキコンラートの父である王太子が、これからも迷惑をかけると言っていた。


「つまり、ルリアに鍛えてやってほしいと……」

「そういうわけではないと思うわ」


 コンラートはどうやら姉のことが好きなようだった。

 だから、一応あたしは尋ねる。


「そういえば、ねえさま。コンラートってしってる?」

「……コンラートさん? 王太子殿下のところのよね?」


 姉は首をかしげる。その仕草が可愛いのであたしも真似をする。


「そうそう。昨日会った。いとこらしいな? どんなやつ?」

「……私もあまり知らないのだけど。大人しい子よね?」

「ほう?」


 どうやら、コンラートは姉の前では大人しいらしい。

 猫を被っていたに違いなかった。


「ルリア。フォークはこうやって使うといいよ」

「おお、兄さまかしこい」


 兄からのアドバイスを聞きながら、あたしは朝ご飯をむしゃむしゃ食べた。

 朝ご飯を食べ終わると、姉が侍女に言って、綺麗な箱を持ってこさせた。


「ねえさま、それは?」

「サラに、どうかと思って……。サラ、開けてみて」

「はい」


 サラが箱を空けると、中には木で出来た人形が入っていた。

 大きさはミアと変わらないが、作りがしっかりした人形で、ちゃんとした服を着ている。

 きっとすごく高いに違いない。


「サラは人形が好きなのかと思って……その子の替わりの人形を用意したの」

「ありがとうございます……でも……」


 サラは困ったように微笑んだ。ミアの替わりはいないので困るのもわかる。


「ねえさま。サラちゃんは人形というより、ミアが好きなんだよ」

「そうなの? 遠慮していない?」


 姉は心配そうにサラに優しく声をかけている。

 ぱっと見でいえば、ミアはただの棒だ。

 だから、棒を人形に見立てて遊んでいるサラをかわいそうに思ったに違いなかった。


「はい。ありがとうございます。でも、やっぱり私はミアが好きなので……」


 一瞬、ミアの手がピクリと動いた。


「そうなのね。じゃあ、この子はミアの友達にしてあげて」

「はい! ありがとうございます」


 サラは新しい人形を受け取って、笑顔で姉にお礼を言った。

 あくまでもサラはミアが一番好きなだけで、人形自体も好きなのだろう。


「サラちゃん、よかったな!」

「うん!」

「ルリアには、これをあげよう」


 すると、兄があたしに箱をくれた。


「ん。にいさまがくれるのか、あけていい?」

「もちろんだよ」


 箱を空けると、中には木剣が入っていた。


「おお! かっこいい!」

「ルリアはこういうのが好きかと思って」

「好き! 気に入った! ありがと!」

「湖畔の別邸でも、木の棒を拾って振りまわしていたって聞いたからね」

「ああ、かっこいい棒のことだな?」


 あのかっこいい棒は、今は寝台の下に置いてある。

 探検に行くときとか、寝ているときに敵が襲ってきたときに使うためだ。


「……これで、剣のくんれんができる……ありがとう! にいさま!」

「喜んで貰えて良かったよ」


 そういって、兄は優しく微笑んだ。


 それからあたしは木剣をもって、サラは人形とミアをもって、部屋に戻る。

 部屋に戻ると、あたしはさっそく寝台の下からかっこいい棒を取り出した。


「これこれ……」

「ルリアちゃん、両手に剣をもってどうするの?」

「こうする。ふんふん! こう! ふんふん!」


 あたしは右手に木剣、左手にかっこいい棒を持ってかっこよく振り回す。


「な?」

「え?」

「ルリア、かっこいいな?」

「う、うん、かっこいい」


 サラはあたしのかっこよさに、驚いているようだ。


「おお、ルリア、二刀流であるな!」

「にとうりゅう?」

「そう、両手に剣を持って戦うのをそういうのである。スイは詳しいのである」

「ほほう? くわしいのすごいな?」


 あたしがそういうと、スイは尻尾をぶんぶんと揺らす。


「であろ、であろ? そもそもなぜスイが詳しいかというと……」


 スイは自慢げに語り始める。

 昔、仲良くしていた人間の中に、両手に剣を持って戦っていた戦士がいたらしい。


「刀……といったか。片刃の剣でな、それをぶんぶんって振って強かったのである」

「ほほー。かっこいい! こんな感じ?」

「そうそう! そんなかんじなのである。」


 あたしとスイがはしゃいでいると、

「ばうーばうばうばう」

 ダーウもはしゃぎはじめて、あたしの剣にあたりに来るので止めるのが大変だ。

 止めきれないで、少しかすることすらある。


「ダーウ、剣にあたりにこないの! あたったらしぬの!」

「わふ? わぅ~!」


 なるほどそういうルールかとダーウは尻尾を振った。

 そして、ギリギリであたしの剣を避け始めた。


「……まえに……精霊たちとこんなことした覚えがある」

『きゃっきゃ』

「やっぱりきた」


 その時、クロは剣で叩かれると精霊たちの発育にいい影響があると言っていた。


「ダーウはダメ。当たったら痛いでしょ?」

「ばう!」

「なんで、不満げなの?」

「ぅぅ~~」

「うーじゃないでしょ! あたったら、けがするでしょ!」


 どうやら、ダーウはどうしても遊びたいらしい。


「……しかたないなぁ」


 あたしはダーウの背中に乗った。


「ダーウは馬な? ゆっくりうごいて。部屋の中だからな?」

「ばうばう!」


 ゆっくり歩くダーウの背に乗って、木剣とかっこいい棒を振り回す。

 精霊たちは挑発するように近づいてくるので、剣をふって当てるのだ。


 精霊は速いので中々当たらないが、たまに当たると、

『ぴゃ~~』

 精霊は楽しそうに飛んで、

『もっかいもっかい!』

 と言いながら戻ってくる。


「すごいねぇ。精霊がぴゅんぴゅん跳んできれい」

「そうであるな! こんにちは! 朝ご飯を食べに来たのである。とことこ」


 あたしが木剣を振り回しているのを横目で見ながら、サラとスイは人形で遊び始めた。


「きゅきゅ」「こっこぅ」

「りゃあ」


 キャロとコルコ、それにロアもサラと一緒に遊んでいた。


「……ううむ。やはりしっくりくる」


 以前、精霊たちと遊んでいたときに使っていた木剣よりしっくりくる。

 これまでに使ったどの木剣とも、比べものにならないぐらい振り心地が良かった。

 重さがいいのか、材質がいいのか、長さが丁度いいのか。


「多分、全部だな! にいさまありがと! あとでもういっかいお礼いっておこ」

「ばうばう!」

「ん? 走り回りたいの? うーん。じゃあ、中庭にいこっか」

「ばう!」


 あたしを背に乗せたダーウは開いた窓から、ぴょんと外に跳びでた。


「よし、ダーウ。走って良いけど、庭から出たらダメ。わかるな?」

「ばう」

「それと庭を荒らさないようにな? 庭師の人がなくからな?」

「ばう」

「ならよし」

「ばうば~う」


 あたしを乗せて、ダーウはぴょんぴょんと駆け回る。


「おお、きもちいい!」


 ダーウがぴょんと跳ぶと、楽に二階ぐらいの高さになる。

 そこから、地面に向かって落下するときに、浮遊感に包まれるのだ。

 それがなんとも言えない楽しさだ。


『ルリア様、あそんであそんで!』

「しかたないな!」


 あたしは木剣とかっこいい棒を振るって精霊を叩こうとする。

 精霊は楽しそうにはしゃいで、剣をかわす。


「中々やるな!」

『わーいわーい』


 すごく楽しい。

 そんなあたしを窓からサラとスイ、そしてキャロとコルコ、それにロアが見つめていた。

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